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AI作曲アプリ16個を試した結論 -リアル作曲家はAI時代をどう生きるべきか

ニューヨーク大学の夏期講習で作曲を教える日がいよいよ来週に迫ってきた。やる気いっぱいで準備中、ふとSNSを見たら、弟と呼ぶほど仲が良い佐野創太さんがめちゃくが面白い講座をしているではないか。Chat GPT・画像生成AI で明日の働き方がどう変わるか… こりゃあ、みんな知りたいよね…!さすがの大人気で850人以上参加の大入り満員。うわあ。


で、気づいた。

そうだ、作曲AIもかなり進化しているのではなかった?
若者向け夏期講座なんだから、作曲AIについても知った上で講義したほうがキャッチーでは?

こうして私のAI作曲家探訪は始まった。以下、長くなるが、お付き合いいただけたら嬉しい。音とは私にとっては神だから、ささっと短く話すなんて出来なかったの。


Ⅰ - 「BGM作曲」には、人間の作曲家はもう選ばれないだろう


まずはこのサイトでオススメのAI作曲サービス、厳選16こを使ってみた。これだけでもうお腹いっぱい  … 思ったよりたーくさん、AI作曲家が存在している … !!

あれこれ使ってみて、私が痛感したことは「ああ、もう本当にこの時代が来たんだな。ただ消費されるためだけの音楽には、もう人間は選ばれないだろうな。」ということだ。

祈りのための音楽と、コンテンツのサポートをする音楽

音楽はそもそも、祈りから始まった。

雨が降らないと作物ができないから、必死で神に祈り、その祈りがいつしかメロディになって、雨乞いや豊作を祈る曲ができた。奴隷になってしまった人たちがつらい労働から解放されたい、いつか自分にもきっと希望あふれる未来がやってくるはずだと信じて、労働の間に歌を歌ったことでWork Songができ、それがジャズに繋がった。信じる神様をたたえ、祈りがいつしか歌になって教会には音楽ができた。

そこからいつしか「音」というものがもつ不思議な効果自体を尊ぶ文化が出来て、音楽の文化がどんどん発達していく。

音がこころを直接揺り動かすその力のパワフルさに人間は魅了されていった。そして、これをもっとやってみたい!と憧れる人が音楽家になっていった。

そうやって出来てきた「音楽」と、今AIが作っている「音楽」は次元が違う。

まだ概念がないからたまたま同じ言葉で呼ばれているだけで、本来ならば、別の名前がついているべきだろうと思う。前者がMuseが庇護する「祈りとアートの音楽」なら、後者は「デコレーション」とか「サポート」と呼ぶのがふさわしいだろうし、本当は音声ファイルと呼んだほうが正しいだろう な。

サポート音声ファイルの世界では、「畏敬の念」より「サポート力」

デコレーション用・サポート用の音楽は「メインのコンテンツが別途存在する」状況で使用される。「売りたい」と「ムードを良くしたい」がBGM=サポート音楽の仕事だ。

CM用BGMの場合は売りたい品物があって「この品物が売れる!」がゴール。CMビデオの盛り上がりに合わせて、音楽の強さや弱さを変えて、ここぞ!というところで最高に盛り上がる音楽を提供することで「売れる」を達成させる。

YouTubeやラジオのBGMならば「雰囲気をなんとなく醸し出すためのサポート」をするのがBGMのやること。音楽が持つテンポや音の勢いや高さ・低さは「あったかい感じだな〜」とか「優しいな〜」とか「強そうだな」とか、あるいは「勝てそう!」とか、潜在意識に働きかけて色んな感情を巻き起こすので、これを利用して番組の雰囲気をサポートするわけだ。

