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「おっちょこちょい」という地獄を生きることについて。

「天然ってさー、簡単に言えばただの馬鹿だよね」 
高校時代の友達が言った言葉をふいに思い出したのは、汗だくになってタクシーに乗り込んだ時である。
先週の土曜、身内の結婚式のため、ヘアセットを予約した。自宅の最寄駅の美容院をホットペッパーで検索したのだが、最寄り駅と隣駅は名称がよく似ているので、そそっかしい私は間違えるに違いない。そう思い、細心の注意を払って何度も確認し、ちゃんと「自宅最寄り駅」である「○○駅」の近くの美容院を予約したはずだった。
そして、当日、家を出て美容院までの道のりを確認しようと地図を開き、愕然とした。

「西○○駅より徒歩3分」

その地図にははっきりと隣駅の駅名が記されているではないですか!(いるではないですか!じゃねぇよ)
とりあえず美容院に電話を入れ、平謝りをしてすぐさまタクシーを拾い、西○○駅にある美容院に向かった。念入りに仕上げた化粧も汗で半分落ちている。どんまい。

***

というようなことが、私の日常には当たり前に起こる。
まぁ、大学生の飲み会くらいの頻度で起こる。
そして当たり前に、仕事でも起こるからたまったものではない。
私は現在、単調な割に集中力を要する仕事に就いていて、自分のそそっかしさを自覚している分、あらゆる対策を講じてきたつもりだ。メモを取るとか、何度も確認するとか、そういう初歩的なことに始まり、自分の間違えやすい箇所をまとめたノートも作って、それを意識しながら仕事を進めるということもしてきた。
しかし、人間、起きている時間の全てを全方位に集中して生きてゆくことなどできない。その針の穴のような隙間をすり抜けて、「うっかりミス」はやってくる。
単純な計算を間違える、データの保存先を間違える、資料の置き場所を間違える、記載漏れ、勘違い、誤操作。
そいつらは網戸を一瞬開けた隙に侵入してくる蚊のようにやってくるのだ。挙句、確認のしすぎで仕事が遅れる有様。
ほんとうだ。みんなも試してみてください。と、言っても伝わらないのが、この「そそっかしい病」の地獄なのである。誰にも伝わらない。散漫な人、要領の悪い人、「ただの馬鹿」として、人の目には映ってしまう。

***

「あなたそれはヤバいよ、三年もいて」
会社の先輩は、ついに冷たく言い放った。ほんとにヤバいと思います、自分でも。そう思っているから、反論する気にもならない。ただ、自分は存在として迷惑なのだ、という意識が、石のように胸にのしかかった。
うっすら昔から思っていたのだが、多分私には発達障害の傾向がある。病院に行って診断を受けたわけではないけれど、ネットで公開されている情報が正確なら、その傾向は大いにある。もっとも最近は、「鬱」に続いて「発達障害」が一大市場を築きつつあるらしい。発達障害ビジネスの煽りに乗せられ、「発達障害」を名乗りたい人も多いと聞く。自分を病気の型に当てはめてしまうことで、克服すべき課題から逃避する気持ちはわからなくもない。だってこの気苦労に病名が与えられるなら、これを先天的な病気のせいにできたら、どれだけ肩の荷が降りるだろう。どれだけの自己否定から解放されるだろう。

「鬱は甘え」っていう言説が生まれたように、「発達障害は甘え」って言いたい人もいるのだろうし、症状の深刻な人から見て、「お前なんかただの怠慢だ」という見方もあるかもしれない。
でも本当の問題は病気か否かじゃなくて。

***

一番の課題は、この病的なそそっかしさを私のひとつの属性として、それでも自分を愛しながら生きる道を探ってゆくことだ。
スピリチュアルの世界では、心の状態にむやみに病名を与えることを良しとしない。なぜなら、スピの目指す最も美しい生き方とは、自己を統合させることだから。精神科的な「診断」は、統合と真逆の分離を引き起こしやすい。
こういう自分は良いけど、こういう自分はダメだから駆除しましょうという在り方は、一見健全な努力であるように見えて、自分を他者に明け渡すことでもある。
ありのままの自分の姿を、「社会に受け入れられる自分」に無理やり歪めてゆくことは、承認(もっと言えば愛)は外側から与えてもらうというものだという価値観に基づいている。
でもそうじゃなくて、まず内側から自分を認めて愛することができれば、自然と愛は外からやってくるし、みんなが最終的には幸福になれるよ、というのがスピの基本的な自意識の持ち方だと私は理解している。
それを踏まえて、個々の持つエネルギーを、自然で無理のない形で社会に還元するのが、スピ的に言う「天職」ってわけ。猫が犬になろうとしても無理なように、
「与えられた情報を正確に素早く処理する」仕事に私が就いていることをまず見直すべきだなぁと電車に揺られながらようやく思い至った春なのでした。

#スピリチュアル #仕事 #生きづらさ #発達障害 #日常 #コラム



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