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香港のこの夏、世界にとって特別な夏を見ないふりしてすり抜ける

免税店にシャッターが下りた深夜の空港はひんやりしているのに、みな忙しなく「パスポート!」だの「こちらに並んでください!」だのと大きな声を出している様子が雰囲気をちぐはぐにしている。

香港を揺るがすデモは、4日前香港国際空港にも到達した。深夜にも関わらず、このように人々が忙しなく走り回る様を、私は関心を持ちつつも何もできることがないので達観している日本人女性を演じながら手荷物検査の列に並んでいた。

たくさんの航空便が遅延や欠航を繰り返している。
仁川ー香港便は1時間遅延し、香港ーローマ便は4時間遅延した。

ここにいる誰もが、今香港で起こっていることを知っている。余裕の無い人は走り叫び、余裕のある人は澄ました顔で静かに列に並んでいる。
『DUTY ZERO』の赤い文字が光り、中華圏らしい提灯などがグリルシャッターの向こうからあたりをこれまた赤く染めている風景は、前回と同じのようで違う匂いを放っている。

夜の香港は妖艶であった。古典を読むように漢字から文章の意味を推測して遊ぶとき、時代を遡ったような気分になれるのだ。この現代的な背の高い建物が迫っている、複雑な匂いのする中で、すり抜けて長く速いエスカレーターをくだったりする。街中がガヤガヤしていて怪しいインド系のお兄さんが「ハッパ」を進めてきたりする。5軒に1軒はROLEXではなかろうかと思うほどの反復性は、香港のもつ魅力の一つであった。

今アジアが変わろうとしている。と空港の電光掲示板は光を放っている。

アジアは変わる。変えることができる力を、香港や韓国の若者のみならず私でさえ、しっかりと手に握っているということを、この夏に飲み込んでしまっても良いだろうか。


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