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予防できる選択肢をもてること

“平和ボケ”という言葉は抽象的であまり使いたくないのですが、今回の新型コロナウイルス感染症への日本国内での対応をみていると、なんとなくそう感じてしまいます。

国際支援活動をやっていると、日本の今の雰囲気に違和感を憶えざるをえません。あれだけ厳しい日本の危機管理意識はどこへ?とぽかんとしてしまいます。

というのも、日本の政府系の資金を事業で使おうと思ったら「これじゃぁ活動できないじゃん!」となるぐらいセキュリティチェックが厳しいので。

緊急人道支援では、情勢が変化しやすかったりセキュリティが万全でない地域で活動する必要があります。しかし日本政府の資金を使って活動しようと思ったら、事業の質どうこうよりもまず、対象地域の安全性と団体としての安全管理体制をチェックされます。日本の外務省は次のように各国各地域の安全性をレベル分けしています。

・レベル1:十分注意してください。
・レベル2:不要不急の渡航は止めてください。
・レベル3:渡航は止めてください(渡航中止勧告)。
・レベル4:退避してください。渡航は止めてください(退避勧告)。


緊急人道支援を必要とするような地域は、たいていレベル3〜4です。レベル感の一例としては、レベル4は戦時中の地域、レベル3は戦時中の地域との境界地域(国境など)。私たちのこれまでの活動も、レベル2〜4といったところです。

日本のNGOが外務省からお金をもらって活動しようとしたら、一般的にはレベル3以上の地域では活動できません。ただ、この指標は「日本人が渡航するにあたって」という意味合いが強いので、他の現地団体をカウンターパートとして(日本人は入域せず遠隔管理)実施するなら可能な場合もあります。

いずれにしろ、それなりの地域で活動するなら、それなりの安全管理体制が必要、イコールそれなりの団体規模(資金)と経験が必要ということになります。

私たちは公的資金を未だ使ったことがなく、民間の助成金やご寄付によってこれまで活動を続けてきました。団体の経験不足、と言われてしまえばそれまでなのですが、公的資金を使いにくいのは確実に活動地域のレベルが2以上、という点もあります。

もちろん安全管理体制はどんな団体にも必要なのですが、厳しく整備していこうとすると、かなりの行動制限と予算オーバーとなり、「これじゃぁ大金使って日本人スタッフを守るための活動になって、誰のための活動かわからなくなる!」と正直、私なんかは思ってしまうのです。

現地の仲間にも、あまりの日本政府の「安全第一」理念を皮肉られることもあります。

そんな日常があったので、「日本人を守るために安全管理体制は厳しい/リスク管理にはうるさい」という日本政府のイメージをもっていました。

しかし、新型コロナウイルスに関する世界中の政府や国民の対応をみていると、日本の“危機判断”の低さに気づかずにはいられません。

無防備だったり、過剰反応でパニック化したりと、“危機”の評価や対策に慣れていないのかもしれません。

残念ながら、いま私が活動地に渡航できず日本で足踏みしているのは、活動国政府が早い段階から入国制限をしているためです。あんなにいつも政府として機能していないスーダンでさえ(失礼)、実質一切の入国禁止とは。

トルコ、スーダン、カンボジア、政府から実質分離されているシリア北東部地域でさえ、市民評議会からの通達で教育機関は休校となっています。

仲間(シリア人やスーダン人)によると、現地の方々は自主的に外出を控えたり、マスクや代用の布で口や鼻を覆ったり、商店やレストラン・カフェを休業したり、市場への人の集中を避けたり、と個人レベルでも危機感を強く感じているそうです。普段きれいな水で手を洗わないスーダン人でさえ(同上)。

もちろん、ふだんの衛生環境が悪く衛生教育が行き届いていない地域での感染拡大は、想像しても恐ろしくなります。世界の国々で発生している打撃以上となるのは確実です。そういった地域では日本以上の危機管理が必要で、政府や人々の危機感が高まるに越したことはありません。

また、危機感や必要性に関わらず、世界には事実感染予防できない状況にある人々もいます。

・難民キャンプ内外で、強制的に密集した場所に居ざるをえない。
・手を洗う石鹸がない、水がない。
・家に留まるといっても、安全な住居がない。
・衛生用品を購入する貯蓄がない。  ...


比較して解決することではありませんし、一般化できることでもありません。

しかし日本国内において、政治的にも人々の意識としても、少なからずまだ予防対応できる選択肢はあるのかもしれません。選択肢がなくなってから気づくのでは、手遅れです。

常日頃から、社会全体の生命を脅かすような“危機”があっては困りますが、突然の“危機”への適切な評価や対応できる力は必要なのかもしれません。

※冒頭写真はスーダンでの感染予防一例。

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