水羊羹

母はある日、家出をした。

どのくらい連絡がなかったのか分からない。

しばらくして家出した母と連絡とれて、
母が暮らすアパートに父と私が転がり込んだのを覚えている。

その頃の母は毎日夕方になると、
お弁当を買ってくると行って、
何時間も帰って来なかった。

後に母から聞いた話だと、
過食症になり、何個もお弁当を買い外で食べていたそうだ。
異常なほど食べる姿を見せたくなかったと言っていた。

父は仕事で夜中まで帰ってこないし、
私は怖くなって外まで出て泣いていた。
「ママー!ママー!」

その叫びは誰にも届かない。

父はそんな母を見かねてなのか、
よく襖(ふすま)を蹴って殴って穴を開けていた。

その時の父はすごく怖かった。

そんなアパート暮らしは最低だったけど、
一つだけいい思い出がある。

それは、母がたまに作る水羊羹。
手作りの水羊羹は甘過ぎずさっぱりして美味しかった。

私はよく母に水羊羹を作ってとねだっていたのを覚えている。

優しい味の水羊羹。

私も子供が生まれてから、
たまに作るようになった。

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