こういう状況では、祈りは必要ない。必要な能力は「音が持つ力を知っている」こと。音楽の能力を分かっていて、利用できることが何より重要になる。

Ⅱ - AI作曲による2種類の音楽の顕在化が、これからの作曲家に与える影響

上記したように、AI作曲サービスが出てきたことで、音楽には2種類あることが目に見えるようになってしまった。

音楽と呼ばれていたものの中には
・祈りとアートの音楽と
・利用され消費されるためのサポート音声ファイル

の2つがあるのだ。

これが顕在化し、後者を作るのがとっても簡単になったことは音楽家の未来にどんな影響を与えるか … 私が今予想できることは4つある。


  1. 音声ファイルの世界は「作れる人」より「使い方が上手い人」。

  2. 祈りの音楽家の世界は、よりはっきりと「体験型価値提供」に寄っていく。

  3. 「祈りとアートの作曲家」と「音声ファイルの作り手」の世界が超はっきり二分化する。

  4. 仕事を失って泣くのは「流行りの真似ばかりしていた」人たちと、怖くて祈りの世界に行けなかった人たち。結局やりたいことをやるのがいい。


1.音声ファイルの世界は「作れる人」より「使い方が上手い人」。

上記の復習になるが、「作曲家」にはこれまでも2種類あった。

1つ目は「これは自分のアートです」と自分のブランドで発表している人たち。自分が作りたいものを作り、自分で演奏したり、演奏家に提供したりしている。上記の「祈りの作曲家」に近いのがこの人たちで、私はこのグループに含まれる。このビジネス形態だと自分のファンになってもらう努力が必要で、良い曲を作る努力だけでは足りない。だから負担の多い仕事の仕方だとされる。

それに対し、商業の場で使われる音楽を作って売る仕事というものも存在し、この仕事も作曲家と呼ばれていた(これまでは)。これを私は上記で「サポート音楽ファイル」と名付けた。この部分にAIの影響がまずはドーンと出ることになるだろう。

サポート音楽ファイルの作り手は、作った作品を使い手に売ることで生計を立てていた。多くの場合「誰が作ったかは記名させてもらえず」、作った曲だけを名無しで里子に出すことが要求された。

彼らの中には、2000年ごろから流行しだした「楽曲バンク」のようなものに曲を登録している人も多かった。これはテレビ・ラジオ等・CM・YouTube等で一度でも番組を作っている方には馴染みがあるはずのサービスで、番組制作者は好みの楽曲を検索して使うことができた。

こういうバンクに楽曲をたくさんしておくと、それなりの使用料が貰えるので生活は成り立つ。でも、クライアントの要求に合わせたものを作るだけで、自分の好きなものは作れないし、どんなに使われても自分の名前が出ない・・・それがこの仕事。なので「いつか自分の産んだ子にちゃんと名前を付けて東京ドーム公演するんだ」という夢を描きながら自作曲をバンクに里子に出す、みたいな作曲家がとってもたくさんいた。当時はこれが最も賢い仕事の仕方だと言われ、私のようにバンク登録をせずに「俺の名前で勝負するっす」な人は、ちょっとバカだよね〜扱いをされたものだった。

「音楽を作れる特殊能力」はもう要らない

この職業で重要視されたのは「音楽という特殊なモノを作れる特殊能力」。これが、AI時代にはもう要らない。ものの5分で、条件を満たす楽曲が楽曲が出来てしまうから。

逆に「サポート力の高い音を、アプリを駆使して作れます!」という方には仕事があるだろうな、というのが私の予想していることだ。「作り手」ではなく「アプリの使い手」が大事になってくる。バイト募集で「エクセルを使える人優遇します」とあるのと似た状況が音楽でも起きるということだ。

たとえば、今回調べたAI作曲サービスの中でも圧倒されたこちら Soundrawはあまりに凄いアプリなので、そのうちSoundraw検定、みたいなものが出来て、ハイレベルな使い手であると証明できれば仕事がどんどん来る人になるんじゃないかと思う。

*Soundrawはどんな曲が欲しいかの情報を選択肢から選ぶと、希望に合わせた曲を作ってくれるサービス。

Pro Modeで表示されるカスタマイズ・メニューをぜひ見てほしい。例えば60秒のCMの何秒目あたりで一番大きな盛り上がりを作りたいか、を指定して音楽を作ることができる。

CM制作の流れも変わる

これによりCM制作の流れや番組作りの流れも変わることになる。これまではCMの制作が決まると、そのCMにつける音楽を作曲する作曲家がアサインされるものだったが、これからは「Soundrawの最高の使い手」がアサインされるのだろう。

