2022年 果てしなき映画ベスト10
2022年は忙しいながらもたくさんの映画に出会えた一年だった。2023年1月が終わってしまう前に、「この映画に出会うために、映画を見続けてきたのだ」と思えた作品を10作挙げる。
①『恋するアナイス』(2021)
曖昧なまま流されていくのではなく、その時その時の明確な欲望のもと忙しなく駆け回るアナイスのなんと魅力的なことか。欲望の実現のためにはちょっとした嘘もついてしまうけど、自分の心にはどこまでも正直だ。その振舞いの動機は、「明日死んでも後悔しないように」。ちなみに私は“特別な相手と二人きり、大自然に囲まれている”というシチュエーションが大好きなので、この作品の海辺でのラブシーンも当たり前に大好き。文化人との恋愛ということもあり、文通の内容も素晴らしく甘美。
②『セヴェンヌ山脈のアントワネット』(2020)
監督のキャロリーヌ・ヴィニャルは、エリック・ロメールの『緑の光線』を観て監督の道を志したそう。これだけで私がこの作品を愛する十分な理由なのだけど、『緑の光線』で主人公を演じたマリー・リヴィエールが、『セヴェンヌ〜』において主人公の“インモラルな恋愛”を応援してくれる存在として登場するのだ。ヴィニャル監督も『緑の光線』を観て人生が救われたんだろうなあ…と思わずにはいられない。私がこの作品を推す理由はそれだけではない。ロメールフォロワーとされる映画監督はこれまでにもたくさんいたが、『セヴェンヌ〜』は確実にそのなかでも異質だ。というのも、ロメールっぽい痛々しい女性主人公というだけでなく、ディズニーチャンネルドラマの主人公のようなドタバタ騒ぎをする。カントリーな風景とけばけばしいファッションの組み合わせも『ハンナ・モンタナ』のマイリー・サイラスを想起させる。私は今となってはフランス映画に本籍を置いているものの、育ちはディズニーチャンネルドラマ。この異質な組み合わせ方、もしかして私が監督した??と思ってしまうほど。
③『パリ13区』(2021)
オープニングのスタイリッシュすぎるモノクロ映像と音楽だけで、全人類に勧めたいレベルで圧倒される。今でもこの曲を聴いただけで息が詰まりそうになる。2022年度のベストスコア賞は『パリ13区』で決まり。物語はミレニアル世代の男女4人の恋愛模様。なんといってもノラとアンバーの関係性が良い。女性同士の親密な関係性ということは、脚本で参加しているセリーヌ・シアマがこのパートに大きく関わっているのかもしれない。ノラとアンバーが徐々に仲を深めていく様が、会話中の姿勢や格好で表される。シアマは“画面内には収められなかった尊い時間”を、さりげなく(しかし確実に)挿入するのが抜群にうまい。重要なことは画面の外で起こっている。そういう意味では、現代のエルンスト・ルビッチはシアマかもしれない。
④『アザー・ミュージック』(2019)
ニューヨークの“音楽狂”が集まる伝説のレコードショップにまつわるドキュメンタリー。このレコードショップは、売買のやり取りだけでなく(というかむしろそれ以上に)知を深めるコミュニケーションの場であった。飽くなき探究心と好奇心を持った人間が大好きだ!確実に自分の好みをピックアップしてくるAIだけで“新たな扉”を開けるのは難しい。発見はいつも予想外のところにある。
⑤『私ときどきレッサーパンダ』(2022)
私はこの作品を、そして監督のドミー・シーを「ピクサー・ニューウェーブ」と称したい。邦題のゆるふわファンタジー感に惑わせれないように。ピクサー史上もっとも赤裸々で、残酷なほど生々しい(※毒親描写あり)。友人たちの無限の優しさに涙し、好きなものに夢中になるその瞳の輝きにまた涙する。私もオタクだから本当によく分かる。これまで散々写実にこだわってきたディズニー及びピクサーが、大胆な日本アニメ風のタッチでコミカルに表現しているところも含めて、新時代を感じさせる。メイキング映像『レッサーパンダを抱きしめて』をあわせて見ると、ドミー・シーの溌剌としたいかにも天才的な振舞いに惚れること間違いなし。
⑥『RRR』(2022)
もはや説明不用の大傑作。観るだけで体温が上がるので寒い日におすすめしたい。むしろ微熱のときは要注意。規格外の派手な演出に「愛すべきバカ映画」とでも言いたくなるかもしれないが、この映画、全くもってバカではない。“徹夜三日目の発想”みたいな驚きの連発なのに、すべてに異常な説得力がある。ナートゥが披露される直前に、インド人だけでなく黒人までも一緒に救う優しさにもう感涙…。全シーン最高!としか言えないの、これ。恐ろしい映画だね。
⑦『MONDAYS / このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』(2022)
バリキャリ映画でもなく、オフィスラブ映画でもなく、ただただ社畜映画。こんなジャンル、いままでありましたか?? 社畜(とりわけ広告代理店)あるあるネタに大爆笑。『カメラを止めるな』や『ベイビーわるきゅーれ』的な、粗削りなところもあるけど等身大のコメディに愛おしさ溢れる傑作。タイムループという掃いて捨てるほどあるこのジャンルに、日本社会ならではの上申制度をうまく組み合わせている。Lyrical Schoolによる挿入歌「TIME MACHINE」がかかるタイミングもこれ以上ないほどのバッチリタイミング。
⑧『みんなのヴァカンス』(2020)
ロメール後継者として名高いギヨーム・ブラックの最新作は、むしろジャック・ロジエに近いヴァカンス映画だ。夏の浮かれたような楽しさだけでなく、それが終わる寂寥感の両方をしっかり描く。というかギヨーム・ブラックはロメールほどのドライさは無いと思う。そばで寄り添う優しさが根っこからある人、という感じがする。あったかい。
⑨『スウィートハート』(2021)
“映画的ではない”と一蹴されがちなモノローグだが、この作品はモノローグがとにかく多い。しかしそれが観客への分かりやすい説明のためにあるのではなく、無口な主人公がその実 思慮深いことを表すためにある。周りに理解者がいないと悟ったとき、自分の考えを内に秘めてしまうものだからだ。モノローグのすべてが誠実さにあふれ、詩的な表現の数々にうっとりする。「これほどまでに溺れたいと思ったことはない」という言葉、何度も噛み締めたい美しさ。ここでもまた“特別な相手と二人きり、大自然に囲まれている”というシチュエーションがある。もしかしてこれ、『モーリス』以降、脈々と受け継がれているクィア映画の鉄板なのか……?? どうであれ最高なことに変わりない。
⑩『秘密の森の、その向こう』(2021)
ここ数年のセリーヌ・シアマの目覚ましい活躍ぶりにまばたきできない。母親の“母親ではなかった時”という視点、あるようで無かったな。私は“アンチ夢オチ”なので、不思議な経験をしたあとに、それがまだ自分の記憶にしっかり残ってると分かる物語が大好きだ。音楽についても、讃美歌のような合唱に電子楽器の煌めきが美しく響く。
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