洗面所から想いを馳せた。

洗面所へ行った。

冷房の冷気は洗面所まで届かない。
だから生ぬるい空気の中、手を洗う。

排水口が汚れていた。
塩素系漂白剤をかけた。

夏の湿気を帯びた暑い空気と塩素の匂い。

これってプールの匂いだ。

我が家の洗面所で、
子供の頃に夏を感じたのと同じ匂いがする。

山奥の学校のプールには、
いつも枯葉と虫が浮かんでいた。
枯れ葉と虫と泳いでいた。
それでもプールの中の水は綺麗で冷たくて、
透明で、
キラキラしていた。

午後になると、急に雲行きが怪しくなり、
冷たい風が吹いてくると
周りの大人たちに
「雷様（らいさま）がくるから、早く上がって」
と促され、
着替えているうちに土砂降りの雨になることもよくあった。

プールには、
また枯れ葉と虫が増えた気がした。

都会での芋洗い状態のプールとは正反対の、
誰ともぶつからないプール。
プールで泳いだ後に食べるスイカ、とうもろこし。
エアコンなんかなく、扇風機で十分涼しかった。
風鈴の音を聞きながら、
いつのまにか茶の間で昼寝。
目が覚めたら、祖母が夕食の準備をしていた。

暑い我が家の洗面所。
一瞬にして、実家へ帰った気分になった。