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テアトル梅田の閉館に寄せて

閉館

 本日2022年9月30日、テアトル梅田が閉館します。正確には、営業終了が19時半と公式アカウントがツイートしていたので、もう閉館してしまいました。

 最終日の今日は上半期の末日。今日までに対応しないといけない仕事をたくさん抱えていた私は、最終日の上映を観に行きたいと思いつつ、どうしても都合がつけられませんでした。せめて定時で仕事を終えて駆けつけ、閉館を見届けたいと思っていたのに、営業終了時刻にはまだ仕事中で、それも叶いませんでした。このままではどうにも気持ちが収まらないので、これを書き始めています。

テアトル梅田
https://www.ttcg.jp/theatre_umeda/

2020年4月の休業

 閉館当日の今日、いてもたってもいられずテアトル梅田のことを書こうと思ったものの、実は2020年の4月にテアトル梅田について結構書いたので、今日はそれ以降のことを中心に書こうと思います。というのも、あのときが私にとってちょっとした転機だったのかもしれないと思うので。

(当時のテアトル梅田の記事はこちら

 2020年の4月初旬、コロナ禍による緊急事態宣言で全国の映画館が初めて一斉休館に追い込まれたとき、資本力の弱いミニシアターはそのまま閉館してしまうかもしれないという危機的状況の中、Save The Cinemaの署名活動が立ち上げられました。そのとき、私にも何かできることはないか、という思いに駆られ、ミニシアターを中心に映画館のことを毎日書き綴ろうと決心しました。

(当時の決意表明はこちら

 そのとき、私にとってミニシアターといえばここかなと思い、最初に書いたのがテアトル梅田でした。その後、ゴールデンウイーク頃まで毎日1館ずつ、大阪近郊で行ったことのある映画館のことを30館ほど書き続け、もうさすがに行ったことのある映画館が尽きるけど、映画館の休業予定はゴールデンウイークまでだから大丈夫かなと思っていた矢先に休業延長。もう書けないよと思いながらも、今はなくなった映画館の思い出話を書いたりしながら、5月下旬に映画館の営業が再開するまで書き続けました。今思い出しても、ほんと毎日よく書いたもんだ。

 あのとき、実は人知れず覚悟を決めていました。それまで、いろんな映画館に頻繁に行っていたものの、できるだけバレないように、こっそり通っていたつもりでした。というのも、あまりにしょっちゅう行くと顔を覚えられて、「アイツまた来たよ」と思われるんじゃないか、たまに上映中に寝落ちする私は、「アイツ今日も来たけど上映中ずっと口開けて寝てたよ」と思われるんじゃないか、などと気にしていました。それなのに、こんなに映画館のことばかり書いたら映画館の人の目にも留まるだろうから、「アイツか!」って特定されそう。それはできれば避けたいところでした。でもそんなことより、このまま映画館が閉館してしまったら私が一番困るから、再開後にみんなが映画館に行きたくなって映画館に観客が戻るよう、身バレしてもいいから書こう、と覚悟しました。

 結果的に、やはり身バレすることになったというか、これをきっかけに映画館のスタッフさんと話をするようになりました。また、映画館の話をきっかけにSNSでつながりができた方とも交流するようになりました。それはとても幸運な出会いで、「アイツまた来た」と思われたらどうしよう、と気に病んでいたことなど吹き飛ばすものでした。

2020年5月の営業再開

 大阪では、多くの映画館が2020年5月22日(金)に営業再開しました。

大阪近郊の映画館再開情報

 このとき、私が最初に訪れたのがシネ・リーブル梅田とテアトル梅田でした。当時のチケットを引っ張り出してきて確認したところ、5月22(金)10:40~『レ・ミゼラブル』@シネ・リーブル梅田、13:00~『世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ』@テアトル梅田、14:55~『21世紀の資本』@テアトル梅田、17:25~『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』@シネ・リーブル梅田、19:15~『白い暴動』@シネ・リーブル梅田の5本立て。約1か月半ぶりの映画館が嬉しくてたまらなかったんでしょうけど、相変わらずムチャしてました。

2021年4月1日の「しねまぼっこ」初開催

 2020年3月3日に第1回が開催される予定だったテアトル梅田の映画サロン「しねまぼっこ」は、コロナ禍のあおりを受けて開催延期となり、長らく開催できないままになっていました。それがようやく開催されたのが2021年4月1日(木)。平日で私は行くことができませんでしたが、2020年初頭の最初の告知から1年以上を経てようやく開催に至ったのが、なんとも嬉しかったのを覚えています。

 「しねまぼっこ」はその後も毎月1日開催となるはずでしたが、4月下旬に発令された緊急事態宣言のせいか、2021年4月1日の第1回が開催されたきり再び長らく休止となります。エイプリルフールの4月1日にだけ開催されたなんて、嘘みたいな本当の話だなと長い間思っていました。

