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鳥井一平(移住連共同代表理事)インタビュー「外国人労働者が働く現場でいま起きている問題とその背景——その場しのぎの在留資格設計がもたらした混乱・差別」

M-net 2023年8月号の特集は「特集外国人労働の最前線―いま何が起きているのか」です。特集のなかから、鳥井一平移住連共同代表理事へのインタビューを公開します。本特集では他に、技能実習「廃止」の検討、介護、農業、漁業、家事支援、製造業など各分野の課題、労働組合に加入する移住労働者の声、技能実習生へのシェルター支援をそれぞれテーマとする8本の記事が掲載されています。記事の詳細は記事の末尾をご参照ください。


政府有識者会議での議論に欠如している重要な観点

いま外国籍の労働者を社会は求めているが、それは労働力としてだけでなく、地域社会の一員としての参加の求めでもある。しかし、政府の検討会や研究者の議論ではその観点が欠落している。

この社会では一般的に企業の社長は社会的地位が高いが、それは人を雇用することで地域社会に貢献しているということだろう。企業が地域を支配しているという企業城下町さえある。しかし、実際は、企業だけが地域をつくり出しているのではなく、その企業で働いている一人一人の労働者とその家族がつくってきたものでもある。町会や子ども会の活動はそこに暮らす労働者、その家族がいて成り立っている。そうした活動の一つ一つが地域社会を形成しているという視点は重要だ。同時に、消費生活、地域の産業や経済活動もそうした人たちがいて動いている。これはごく当たり前のことだが、いま「外国人労働者政策」と言うときに、そうした視点が大きく欠落している。外国人労働者とその家族もこの社会に参加している主体という視点が欠落している。

外国人労働者政策をめぐる議論に大きな格差、ギャップが生じている。いわゆる近代における都市や社会の形成ということを考えれば、これまでの議論はズレているということに気づかなくてはいけない。「技能実習制度および特定技能制度の在り方に関する有識者会議」でもやはりそこが欠落してしまって、「いかに労働力として確保していくのか」ということだけに議論が終始している。労働者一人一人がどのように主体として社会に参加するのか、企業活動・生産活動あるいは地域の社会的な活動にどのように参加していくのかという視点が抜けてしまっている。

上滑りの議論の根本原因

そうした欠落の一番根本的な理由は、政府が「移民政策をとらない」と言ってきていること。このことによって、実際に社会で起きていることとの間に大きなギャップが生まれている。この40年間、実際には移民によってこの社会が成り立っているということを政府はどうしても認めない。事実を直視しないという前提があるから、議論がどうしても上滑りになる。

この40年間を見れば、多くのニューカマーがすでに経済活動、社会活動に従事し、配偶者や永住など身分に基づく在留資格を得ている人たちも多い。もちろんオールドカマー(オールドタイマー)の人たちがずっと前からこの社会を支える大きな力だったということも見ておかなくてはならない。これに関して、日本は同化政策でごまかしてもきた。オールドカマーに対して「日本人化」を強いてきた。そして、いま、ニューカマーやその子どもたちがこの社会にいろいろな形で参加し、支えているという事実を政府は直視していない。

国際交流協会の活動そのものを軽んじるわけではないが、日本で言う「国際交流」は本来の国際交流ではない。実際に行われていることは色々な国や地域から来た人たちの交流、多文化の交流だが、「客」としての交流であり、そこに参加している人たちはすでに日本社会の一員。このことと、政府が移民政策をとらないということと非常に連関している。

この40年間、いろいろな国・地域から人々が新しく来て、それぞれの国・地域の風習や文化、料理などにも触れ、新しい関係が生まれたり、地域社会も活性化している。そのことは「国際交流」という枠組みで捉えられてきたが、実際には、地域社会における多民族、多文化の交流という視点から見た方がいい。と言うよりも、そのように見ていない。だから、上滑りの労働力の議論になってしまっている。

「業界の健全化」の名の下に行われる差別的な取り扱い

外国につながりを持つ若者や子供たちがこれから日本社会で生きていく中で、いわゆる民族アイデンティティが尊重され、かつ日本社会の一員として社会参加できるような法律・制度を整備する必要がある。自分たちのアイデンティティを保ちながら日本社会の一員として参加できると、社会参加の意欲が湧いてくる。基本的には、まず参政権の問題がある。それから就職活動における差別の問題もある。現実には、身分に基づく在留資格を持っていても非常に差別的な取り扱いがまだまだある。

建設業界では「業界の健全化」という言葉で、社会保険加入、労働保険加入が求められている。とりわけ、社会保険に加入していないと(作業現場に)現場入場できない。元請、ゼネコンはこうしたことを厳しくやっているが、実態は表向きだけのところもある。そのときに、外国籍労働者には在留資格ごとに非常に厳しい、差別的な対応をしている企業もある。最近は、現場入場のために入場証をつくるが、そこで外国籍労働者は在留資格を情報提供することを求められる。最近は、「ビジネスと人権」に関連して「人権デュー・ディリジェンス」実施も求められているが、現場ではお構いなしだ。

