27.彼の新築の家

朝になり、彼が起きてきた。
私も起きた。

朝になってみたら、興奮していた気持ちが消えていた。

彼への未練がまだあった。

昨晩の事などなかったかのように、私は振る舞い、コーヒーをいれた。
午前中に帰るという彼に、
「じゃあ車で送るよ!」と言った。
彼は「それは助かります」と言った。

私は、これで今回、また今まで通り家から離れた路地で降りて行ったら、キッパリ別れよう、それで気が済む、と思った。

高速道路を使って、片道1時間半の距離を走った。
彼の地元に着いたら、
するとどうだろう、
彼は、今までとは違うルートを指示してきた。
指示の通りに車で行くと、一軒家が見えてきた。
脇には、彼の自慢の車が停まっている。

え?
え???

社宅に住んでいたんじゃ、ないの???

びっくりして聞いたら、
「はい、一年ほど前に建てた家です。」と。

家を建てたことなんか、私は一切知らなかった。言ってくれなかった。

通販のクリックひとつで買えるようなものではないのに、恋人に一切知らせず、勘づかれることなく、家を1軒建てるって、可能なの???
とパニックになった。

私が彼にとって恋人という認識だったかどうかは、あやしいが。
でも、あえて知られないようにしていたのは確かだ。

それを、今、知らせた。
ひた隠しにしてきた事を。

「じゃあもう家に着いたからあなたは帰っていいよ」と言われたのを押し切って、
「せっかくここまで来たんだからお茶くらい飲ませてよ」と、強引に家に上がった。

本当にお母さんと二人暮しなのがわかった。

彼のお母さんは、物凄く驚いた顔をして私を見た。
彼は「友達」と紹介してくれた。
彼のお母さんは、夕飯を振舞ってくれて、「また来てね」とお土産まで持たせてくれた。

彼は、家のことを私に伝えたことで何か楽になったようで、急に家自慢をしてきた。
どこにこだわって設計したか、どこを節約したか・・・
内装のこととか、家具のこととか。

私は、上の空だった。
ショックが長引いていて。

1時間半、無言で1人で運転して帰っている時に気づいた。

前に彼が携帯を私の家に忘れて、宅急便で送ったこと。
今日の彼の話だと、今の家に引っ越したのは一年ほど前ということだけど、携帯を忘れたのは引っ越したあとのはず。今から1年以内だ。
でも当時伝えてきた住所は、今の家の住所ではなく、社宅の昔の住所だった。

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