勝手にアニメキャラのセックスを想像してみた

第22回 新沼文世−3

そして、その年の9月下旬。
そのファッションブランドが開催したショーは、無事に成功した。
来場者たちは、口々にブランドの先進性、前衛性を褒めそやした。
そしてその夜、都内の一流ホテルで、打ち上げパーティーが開催され、私も関係者の一員として、その場にいた。
もちろん、舩見さんもその場にいた。例によって例のごとく、彼のそばには複数の女性がいた。
私は彼を会場内で見つけると、いそいそと彼のそばにすり寄った。
「舩見さん、今日はお疲れ様でした。ショーが成功して何よりです」
私は彼の目の前に立つと、深々とお辞儀をした。
「新沼さんも、今日はお疲れ様です。いろいろお世話になりました」
私に声をかけた舩見さんはお辞儀しようとして、そのままピタリと視線を止めた。
彼の視線の先には、私の谷間が飛び込んできた……はずだ。
一瞬間を開けた後
「今晩の新沼さん、大胆ですね。ずいぶんと思い切った格好を……昼間のあなたとは大違いだ」
と呟いた。
ショーの開催時、私は会場内で白の袖無しワンピースに薄手の紺のジャケットに白ズボンという格好で、お客様の受付係を担当した。
そして舞台上でのイベントが全て終わった後、私は撤収作業で会場内をめまぐるしく動き回り、会場のスタッフやアルバイトに対する指示出しに忙殺された。そして大急ぎで着替え、打ち上げ会場に向かった。
今度の私の装いは、肩を大胆に露出して胸の谷間を強調した、ワインレッド色のチューブ型ドレスである。前身頃には、深いVネックの切り込みが入っているので、男性の視線は嫌でもそちらに向かうだろう。もちろん、今日はブラをつけていない。誰かに深々とお辞儀をすれば、深い胸の谷間と、乳房の形があわらにあるだろう。
そして、それが私の狙いだった。
余談だが、この日にあわせて髪型も変えた。くせっ毛を矯正するために、ストレートパーマをかけ、黒く染めた。メガネではなくコンタクトをつけている。
私がそのような格好をしたのには、もちろん理由がある。
このパーティーの約1ヶ月前、私は別のパーティーで、舩見さんと会った。
その時開催されたパーティーの会場は、都内ホテルの中にある、大きな窓があるパーティーホールだった。
「新沼さん、今日はまたずいぶんそそる格好ですねえ」
例によって彼は、ワタシの格好を見てにっこり笑った。
その時の私は、ストラップが取り外し可能な、ネイビーのシルク地であるドレスを纏い、肩には白のショール、そして腕には同色の二の腕カバーという格好だった。前身頃は広くないが、舩見さんから見れば、その格好は私に相応しく見えたようだ。
「新沼さん、今日のドレスも素敵ですね。個人的には、先日の装いよりはずっといい」
「ありがとうございます」
私は軽く会釈をして、お礼を言った。
「ショールのせいで、だいぶ艶っぽく見えますよ。合間から見える肌が、何とも……」
「そうですか。嬉しいですわ」
「色も生地も上品ですね」
「ええ、男の人によろこんでもらえるのならと思って」
身に纏う服装を誉められて、嬉しく思わない女性はいない。
ひょっとして、こんなやりとりを繰り返すうちに、相手の男性といわゆる「一線を越えた関係になるのだろうか?」そんな妄想をするのは、私が「腐女子」だからか?
「新沼さん、ちょっと一緒に別の場所に行きませんか?」
こんな場所で、舩見さんの方から私を誘ってくるとは思ってもいなかった。
彼はなにを考えているのだろう? と、ちょっとドギマギしていると
「大丈夫ですよ。なにもこれから襲って食おうと思ってなんかいませんよ。ただちょっとばかり、あなたのことを知りたいな……とおもいましてね」
私は思わず「えっ?」と返事してしまった。
「あの……冗談じゃないですよね?」
「ハハハ、冗談ではないですよ。ただ仕事を進めるにあたり、あなたの人となりを少しばかり知りたいと思いましてね」
彼は「じゃああちらに」といいたげに、会場の窓側へ私に来るよう促した。
窓からは、イルミネーションの光が私の目に飛び込んできた。 彼は窓側に立つと、背中を窓に向けて私と向き合った。そして右手に持っているワイングラスを、私に差し出した。
「あなたのためにとっておきました」