CMの流れに一番合うところで「一番ぴったりくる効果」を引き出すのが上手な人が最高の使い手で、使い手は創作主ではないため、この音声ファイルの著作権を持たない。こういう仕事は多分今年からどんどん増えていくんじゃなかろうか。

こうした著作権を持つことにこだわらないファイル制作者が増えると、著作権というものの存在価値自体が下がっていくのかもしれないと思う。そうすると、日本だとJASRAC、米国だとBMIやASCAPなど著作権管理団体が莫大な資金を持つという世界は終わるのかもしれない。

2.「祈りとアートの音楽家の世界」ではよりはっきりと「体験型価値の提供」が大事に。

一方で、自分の名前で勝負してきた祈りとアートの音楽家たちには「One and Onlyな体験」を「しっかりとファンに届ける」ことが求められるようになるだろう。

近年、ロックバンドColdplayのワールドツアーが話題になっていた。「宇宙・地球・自然環境と自分との関わり」などを基軸に据えた壮大な世界観にファンを巻き込み、これぞ正に体験型の価値!という感じ。

体験型というと、こういうアミューズメントパークのような壮大な世界観のものを想像しがちだし、「体験型価値」で検索すると「売らないお店」とか「コト消費」とか色んな言葉が出てきてビジネスワードに疎い音楽家としては「うわああ」(頭を抱える)となってしまうが、これはそんなに難しいことではなく、要するに「はー、みぎわさんのコンサートに行くとやっぱり、みぎわさんのところに行ったときしか出来ない体験ができるよなあ。だから大好きみぎわさん!」と思っていただければ良い、それを目指すべし!と私はざっくり解釈している。

一つの音楽作品を生み出す上で、私達はさまざまな方向のアイディアを出す。莫大な数のアイディアを一旦全部出した上で「今回は要らない」と決めたものを削り落とし、選択と集中を繰り返した上で、最適な表現を一つにまとめて1つの楽曲に「落とし込む」。このときアーティストは「この落とし込み方が一番好きだからこれにしよう!」という極めてパーソナルな感覚を使って最終的に1つの結論を選んでいるわけで、これはとってもデジタルっぽくない。

AIの凄いところは、世の中に溢れてくる情報をギャーッと集めてきて高速計算出来るところだ。だから「今流行っている音楽の情報を集めてきてそれらしい曲を作りましょう(高速で)コンテスト」ではAIが勝つ。でも「今流行っている音楽の中でみぎわが好きなやつだけを全部聴いて、それに影響を受けた上で2023年6月末現在のみぎわが最高に超いいと思う曲を最速で作ろうコンテスト」では絶対私が優勝するに決まってる。

私の音楽や私の制作過程を好きになってくださった方は、私とコンサートで過ごす時間や、私の制作過程を全部応援してくださるし、もっと知りたいな、楽しいな、と思ってワクワクしてくださる。そういうふうに共に時間を過ごしていくことがアーティストができる価値提供だと思うのだ。

3.「祈りとアートの作曲家」と「音声ファイルの作り手」の世界は超はっきり二分化する。

ちょっとポエムみたいな言い方になってしまって恐縮だが、自分らしさを信じるのが、アーティストにとっては、やっぱりとても重要なのだ。楽しいこと、嬉しいことから、息が止まりそうに辛かったこと、これまでで一番寂しかったこと、そういうこと全部を乗り越えて来た今の私が直感で「これだ」と思うものが、一番私らしい。

そういう直感が音楽に反映されるための技術を磨き、より良いと「私が思う」音楽を作り「絶対に良いと私が思う」方法で世の中に発表する、ということを繰り返すことは、これまでのアーティストにとっても必須だったけれど、これからのアーティストにとっては「AIとの距離を保つために」も絶対に必要なことになってくるんだろう。

それを繰り返して、「みぎわさんだから大好きだ」と言ってくださるファンを増やして、デジタル計算で出来ることと私の作品の間に大きな溝をどんどん作っていくしかない。

そういう行為が「アーティスト」と「使い手」の間で繰り返されることによって、3つ目の結論である「二分化」はどんどん進んでいくんだと思う。

実はこの投稿で使っている画像は全部AIによる自動生成だ。CANVAというサービスに新しくAIによる画像と音楽の自動生成機能が加わったので早速使ってみたわけ。

ヘッダーのロボットは「ロボット作曲家と人間の作曲家が勝負している様子を描いてほしい」と頼んだらなぜかこうなった。虹色っぽい水彩画の2つは、たくさんの人が集まって歌を歌っているところとか、握手をしている人の周りを音符が飛んでいるとか、かなり具体的に色々説明文を書き込んで生成してもらった。