元請企業は下請け企業の労働者の現場入場のために住民票を提出させようとする。これは本当に人権問題だ。在留管理、いわゆる「不法就労」防止という言葉に基づいて、そういうことが平然とやられている。一方で、日本人には一切そういうことを求めない。しかし、「日本人」であっても肌の色が違ったり、髪の毛の形状が周囲の「日本人」と違うと見なされれば、同じようなことが求められるだろう。社会保険加入の適正化は大切なことだが、そのことに関わって差別的、排外主義的な意識、外国人管理の意識が醸成されていっている。

外国人労働者が働く現場で強化される監視・管理

最近、例えば建設業でいうと、さまざまな在留資格の人が働くようになってきている。1990年代の当初は身分に基づく在留資格あるいは非正規滞在しかいなかった。それが、技能実習生が入り、特定技能、建設就労者(特定活動)、そして難民申請中の人も増えた。さらに留学生もいる。そういう中で、建設業界の人たち自身も混乱している。さまざまな在留資格の労働者が働く中で、「不法就労禁止」が強調され、外国籍労働者を監視する対象という見方に、業界全体がなる。このような外国人労働者に対する差別、支配、監視の問題は、建設業において典型的に現れていると思う。そして、それをもって下請け利用、下請け会社の締め付けという実態もある。製造業など他の産業においても同様だ。

以前は、製造業も建設業と同様に、基本的に身分に基づく在留資格以外はなかった。しかし、そこに技能実習生が入り、特定活動が入り、留学生も入った。今回、特定技能は職種の拡大も行われた。雇用主から見ると在留資格は非常にわかりにくくなっており、どうしても経営者、事業主は「監視、管理しなきゃいけない」という意識が先行してしまう。

さらに、現場の管理職の人たちはもっと制度を知らない。「在留カードを見せろ」と労働者に言って、労働者が見せても、実は管理職のひとりひとりもその内容がわかっていない。「在留カードをちゃんと見なさい」と会社から指導があってもわからない。わからないのに見なくてはいけないというのはもっぱら監視する対象になる。

労働者間で摩擦が起きると、外国人に対してどうしても上から目線になる。職場の先輩は技能実習の制度をそもそもわかってない。目の前の労働者が、開発途上国への技術移転を目的とした制度の中で来ているということが理解できていない中で、その労働者に教えるよう上司から指示されると「なんでこいつに教えなきゃいけないんだ」となる。建設業界だけでなく、「自分たちで会得するものだ、生意気なことを言うな」「体で覚えていけ、経験して覚えていけ」と教えられてきているので、目の前の外国籍労働者がやたらにチヤホヤされている、保護されている、と反発する先輩も出てくる。なぜ教えてなくてはいけないかが理解できないから、「(相手が)日本語がわからなくて面倒くさいな」となる。そうすると「上から目線」にもなる。

労使対等原則の担保が社会の健全化につながる

技能実習生の場合、身分に基づく在留資格の労働者と違って、雇い主が「あんまり乱暴に言うと辞めちゃうな」「他の企業に行かれちゃうと困るな」という意識にもならない。特定技能もそれに近い。外国人に対する差別もあるが、多くはそうした著しい支配従属関係の中から生まれてくる。差別が生じる状況を職場内につくらせている。そう考えると、働く在留資格は一本の方がいい。身分に基づく在留資格そのものも非常に問題があるが、そのこととは別に、働く在留資格は一つにしたほうが労働現場での無用な摩擦、対立を生み出さない。

やはり、労使対等原則が担保できる関係じゃないとだめだろう。例えば、職場で喧嘩して「だったら俺やめるよ!」と言えるような関係じゃないと健全化しない。労働者の最も弱い権利、最後の手段の「辞める権利」が担保されなければならない。奴隷労働の根絶は職場を辞める自由、選ぶ自由、つまり基本的な、最低の基準が担保されることだ。社長は労働者を選ぶことができ、労働者も社長や会社を選ぶことができるという労使対等原則が担保されないと、日本の外国人労働者受け入れ・移民政策の歪みは、社会の健全化の妨げとなり、民主主義を後退させる。

ずっと「外国人労働者問題は社会の課題を示している、照らし出している」と言ってきたが、実はこの40年弱の間に日本では非正規雇用が拡大した。技能実習制度は究極の派遣労働。外国人労働者問題に向き合うことは社会にとっての一つのチャンス。外国人労働者問題が社会の問題、課題を教えてくれている。今回の有識者会議での制度の見直しについては、社会全体の問題を見渡すという観点からも見ていった方がいい。

2023年5月24日インタビュー実施インタビュー・記録:山本薫子

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