2021年4月の休業

 最初の映画館一斉休業から約1年後の2021年4月、またもや発令された緊急事態宣言により、大阪では4月25日(日)から多くの映画館が再び休業。またもや私は、このまま映画館が閉館になったら困る!と、いてもたってもいられなくなり、でも1年前に映画館のことは書き尽くしてこれ以上書くネタもないので、今度はClubhouseで夜な夜な映画館の話をする部屋を立ち上げることにしました。その少し前の2021年1月末頃、芸能人を中心に話題になって一気に広まった音声SNSのClubhouseです。このときは大阪の映画館が休業していた5月31日まで、ほぼ毎晩23時頃から映画好きの友人と2人で話し始め、そこに映画館好きの人が聞きに来たり話しに来たりで、深夜まで映画や映画館のことを話し続ける日々を過ごしていました。

 梅田で映画のはしごをしようとしたら、テアトル梅田からシネ・リーブル梅田まではどれくらい時間がかかるとか、TOHOシネマズ梅田なら予告編が結構長いから、テアトル梅田の終映後10分くらいしか時間がなくても間に合うとか、とりとめもなくいろんな映画館の話をしていました。

 このときも、ほんと毎晩あんなことよくやったもんだ、と思いますが、このときに知り合った人とは今もSNS上だけでなくリアルに交流が続いており、またしても映画館をきっかけに幸せな出会いが広がりました。

 ちなみに、4月25日(日)に大阪の映画館が休業になる前、テアトル梅田で最後に観たのは4月17日(土)16:55からの『街の上で』でした。

2021年6月の営業再開

 大阪の多くの映画館が、2021年6月1日(火)から営業再開となりました。このとき最初に観に行ったのは、6月1日(火)9:10~『ファーザー』@TOHOシネマズ西宮OS、14:00~『ローズメイカー』、16:00~『アメリカン・ユートピア』、18:10~『グランパ・ウォーズ』@大阪ステーションシティシネマの4本立て。平日はフルタイムの仕事をしている私ですが、映画館再開記念休暇だと称して仕事を休み、映画館に行きました。

 再開後の初テアトル梅田は、6月9日(水)9:10~『水を抱く女』でした。この日もおそらく、久しぶりに観たい映画がたくさんあるから、とレディースデイの水曜に仕事を休んで映画館に行ったのだと思います。

2021年11月1日の「しねまぼっこ」再開

 2021年4月1日の初開催以来、長らく休止となっていた「しねまぼっこ」が、ようやく11月1日(月)に再開されました。平日だったことと東京国際映画祭の会期中だったことで、このときも行きたいと思いつつ私は参加できませんでしたが、再開の報がとても嬉しかったのを覚えています。

 その後、12月1日(水)も平日で参加できませんでしたが、1月2日(日)は正月だから仕事が休みで参加できる!と思い、2022年の正月早々「しねまぼっこ」に初参加を果たしました。このとき、コロナ禍以降に映画館の話がきっかけでSNSだけでつながっていた方と、初めてリアルにお会いすることができたのも、テアトル梅田が私にもたらした思いがけない幸運でした。

2022年7月19日の閉館発表 

 コロナ禍を経て、全国的には閉館になる映画館がいくつもありましたが、幸運にも大阪ではそんな話を聞くこともなく危機感も薄れていた今年7月、突然飛び込んできたのがテアトル梅田の9月末閉館のニュースでした。一観客に過ぎない立場ながら、もう少し私にも何かできることはなかったのかと悔しいやら悲しいやらで、すぐには受け入れられませんでした。でも、もはやどうしようもなく、あとは9月末までにできる限りテアトル梅田に行くくらいだろうかとぼんやりと思っていました。

 そう思いながらも実際にはなかなか行くことができず、閉館の発表後にテアトル梅田に行くことができたのは8月11日(木)の祝日でした。この日は、9:45~『こちらあみ子』@テアトル梅田、12:00~『長崎の郵便配達』@シネ・リーブル梅田、15:25~『魂のまなざし』、18:40~『コンビニエンス・ストーリー』、20:40~『WANDA/ワンダ』@テアトル梅田の5本立て。閉館のショックからか、またもやムチャしてました。

2022年8月と9月の夜の宣伝会議

 そういえば、閉館のニュースの後にいてもたってもいられず、8月1日(月)開催の「夜の宣伝会議」に参加しましたっけ。以前は天神橋筋六丁目にあるブックカフェバー「ワイルドバンチ」で開催されていた、テアトル梅田の劇場宣伝担当の瀧川佳典氏と、関西の映画・映像ウェブマガジン「キネプレ」の編集長である森田和幸氏による月1回の企画です。ワイルドバンチの閉店後はTSUTAYA BOOKSTORE 梅田MeRISEで開催されていて、このとき久しぶりに参加しました。

