ある日の あの日〈3〉
ある日、オイラは、
神社に捨てられた。
ようやく母さんの顔が、
見えるようになったのだけれど。
あの日、オイラはなぜか、
さとナンチャラという人間に
拾われ、今日ここにいる。
さっきから、
さとナンチャラという人間が、
何やらああでもない、こうでもないと、
頭を叩いてみたり、
髪の毛をもしゃもしゃしたり、
あごをつまんだりしながら、
出て来ない言葉を、絵の線を、
絞り出しているようなので、
隣で手伝いをしている。
でも、手はかさないよ。
だって「猫の手もかりたい」
って言えなくなると、
困るだろうから。
言葉が、詩が、絵が、なくても、
オイラは、今日もこうして
おだやかに寝られる。
でも、たぶん、きっと、
人間には、
言葉も詩も絵もあった方がいいと、
オイラは、思う。
今日を穏やかにくらすために。
発想が降ってくるとか、
降りてきたー!という人間も
いらっしゃると聞いたけど、
さとナンチャラっていう人間は、
何も降って来ないらしく、
必死に絞り出しているらしいので、
隣でお手伝いしてやるんだ。
寝てるだけじゃないよ。
オイラ、こうしながら、
実は…大事な話は、
ちゃんと聞いてるんだ。
ある日
石に腰かけて
君が紙の切れ端に書いたのは
君のほんとうの言葉
ふいに書きとめられた
君の言葉
誰にも言えなかった
君の言葉
書かずにはいられなかった
君の言葉
世界中につながる小さな画面に
つぶやかれる言葉が
もしもほんとうのことなのだとしたら
紙の切れ端に書かれた
ある日の言葉が
ほんとうのこと
ということもあるはずである
ただ誰の目にもとまらず
どこかへ行ってしまう
それがわたしたちの
ほんとうのほんとうのこと
であったとしても…
小さな紙切れの上で
君の言葉が
朗らかに 切なく
大きな息をしている
のぞきこんだのは
一匹の蝶と風
つぶやきをきいていたのは
一匹の猫 そして石だけ
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絵を、絵はがきというカタチで
描き始めたのは、2006年から。
詩も合わせて書き始めたのは、
2011年からです。
この度、ありがたいことに、
2019年から2022年頃にかいた
絵はがきと詩が、
初めて本になります。
本にして下さった方々に、
本当に心から感謝です。
石に腰かけているこの絵と詩は、
少し前、2018年にかいたものです。
実は本の中に出てきますが…
詩が載っていないページに
出てくる絵です。
もしも、本を手にして下さって、
このこを見つけたら、
こんな詩が付いてたんだなと、
思っていただけましたら…
幸いです。