ギフト 日明恩

人と人との出会いって何が起こるかわからない。そう改めて思わせてもらった一冊。

元刑事と少年。出会いはレンタルビデオ店。
DVDをレンタルするってちょっと懐かしい感じがするなと思いながら、こういう所にもデジタルの簡単さと人との接点がなくなっているんだなという寂しさも少し感じました。

彼は死者や出来事が見える、死者とは会話できる。そういう能力を持っているからこそ、幼い頃に嫌な思いをして来て、他者との関わり方に悩んで来た。
私はそういう見えないものに対しては信じるタイプじゃないし、心霊の動画に関しては、注意力がかけているのか全然びっくりしない面白味のかけるタイプ。ずっと思っていることとして、見えたり、会話できるのであれば話をしたい人が一人いる。その人に出会えるのなら他の霊がついて来てもいいよと思っているからかもしれない。だから、霊感のある人にはたまに羨ましいとも思うし、そういうのを信じてないわけではない。この少年に対しても少し嫉妬した。この子はネガティブな体験をたくさんして来て、本当に辛かったと描写されているし、いいものとして簡単に捉えられるものではない。しかし、元刑事と出会うことで、能力がポジティブに使われていくようになる。そこから逃れられない人の悩みを解決していく。人はきっとこの世を満足して旅立つことは難しいのではないかと思わされる。
交通事故にしても、自殺にしても、病気にしても…きっと亡くなるときにあのときこうしていればよかったのではないかという気持ちは残ってこの世を去るのかなと。だからこそ、明日死んでも満足という人生を送っていきたいなと思う。

この小説は短編が続くドラマみたいな感じですが、一部だけ印象に残った章があって。「自惚れ鏡」という章なのですが、嘘に嘘を重ねていく。その嘘は自分の理想の自分でありたいという願望から。私もこういう自分でありたいという理想が大きくて、それは理想と自分の現状の把握ができていないのかなと近年感じるようになってから、大きな幸せを求めなくなったらとても生きやすくなった。
確かに色んなことができて、お金もたくさん持っていて、地位もあってって人を誰もが羨むし、憧れると思う。でも、きっとお金をどれだけたくさん持っていても人間は満足することがないし、いい天気だなとのんびり感じられたり、誰の目を気にせずに歩けることだったり、そういった日々の何でもない幸せを幸せと思えること、自分含めて家族が健康に過ごせることが何よりの幸せなんだと思う。地位が上がればそれだけしがらみも強くなるし、見栄を張らないといけないことや人付き合いも増えてくる。結局自分が必要としているときに助けてくれる人間の数には限りがあって。無闇矢鱈に人間関係を広げることがいいこととは思えないかな。いまの時代、SNS映えと叫ばれて、キラキラした毎日を全世界に広げないとって圧力を感じる部分もあるかもしれないけど、そういう他人から見られている部分が幸せを決めているのではなく、自分が幸せを決めているということを忘れてはいけないなと思う。

最後は彼が自分で決めて自分で歩き出す。その自己決定をできたことが若いのにすごいと思った。私も中学〜高校生に戻るのであればその決定を自分に促したい。日々人間は何千もの決定を無意識に行なっていて、人生の決定はただその延長上に過ぎない。大したことはないと思う。間違っていたらまた選択しなおせば良いし、本人の正しい選択はその時々によって違う。でも、大人は自分の子供には最短距離でいい生活を送ってほしい、自分のできなかったことは子供もやりたかったことだと考えて押し付けてしまう。それは子供に対しても負のループを生み出してしまうのではないか。きっと子供は子供なりに一生懸命自分の人生は考えているし、楽しいこと、辛いことは親と子供ではきっと違う。そういう個としての親子関係、子供の尊重はしてあげて欲しいなと思った。

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