変わらないという意味
沖縄の米軍基地問題。
深入りすればするほど自分がいかに浅はかで、他人で、無力かということをつきつけられる。私はこの問題にどうやって向き合ったらいいのか。答えなんてないのかもしれない。でも考えるのを辞めたくない。それが最低限、私にできることなのかもしれないと思うから。
出会い
東京のホステル。22時頃。
ゴロゴロと大きなキャリーバックを持った女の人がやってきた。
てっきり今から帰るのかと思い、「お帰りですか?」と声をかけると、
「いまきたの!沖縄から!」と。
初めて会ったのに全然そんな気がしなくて自然と意気投合した。
彼女は「私も隣で作業しよっと」と長旅の疲れを感じさせないはつらつとした口調で私の隣に座った。
愚かなほど当たり前の思考
いろんな話をしていく中で、私はどうしても基地のことを聞きたいと思った。
同じ年代、どんなことを考え、感じているのか。
なんて切り出していいかわからなかったけど、一言。
「あの、沖縄で米軍基地の話とかってよくされますか?」
びっくりした様子もなく、ただ少し沈黙を挟んだ後にひとこと
「しないね。」
基地で働いている家族や基地に恋人がいる人が周りにたくさんいる。
だから話はあんまりしない。気まずくなってしまうから。
そして基地の問題を話すことはほぼないから他の人が基地についてどう考えているのかよく知らない。と。
そして一言。
「米軍さんは嫌いじゃないよ。でも米軍っていう組織は嫌い。」
その言葉を聞いた時思った。
「あぁ。私はなんて愚かなんだ。」と。
私は沖縄の基地問題を少しでも多くの若者に知ってもらうために、そして米軍のネガティブなイメージを少しでも減らそうと思い米軍と若者の交流イベントを開いた。人と人との個々の交流が大事だと思ったからだった。
そして実際に米軍基地で働くアメリカ人と話をして、彼らも彼らなりのジレンマに苦しんでいることを知った。だから「米軍は」みたいな大きな主語で基地問題を語ることは適切ではないと思った。
”私は一人一人の人間が組織を作っていること、そしてその一人一人はみな多様であることを理解しようと思う”
そうやってノートに書き記した。
でも人が悪いわけではないことなんて、そんなこと、とっくの昔に沖縄の人は理解している。
人が多様であることを理解したところで解決するような問題ではないことを強く、深く突き付けられた。
一人ですべてを分かったようになっていた。でも所詮私は第三者だからできたことだった。
民主主義って?
沖縄の人達の中には基地を支持している人もいるらしい。
理由は単純。
基地があることによって補助金がもらえるから。
お金と引き換えに基地を受け入れる。そうやって沖縄が成り立ってきてしまっている事実もそこにある。
だから中には声高に反対を言えない人もいる。
彼女は自分のお母さんと話したことも教えてくれた。
「私のお母さんはね、『いつまで基地反対っていうの?』っていうんよ。『そんなこと言っても変わらんさね。』って。『ほかにも問題があるでしょ。』って。」
”変わらんさね”
その言葉が私の心にずんと刺さった。
声をあげても変わらない。
「一回本土で基地ができそうになった時に市民が反対したのね。そしたら基地の建設取りやめになった。なんで?って。うちらずっと反対っていよるのに。『あぁ。そうなんだ。』って思った。うちらの声、届かないよね。変わらない。」
社会は自分たちで変えていけると信じ、私はこれまで活動をしてきた。
だって、民主主義ってそういうことでしょ?
市民が主権を持っていて、だから市民から社会を変えていける。
それが民主主義。
でもそれは沖縄では綺麗ごとにすぎないのかもしれないと思った。
社会は自分たちで変えていけると信じていた私にとって沖縄の「変わらない」事実はあまりにも重く、大きく、そして悲しかった。
出てきそうな涙をぐっとこらえた。
泣きたいのは彼女の方だ。私じゃない。
「でもね。沖縄に基地がないと大変だなと思うよ。中国とかみてたらね。だから必要なんだと思う。」
日本の外交さえも沖縄は背負っている。
他人だとしてもなお
子どもの貧困。母子家庭の多さ。大学進学率の低さ。
多くの社会問題、特に貧困問題が沖縄にはある。
そして基地問題はそれらの問題にしっかりとくっついている。
複雑に絡み合った問題と問題のはざまに沖縄の人々の生活がある。
考えても考えても苦しくなる。
沖縄から遠く離れた基地も知らないような人間が何ができるのか。
無知さと無力さに押しつぶされそうになる。
どうしたらいいんだろうね。何が正解なんだろうね。
私はこうやって少しずつ対話を通じて沖縄に向きあうことしかできない。
でも同時に力不足を理由にして向き合うのをやめることだけはしたくないと思う。
本土復帰50年の今年。
綺麗な海に囲まれた島、沖縄という場所が抱える歴史と問題に日本に住む私たちがもっと踏み込む必要があると感じている。
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