4. 仕事を失って泣くのは、「流行りの真似ばかりしていた」人と、「怖くて祈りの世界に行けなかった」人たち。 結論:やりたいことをやるのがいい。

最後に、どうしても伝えたいことがある。これから作曲家とか音楽家を目指そうと思っているみなさん。「人生はやりたいことをやるためにあるのです」。これより大事なことって、人生に、ほぼ一つもないよね。

いつの時代も世の中ってずーっと変化している。なのにみんな、安定・安心を求めてより変化が少ない方に行こうとする。

でも、世の中が動いているんだから、そこで自分が止まったら、遅れてしまうってことだよ?と私は思う。遅れて一人だけ取り残されて。それって安定とか安心と呼ぶにふさわしい生き方なんだろうか?

今まで流行りの曲を真似して、曲を作った気になっていたとしたら、あなたは危ない。流行りの曲を分析して似たものを作るなんてAIが大得意とするところだ。それが本当にあなたのやりたいことだったのなら良いけれど、お金や人気とりのためにやっていたなら、今すぐやめて、自分は誰なのか、本当に好きなのは何なのかを研究したほうがいい。

祈りとアートの世界に行きたいと願いつつも怖くて勇気がなくて行けなかったとしたら、そんなあなたも注意したほうがいい。これからは「アート」と「音声ファイル」の間には大きな溝が出来て、その2つを行き来するのは海外移住をするくらいの大変さになってくるだろう。

音声ファイルが好きでやっているなら良いけれど(これは絶対おもしろい世界で、元広告屋の私としては、それはそれでやりたい!と思う世界だったりする)、もしあなたが、ただ単に怖くてアーティスティックな世界に飛びだせなかっただけならば、今が飛ぶタイミングだ。今日、今この瞬間に飛ぶぞ!と決めなければ、多分後で後悔することになるだろう。

Ⅲ - 音楽のmagicを起動するのは、あなただ。

最後にひとつ、私が書いた曲のリンクを貼っておきたいと思う。これを書いたのは2020年、コロナで癌の治療中だった友達が亡くなったときだ。その友達が亡くなったとzoomで報告したら、大の大人達が、崩れ落ちて泣いた。死を悲しんでいる周囲の友人たちをどうしても励ましたくて私はこの曲を作った。厳しいロックダウンのNYでは、誰にも会いに行けず、アパートの真っ白な壁は、賑やかな街に比べてとても無機質だった。窓から外を見てもひとっこひとり歩いておらず、気を紛らわすものが何もなかった。本当に厳しい時代だった。このビデオで再生される音声はその直後に私がピアノで弾いたその音を録音したものだ。

不思議なことに、ここで聞こえるおとには、本当の私のまっすぐな気持ちが入っていると自分でも感じられる。混じり気のない、友だちを励ましたいという強い気持ちがピアノの音の中に入っている。こういうなんとも説明のしきれない不思議なことが起きるのが音楽で、これを私のNYの音楽仲間たちはシンプルにmagic(魔法)と呼ぶ。

音楽には魔法がある。そのmagicを起動するのはあなたのこころだ。

あなたのこころがAIによって変わる未来を畏れてびくびくし、生計が立てられるかどうか、何個のいいねがつくか、フォロワーは増えるか、有名レーベルに雇ってもらえるかだけを気にしている間は、magicは決して起動されない。

あなたが音楽への畏敬の念を思い出して、本当の自分の気持ちを思い出して、その2つを信じられないくらい強くコネクトしたときだけ、このmagicが起動される。magicを起動して、未来に残る素晴らしい音楽をつくるのは、音楽家のみなさん、あなたなのです。



追記:たくさんの方にお読みいただきこころより感謝申し上げます。以下は作曲についてのmore情報です。(日本語崩壊笑)どうぞご利用ください。コメントも楽しみにお待ちしています!

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