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2022年 果てしなき映画(特集上映)ベスト10

※見出し画像はラフォーレ原宿にあったアパレルブランド・Charles Chaton内で開催された『気狂いピエロ』タイアップ展示。

2022年の旧作映画ベストは本当に決められない。なんでも即断即決な私が音を上げたからよっぽどだ。リバイバル上映だけでなく、映画祭もかなり充実していた。リバイバル上映については、とくに私が人生を捧げたいと思うほど愛してやまないこの4人全員が特集を組まれた異常事態。

エリック・ロメール
フランソワ・トリュフォー&ジャン=ピエール・レオ
ジャック・リヴェット
惜しくも2022年に亡くなられたジャン=リュック・ゴダール…

こんなの、決められるわけがなかろう。
ということで、特に良かった特集上映ベスト10という、雑なまとめ方をしてみる。

以下、開催順。

「ルイス・ブニュエル監督特集上映 デジタルリマスター版 男と女」

2022年のはじまりはシュルレアリスム映画の名匠ルイス・ブニュエルから。まさに夢を見ているように、中断と展開が繰り返されていく面白さ!“シュルレアリスム”という単語だけを受けとると、芸術性が高くとっつきにくいと思われてしまいそうだが、ブニュエルのユーモアは開かれている。デヴィッド・リンチのような悪夢感ともまた違う、耽美かつコントっぽい面白さがある。

「イスラーム映画祭7」

2022年2月に開催された。この時期はちょうどロシアのウクライナ侵攻がはじまったタイミング。イスラーム圏も紛争地域なので、上映された作品もそういった内容だった。『ラシーダ』(2002)はアルジェリア内線の劇映画だが、リアルタイムで撮られたこともあってか記録映画っぽくもあり、特に印象深い作品。紛争の恐ろしさ(女性や子供といった“立場の弱い者”へと向かう暴力)がびしびしと伝わってきて、これを観てから、また現在も同じような戦争が起きてしまっている現実に、数日間は悪夢にうなされていた。でも確実に観てよかった。自分に何ができるか分からないけど、まずは相手が誰であろうと傷ついている人がいれば手を差し伸べること。

「ジャック・リヴェット映画祭」

天界のリヴェットにラブレターを出してもいいですか? ありがとうございます。


人は「好き」の感情がある一定の基準を超えると、自然と「愛してる」が出てくるものなのですね。あなた、一見大人しそうなのにだいぶブッ飛んじゃってますね。頭脳明晰であり、クレイジーでもある。真に堅苦しい人は、“全身黒タイツにローラースケートを履いた成人女性二人組(図書館に向かっている)”なんて描いたりしませんよ。あなたが持っている独特の軽やかさが、人生に行き詰まっていた私を救ってくださいました。いま目の前で起こっていることにとことん向き合い、愛していこうと思いました。これからもたくさん映画を探していきます。良い映画を見つけたら、僭越ながらあなたにおすすめさせていただきます。それではまた、お元気で。


「シャンタル・アケルマン映画祭」

フェミニズム映画の金字塔として名高い割に鑑賞機会が滅多にない『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』をようやく鑑賞。無駄のないルーティンが、どんどん崩れていく。男性たちに奉仕するだけで、自分の時間がまるでない主婦のフラストレーションが溜まっていく様を、25歳(2022年の私と同い年!!)がここまで鮮烈に撮れることがまず驚きだ。

「エリック・ロメール監督特集上映“四季の物語”」

私にとってロメール作品を観るということは、生きる意味を確かめるということでもある。私、この人がいないと生きていけない。「四季の物語」シリーズでは特にお気に入りの『恋の秋』を映画館で観たのは今回がはじめて。「四季の物語」四部作のラストであるだけでなく、ロメールの集大成っぽくも感じられるこの作品。エンディング曲がロメールらしからぬ(?)爽やか且つ陽気な音楽で、こんなにど直球に優しい人だったのか…とまた泣ける。ロメール作品鑑賞後に訪れるぽかぽかとあたたかい気持ちが心地よくて、やっぱり定期的にロメール特集は必要だと思う。観る温泉だからね。

「生誕90周年上映フランソワ・トリュフォーの冒険」

トリュフォー生誕90周年をお祝いして、ジャン=ピエール・レオ主演の「アントワーヌ・ドワネルの冒険」シリーズが4Kで上映された時点で最高だ。肌の血色感まで確認できる。
実は私もどちらかと言うとゴダール派だったのだけど、この特集で『大人は判ってくれない』を見直して、トリュフォーの深い優しさに号泣した。「好きな映画のシークエンスは?」と聞かれたら、迷わず『大人は判ってくれない』のラストを挙げたい。1分以上も続くトラッキングショットは、孤独にどこまでも寄り添ってくれるトリュフォーの優しさだと気がついた。

「J=L•ゴダール 80/90年代セレクション」

2022年9月、菊川に新しくできたミニシアターStrangerの柿落とし。ちょうどオープンする数日前にゴダールが亡くなるという、いまでも信じがたい事態のなか開催された。『JLG/自画像』をこのタイミングで観るなんて不思議だ。私は60年代のゴダールが好きで、孤独になってまでも表現したいものを貫いた天才っぷりに憧れた。商業映画に戻ってきてからのゴダールは「この人丸くなったなあ」と思わせるマイルドさがうまれ、私にはそれが物足りなく感じていたのだけど、『JLG/自画像』についてはゴダールに対して抱いていた憧憬が良い形で炸裂した。以前ほどの挑発的態度は薄くなっているのに、やっぱり美的センスとインテリジェンスは健在で、どれだけ時が経っても遠くにいる、憧れの人だと思わせられる。

「第4回映画批評月間 〜フランス映画の現在をめぐって〜」

この「映画批評月間」という特集は、フランスのカルチャー誌や批評家などと協力し、最新のフランス映画を紹介してくれるもの。私の2022年ベスト映画のトップ2作がこの特集からきてる時点で、いかに質の良い特集かが分かるだろう。まだ知らなかった映画に出会える場所。

「ツァイ・ミンリャン監督デビュー30周年記念特集」

ずっと観たかったジャン=ピエール・レオ出演作『ふたつの時、ふたりの時間』と『ヴィザージュ』が両方上映された。ツァイ・ミンリャンとリー・カンションも来日し、トークイベントではレオとの思い出話をしてくれた。『ヴィザージュ』冒頭の、約束の時間を1時間早く勘違いしたレオが特に悪びれることもなく 本来予定していた時間にはもう帰ってしまっていた、というエピソードは実話らしい。ああいかにもレオらしいな、と微笑ましくなる(自分がされたら悲しいけど笑)。ミンリャンは「僕の映画はお金になりません」と笑い話っぽく話していたけど、解る/解らないではなく何を表現したいかに価値を見出してる姿勢がかっこいい。お金になる大衆的なものだけでなく、こういう“誰のためにやってるのか分からない作品”が作られ残されていくことが大事だと思う。

「電影祭2022」

中華映画を古典から最新まで幅広く上映する映画祭。1979年のアニメ映画『ナタの大暴れ』をスクリーンで観れる機会がくるとは思わなかった。手描きアニメーションによるダイナミックな動きに満ちた画面を体いっぱいに浴びる。そして龍の描きについては中国アニメが断トツで素晴らしいので、是非多くの人に龍の“無駄に体をくねらせる 作画コストの高そうな動き”を堪能してほしい。ほかにも『雄獅少年 少年と空に舞う獅子』(2021)と『新封神演義・楊戩』(2022)といった最新3DCGアニメの、アメリカのアニメスタジオと肩を並べるクウォリティにも目を見張るものがある。

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