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2023年 果てしなき映画ベスト10

2023年はここ数年に比べてあまり映画を観なかった。なによりも体調を優先した甲斐あり、2023年は風邪や感染症に罹らずに済んだ。映画を観るにも体力が必要だからね。そんななか観た映画のうち、映画にやみつきになった作品ベスト10。

【条件】
・映画館で鑑賞したものであれば新旧問わない
・2023年時点で初見だった作品に限る


①『私たち』(2021)

Title : Nous (🇫🇷)
Dir : Alice Diop

パリ郊外で暮らす人々を撮影した記録映画。監督アリス・ディオップがここまで「記録すること」を重視しているのは、亡くなった家族のことを「撮りきれてなかった」という悔恨にある。

「この短い映像が家族のかすかな痕跡。撮られなかったものたちを私は惜しむ。記録のない出来事。消え去ったもの。消されたものを。」

「父の生前に撮った映像のことを思った。思い出すと楽しい。空っぽの墓より命がある 撮り始めの頃の映像。お陰で今も映画を撮っている」

「“文学で語られることのない寒村の人々に文学的な存在を与えたかった”  それを聞いて映像作家である自分が理解できました。人々が存在した痕跡を残すこと。普通の人々の存在を留めること。撮らねば消える存在を。」

作中から引用

記録映画は、写真より生き生きとしたまま記録することができるのが魅力だが、まるで生きてるように記録された瞬間は二度と訪れないという悲しみも同時にある。映像は撮った時点で過去のこと。それがどうしようもなく悲しくなるが、だからこそ今をたくさん記録していきたいと思う。


②『マイ・エレメント』(2023)

Title : Elemental (🇺🇸)
Dir : Peter Sohn

私はこの作品でとても大切なことを学びんだ。いままでは「自分と似てる人」に好感を持ちがちだったし、憧れの人と自分の共通点を見出そうと必死だった。それがこの作品を観てからは「自分と正反対の性質の人」なのに好感を持てることだって美しいのかもと思えるようになってきた。ロマンチックなだけでなく、化学の面白さも詰まっている素晴らしい作品。四大元素の特徴を活かした物語が世の中にたくさんあるなかで、『マイエレメント』ほど再発見があるものはない。身近に溢れてるあれやこれやが、あの元素で成り立っていたんだ!という、単純かつ一般的事実でありながら世界の神秘に驚き感動してしまう。化学の面白さと人間の焦ったさが組み合わさるとこうも面白いのか。




③『トルテュ島の遭難者たち』(1976)

Title : Les Naufragés de l’ile de la Tortue(🇫🇷)
Dir : Jacques Rozier

本当は『メーヌ・オセアン』をベストに入れたいところだけど過去に鑑賞済みなので、未見だった『トルテュ島〜』をランクイン。これまたジャック・ロジエ十八番のゆるゆる珍道中。2023年じゃ絶対に企画自体が通らなさそうなくらいにグダグダだ。しかし全ショットがポスター並みのヴィジュアルに整えられた作品からは得られない風通しの良さが、この作品にはある。映画監督というアーティストでありながら、テレビ局に勤めていた経験もありサラリーマンの悲哀を知っているジャック・ロジエ。会社員になったからこそ染み入る作品。



④『オルフェ』(1950)

Title : Orphée (🇫🇷)
Dir : Jean Cocteau

鏡映画の大傑作。摩訶不思議な美しい世界。それだけでもう圧倒される。古典にして斬新であり続ける。私がファンタジー作家だとして『オルフェ』を観たら、「もう私にやれることはありません…!!」と挫折するレベル。CGでなんでも表現できるようになった今では驚かないようなアクションの数々(手袋の高速装着、人が風に吹かれてふわっと飛ぶetc)も、アナログだから「どういう仕組み!?」とまるで新しい技術かのように逐一聞きたくなる。さすがジャン・コクトー、「芸術のデパート」と呼ばれる人の創造力は並外れている。



⑤『ナイト・ウォーク』(2023)

Title : Night Walk (🇰🇷)
Dir : Sohn Koo-Yong

こちらの寸評は以下の記事で👇




⑥『最強殺し屋伝説国岡 完全版』(2021)

Title : 最強殺し屋伝説国岡 完全版 (🇯🇵)
Dir : 隈元祐吾

個人的には“今をときめく日本の映画監督”のなかに、隈元監督は間違いなく名を連ねている。タイトルの厨二病感に騙されるな。2023年に観た映画でここまで抱腹絶倒したものはない。テレビのドキュメンタリー番組風に描かれていく殺し屋コメディで、90分に拡大されたコントのよう。物騒なのにテロップがバラエティ番組みたいにポップで、代表作『ベイビーわるきゅーれ』しかり阪元監督はこういうギャップをつくるのが得意だよなと思う。非人道的なことをしている人たちが見せる人間的な一面が可笑しくて愛おしい。




⑦『デジレ』(1937)

Title : Désiré (🇫🇷)
Dir : Sacha Guitry

ノリが完全に同時代アメリカのスクリューボールコメディで、エルンスト・ルビッチが好きな私としては大満足の一本。女性主人×男性召使いの背徳的な関係性を、悪ふざけをスパイスにテンポよく展開していく。みっともないと言えなくもない欲望のむき出しっぷりが、気持ち悪いどころか尚のこと面白くなる。そういう意味ではエリック・ロメール的とも言えるかもしれない。




⑧ 『BLUE GIANT』(2023)

Title : BLUE GIANT (🇯🇵)
Dir : 立川譲

諸芸術による感動で啓示を受けたかのように人生が突き動かされる様を描いたものが大好きなので、問答無用でこちら大好きです。音楽への愛とときめきが80%は占めているけど、残りの20%は音楽の(それもジャズ特有といってもいい)厳しさがある。仲良し小好しの馴れ合いだけで終わらないその厳しさに、誠実さを感じた。劇中音楽がとても素晴らしいのだけど、ジャズのグルーヴにぴったりはまった抽象的かつ縦横無尽に弾ける絵のタッチにも魅了される。




⑨『THE FIRST SLAM DUNK』(2022)

Title : THE FIRST SLAM DUNK (🇯🇵)
Dir : 井上雄彦

静寂(無音)の映画であり、音の映画。音を大事にする人ほど静寂を意識している。音にしても美術にしても、“引き算”が上手い人は創作の極致にあって、そう簡単に真似できることではない。この映画ではじめて気が付いたのは、体育館の響きの豊かさだ。ボールが床についた瞬間の音と、反響して聞こえてくる音の高さが違うことに気がつかされる。それまでは海や川などの自然から発生する音の豊かさに比べて、映画館の音響は劣っていると思っていた。でも、映画だって負けてない。




⑩ 『オオカミの家』(2018)

Title : La Casa Lobo (🇨🇱)
Dir : Cristóbal León / Joaquín Cociña

正直、ほとんどの映画表現は20世紀に出尽くしていて、21世紀はナラティブ重視の時代だと思っている。そんななかで出逢ってしまった『オオカミの家』。ここまでアヴァンギャルドな作品が現代でも製作可能なことにまず驚くが、さらに驚くのは客席が埋まるほどに広く盛り上がりを見せたこと。海外の前衛アニメは国内の映画祭で観れたらラッキーくらいの認識だが、一部シネコンでも上映されるとは嬉しい驚き。



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2022年のベストはこちら👇



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