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#1 父の最後の心配事

ベートーベン 月光を探していた。
とうとう父が亡くなった。
葬儀会社は式中その音楽をかけてくれるという。
他にしなければならないことがあるはずだが、この曲選びは重要だと直感的にそう思った。
月光
きっとあうんじゃないかなあと思っていた。
父のコレクションからCDを見つけ、ラジカセの前でセットしようとCDケースを開けると
ない
CDが中に入っていない。
そうじゃなくて”田園や”と父が言った。
昔から父のこだわりは尋常でないところがあった。
父が交響曲 田園を好きなのは知っていたが、正直あまり印象がないため、これを選んでよいものか自信がなかった。
再度CDのコレクションから田園を選びなおしていた。
CDを引っ張り出してきた大きなラジカセにセットしていたころ
葬儀会社がいらして打ち合わせが始まる。
費用に驚いたわけではないが後ろにお尻を動かした拍子にラジカセのスイッチが入る。
じゃじゃじゃーん
葬儀会社の担当も目を丸くしながら
いいタイミングでなりましたね?
このCDは運命と田園が入っているのだ。
その後、ふと拍子にまた鳴ってしまう。
几帳面で完璧主義の父が選曲ミスをしていないか最後の心配事かもしれない。
CDを渡すとき、これは1~4は運命で5~9は田園ですので、5から流してくださいねと
メモに書いて葬儀屋に口頭でも念を押した。
田園は横浜に持ち帰りたまに家で流している。
棺桶から出てきたと思われた自分は趣味までに寄って来たのだろうか?
父がニヤッと笑った。

#創作大賞2023 #エッセイ部門

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