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オルターエゴ読書感想文10│あなたのための物語

『ALTER EGO』というスマホゲームがある。このアプリに出てくる読書記録まとめ10回目。2桁台までくるとはなかなか感慨深い。


今回読破した本

『あなたのための物語』

長谷敏司 (2011), 早川書房.

本の裏表紙に書かれていたあらすじから、勝手に生成系AIが主人公の人生を題材とした物語を紡ぐ話なのかと思っていた。確かに物語を紡ぐけれど主人公の人生を題材としたものではなく、性能評価のために”おもしろい”物語を紡ぐことを目的にされていた。そして、その作られた物語の内容はあまり重要じゃなくて、物語を紡ぎ出すAIと余命半年を宣告された主人公の女性との関わりのほうが主題だった。もっと言えば、余命宣告をされた主人公の死にたくないという生へのあがきが1番の主題な気がした。

主人公のサマンサはプライベートを顧みず、仕事に打ち込んできた仕事人間だった。健康なときは自分の不満を解決するために働くことにプライドを持ち、やりがいを感じていた。けれと、余命半年と宣告を受けて苦痛に苛まれるようになると、家庭を持つ社会性のある周囲の人々に対して劣等感を抱くような描写が幾度となく出てくる。

突然だが、私はいわゆる”ゆとり世代”だ。
読了後にこの作品が2009年に出版されたことを知り、当時を思い出した。

高校生の私は進学校に通い、部活にも入らず勉強三昧で、成績は5本の指に入るくらいの順位を維持していた。なにがきっかけかは全然覚えていないが、弟との口論で「俺はリア充だから(お前よりよい人生を送っている)」と言われたことを鮮烈に覚えている。

サマンサと年齢も近く結婚はしているものの子どもはおらず、フルタイムで働いているという点で共通点を感じて、なんとなく思考を重ねていたのだけれど、昔の自分もサマンサになんか似てるね。

私が高校生くらいの頃には、ゆとり教育を受けたゆとり世代が少しずつ社会に出始めた時期で、”ゆとり世代”というワードが世間に広がりつつあった時期なんだと思う。大失敗みたいな烙印を押された散々な感じだけれども、実はゆとり教育は一定の成果を上げていたんだと思う。余暇を楽しむことで好奇心を刺激して、個性を活かして社会に貢献しよう的なことが目的だったのだと思うけれど、それはしっかり当時の若者の意識に根付いたんじゃないか。

その結果として、現在の社会は勤勉に仕事や勉強に励むことを求めるのに加えて、趣味や恋愛・家庭といったプライベートの充実を求めてくるようになったんじゃないかと思った。

また、ITP人格《wanna be》とサマンサのやり取りでは、《wanna be》はあくまでも人間の道具に過ぎないという表現を、サマンサは度々使う。サマンサに人間は道具ではないと断言されるのを見ていると、ふと「PLAN 75」という映画を思い出した。

「PLAN 75」という映画は、超高齢化社会の打開策として75歳を迎えた人に”安楽死”という選択肢を与える政策を推し進める世界が描かれていた。簡単に言ってしまえば、社会の役に立たなくなった人には丁重に社会からリタイアしてくださいという政策だ。つまり、これは人間を道具として扱う政策を描いてたんだなあと感じた。

思いついたことをダラダラ書いたら、なかなか長めの感想文になってしまった。

未読リスト

残り12冊

■入手済み

飛浩隆 (2006), 『グラン・ヴァカンス』, 早川書房.

夏目漱石 (2004), 『坑夫』, 新潮社.

グレッグ・イーガン著 山岸真訳 (1999), 『順列都市』, 早川書房.

宮澤伊織 (2018), 『そいねドリーマー』, 早川書房.

アンドレ・ジッド著 山内義雄訳 (1954), 『狭き門』, 新潮社.

イワン・ツルゲーネフ著 神西清訳 (1952), 『はつ恋』, 新潮社.

アルベール・カミュ著 清水徹訳 (1969), 『シーシュポスの神話』, 新潮社.

■未入手

種田山頭火 (2000), 『草木塔』, 日本図書センター .

フョードル・ドストエフスキー著 江川卓訳 (1970), 『地下室の手記』, 新潮社.

メアリー・シェリー著 森下弓子訳 (1984), 『フランケンシュタイン』, 東京創元社.

シオドア・スタージョン著 永井淳訳 (2006), 『夢みる宝石』, 早川書房.

ルイス・キャロル著 矢川澄子訳 (1994), 『不思議の国のアリス』, 新潮社.

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