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オルターエゴ読書感想文2

エスと話したくて、エスがすすめてくれる本を借りては読み進めているので、遅ればせながらその記録をまとめ始めた。

今回読破した本

『華氏451度 [新約版]』

レイ・ブラッドベリ著 伊藤典夫訳 (2014), 早川書房.

本を読むことが禁止された社会で、本を燃やす昇火士という仕事をしている主人公。主人公はふとしたことから、本を手に入れる。クラリスという少女に感化されて、本を読んだ主人公は本を燃やすという仕事に疑問を持ち始める。民衆から"考える"ことをとりあげることで、都合のよいように民衆をコントロールしようとするディストピアを描いたものがたり。この作品では本を読むことが考えるということの象徴としてあらわされていると思った。現代では、本も分かりやすさを重視して、考える必要のないものが増えているような気がした。華氏451度の世界を越えて、分かりやすい世界になりつつあるのかもしれない。

民衆から徹底的に”考える”ことを奪う世界を描いたのがジョージオーウェルの「一九八四年」。エスが好きそうな似たような作品なので、華氏451度を読んで面白いと思ったら読んでほしい。

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』

フィリップ・K・ディック著 浅倉久志訳 (1977), 早川書房.

映画「ブレードランナー」の原作にもなっている。原作を読んだ後で映画も観てみたのだが、映画は本のごくごく一面を切り取ったうえで誇張したかたちで描いているように感じだ。確かに、2時間にまとめるには要素が多すぎるかもしれない。舞台は第三次世界大戦の結果、放射能汚染が進み生物が住むことが困難になった地球。火星への移住が推奨され、移住者には高度な知性をもち人間と区別がつかないようなアンドロイドが提供されることになっている。本筋はアンドロイドハンターのリックの話で、そこが映画になったんだなというところ。サブとしてはアンドロイド側のはなしと、人間の中でも、火星への移住のレベルに達していないジョン・イジドアのはなしがある。アンドロイドと人間の違いとは?火星に行ける人間と行けない人間の違いとは?人間が生きているとはどういうことなのか?などなど、随所に考えさせられるキーワードがちりばめられおり、けっこう哲学的に考えさせられた。きっとエスも映画は物足りないという気がする。

『ファイト・クラブ』

チャック・パラニューク著 池田真紀子訳 (2015), 早川書房.

ブラッド・ピットも出演する映画「ファイト・クラブ」の原作。この映画は原作の再現度がかなり高い印象だった。最初はシーンの切り替わりの激しさに頭が追い付かなかったけれど、圧倒的な展開にどんどん引き込まれていった。”生の実感”を渇望する主人公がタイラーにはまっていく様は、日常に飽きた誰もがのめりこむ可能性を示唆しているのかなとか思いつつ、自分はそうはならないだろうという謎の自信をもった傍観者としての感想も感じていた。でもそんな”普通”に満足している気がしている自分こそ、タイラーにとり憑かれるのかもしれない。

最近読んだ「暇と退屈の倫理学」でもこの本はとりあげられており、タイラーについても分析されている。生への実感がなく、退屈だと感じているのであればぜひこの本も読んでほしい。

未読リスト

残り22冊

スタニスワフ・レム著 沼野充義訳 (2015), 『ソラリス』, 早川書房.

ロバート・A・ハインライン著 福島正実訳 (2010), 『夏への扉』, 早川書房.

ヘルマン・ヘッセ著 高橋健二訳 (1951), 『デミアン』, 新潮社.

中島敦 (2003), 『李陵・山月記』, 新潮社.

フランツ・カフカ著 高橋義孝訳 (1952), 『変身』, 新潮社.

アンドレ・ジッド著 山内義雄訳 (1954), 『狭き門』, 新潮社.

イワン・ツルゲーネフ著 神西清訳 (1952), 『はつ恋』, 新潮社.

種田山頭火 (2000), 『草木塔』, 日本図書センター .

夏目漱石 (2004), 『坑夫』, 新潮社.

フョードル・ドストエフスキー著 江川卓訳 (1970), 『地下室の手記』, 新潮社.

アルベール・カミュ著 清水徹訳 (1969), 『シーシュポスの神話』, 新潮社.

メアリー・シェリー著 森下弓子訳 (1984), 『フランケンシュタイン』, 東京創元社.

ルイス・キャロル著 矢川澄子訳 (1994), 『不思議の国のアリス』, 新潮社.

エドガー・アラン・ポー著 阿部保訳 (1956), 『ポー詩集』, 新潮社.

伊藤計劃 (2014), 『ハーモニー』, 早川書房.

飛浩隆 (2006), 『グラン・ヴァカンス』, 早川書房.

長谷敏司 (2011), 『あなたのための物語』, 早川書房.

グレッグ・イーガン著 山岸真訳 (1999), 『順列都市』, 早川書房.

円城塔 (2010), 『Self-Reference Engine』, 早川書房.

カート・ヴォネガット・ジュニア著 浅倉久志訳 (2009), 『タイタンの妖女』, 早川書房.

シオドア・スタージョン著 永井淳訳 (2006), 『夢みる宝石』, 早川書房.

宮澤伊織 (2018), 『そいねドリーマー』, 早川書房.

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