「ありがとうございます」
といい、軽く会釈をしながら、私は彼からグラスを受け取った。
「今晩のために、そしてあなたの美しさに、乾杯」
舩見さんはそう言うと、私のワイングラスに、自分が持っているグラスをぶつけてきた。
私も乾杯、といい、彼のグラスにぶつけると、一口二口、グラスに入っている飲み物を口に含んだ。
「これ、シャンパンというのですが、あなたのお口に合いましたでしょうか?」
「合うもなにも……私、生まれて初めてシャンパンというのを初めて口に含んだので、よくわかりませんわ」
ああそうだ、と私は言葉を続けた。
「そういえば小さい頃、クリスマスにシャンパンを飲んだことがありますが……」
ああ、アレはですねと、舩見さんは私に言葉をかける。
「あのシャンパンは、今我々が飲んでいる『シャンパン』とは全くの別物ですよ。シャンパンは、正式名称を『スパークリング・ワイン』といって、フランスにあるシャンパーニュ地方で醸造されたワインだけが『シャンパン』という商品名をつけて、市場に出荷するんですよ」
それから彼は、延々とシャンパンについてのうんちくを、私に語って聞かせた。その表情は、自分の好きなものについて語れるうれしさと共に、ほんのわずかではあるが『俺は、シャンパンについてこれだけ知っているんだぜ』という気持ちが混ざっているように、私には思えた。
私は彼の口からあふれ出る『シャンパーニュ・ワイン』のうんちくを聞き流しながら、グラスに注がれたワインを含み、ゆっくりと飲み下した。なるほど、今飲んでいるワインはかなり高そうだ。上品な香りが、鼻の中に広がっていく。
「新沼さん、このシャンパンはお気に召しましたか?」
「はい、とっても美味しいです。こんなに香りのいいものだとは知りませんでした」
「新沼さん、普段はどんなお酒を飲んでいるのですか?」
「学生時代の飲み会では、月並みにビールとサワー系の焼酎がメインでしたね。ワインと日本酒は、それこそ気が向いた時に。ブランデーやウィスキーは、めったに飲みませんでしたね。もちろんカクテルなんて、しゃれたお酒なんか飲んだことありません」
「ご自宅では?」
「私、家ではほとんど飲まないのですよ。量はそんなに飲めないので。日本酒を買ってきて、気が向いたらちびり、ちびりとやる程度ですね」
それで、舩見さんはどんなお酒を、と私は彼に話を振った。
彼は「待ってました」と言わんばかりの表情で、とくとくと私に語りはじめる。彼はお酒だけでなく、自分の趣味や学生時代、今やっている仕事のことを、楽しそうな表情で、熱く語りはじめた。
そして、彼はどのくらい自分語りをしていたのだろうか。気が済むまでしゃべり倒すと、今度は私についてのことを尋ねてきた。
そういえば私は彼に、ここまで自分のことをなにも語っていない。学歴も、趣味も、何もかも。
私は、自分が大学で日本文学を専攻していたこと、好きな作家は太宰など昭和前期の作家だと言うことを話した。だが残念ながら、彼は文学はもちろん、映画は絵画にもあまり関心がないようだった。
「すいません、僕はあまり映画や文学には興味が持てなくてね。普段読んでいるのも、マーケティングや宣伝、組織マネジメントの類いばかりでね。平日は社内の根回しや顧客対応に追われ、せっかくの休日も、仕事のための準備で追われる。『これではいけない』とは、自分でもわかってるんですけど……」
「私だって似たようなものですよ。先輩から怒られ、注意され、フォローされ、自分のことだけで精一杯。付き合いは社内の人間と取引先、業界関係者に限られ、学生時代の友人とはほぼ没交渉。疲れ果てて、休日は寝倒していることも多いですよ」
ハハハ、お互い大変ですねえと、舩見さんは苦笑した。
それから二人は、気が済むまでファッション業界のこと、広告業界のこと、そして出版業界が置かれた現状を、思う存分語り尽くした。
「おや、ちょっとの立ち話のつもりが、もうこんな時間になってしまった」
舩見さんは自分の腕時計を見るなり、こう言った。
つられて、私も自分の腕時計をチラリと見る。気がつけば彼とは、30分以上話し合っていた。

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