 その次の回の9月5日(月)に開催された夜の宣伝会議も、トロント国際映画祭への渡航直前で多忙を極めていたものの、もうすぐテアトル梅田がなくなるのに参加しないわけにはいかない!と何とか都合をつけて参加。やはりお二人のお話は面白く、長らく参加していなかった間に恒例になっていたクイズ企画もあり、楽しませてもらいました。

2022年9月22日テアトル梅田さよならトークベント

 私がトロント国際映画祭から帰国した直後、またもや多忙を極めているものの、これは参加しないわけにはいかない!と思って参加したのが9月22日に開催された「テアトル梅田さよならトークイベント」です。

 が、ここまで書いたところで9月30日の23時50分。閉館の今日中にはとりあえずアップしたい!ってことで、途中ですがいったんここまで!続きはまた書きます!たぶん!

 さて、10月1日になりましたが、気を取り直して続きを書きます。

 9月22日のトークイベントには、夜の宣伝会議でおなじみの瀧川さんを中心に、テアトル梅田のかつての支配人や、塚口サンサン劇場、パルシネマの現支配人が登壇。さらには、梅田ガーデンシネマ、心斎橋シネマ・ドゥ、扇町ミュージアムスクエアなど今はもう閉館した関西のミニシアターで働いていた映画館関係者、関西で映画の宣伝をしている方、してきた方なども登壇。ここ数十年の関西の映画や映画館事情をよく知る方による懐かしい話がどんどん飛び出して、幸せすぎる2時間でした。

閉館前のさよなら興行

 9月16日(金)から閉館当日の9月30日(金)まで、さよなら興行「テアトル梅田を彩った映画たち」が開催されました。劇場で配布されていたチラシより、上映ラインナップは以下のとおり(括弧内はテアトル梅田公開初日)。

ナイト・オン・ザ・プラネット(1992/6/13)
ユージュアル・サスペクツ(1996/4/20)
トレインスポッティング(1997/1/18)
ムトゥ 踊るマハラジャ(1998/8/15)
オール・アバウト・マイ・マザー(2000/5/13)
アメリ(2001/12/8)
ピンポン(2002/7/27)
コーヒー&シガレッツ(2005/4/2)
パプリカ(2006/12/2)
秒速5センチメートル(2007/3/24)
劇場版「空の境界」第一章 俯瞰風景(2008/3/8)
劇場版「空の境界」第七章 殺人考察(後)(2009/8/15)
南極料理人(2009/8/22)
ぼくのエリ 200歳の少女(2010/8/21)
白いリボン(2010/12/18)
セトウツミ(2016/7/2)
オーバー・フェンス(2016/9/17)
この世界の片隅に(2016/11/12)
夜空はいつでも最高密度の青色だ(2017/5/27)
日日是好日(2018/10/13)
愛がなんだ(2019/4/19)
この世界の(さらにいくつもの)片隅に(2019/12/20)
花束みたいな恋をした(2021/1/29)

 正直なところ、私は約四半世紀にわたり数えきれないほどテアトル梅田で映画を観てきたのですが、何を観たのか意外と覚えていません。そのかわり、とてもよく覚えていたのが、劇場公開時にどうしても時間が合わずに見逃した『セトウツミ』でした。今回、6年越しにテアトル梅田での観賞が叶って嬉しい半面、それが閉館の特集上映だったことには、なんとも複雑な気分でした。それでも、満席でたびたび笑い声の聞こえる中、地元が舞台の『セトウツミ』を閉館前にテアトル梅田で観ることができたのは、とても幸せでした。

映画と人をつなぐ映画館

 テアトル梅田は梅田ロフトの地下にあるせいで、地下への階段を降りることで映画の世界へと誘われ、映画を観終えたあとに階段を昇って地上に出たら、またそれまでの日常が戻ってくる。そんな思いをいつも持っていました。それは、幼い頃に映画館の暗闇でスクリーンに映る物語に心躍らせていた記憶につながるもので、幸せな空間でした。

 そんな空間で、あるときは数人足らずの観客とともに、またあるときは満席の中で立ち見しながら、他の映画館では上映していない世界中の数えきれない映画に触れてきました。ひとりきりで行くことが多かった私は、見知らぬ他の観客に囲まれながら、ともに笑ったり息をのんだりして劇場が一体になる体験を何度もしてきました。テアトル梅田は、そんなふうに映画や人をつなぐ場で、かけがえのないものでした。

 こんな思いをしながら私がテアトル梅田に通っていたのがコロナ前の2020年4月まで。それに加えて、以前はさほど関わりを持ってこなかった映画好きの方々と交流するようになったのが、コロナをきっかけにウェブやSNSで映画館のことを発信するようになった2020年4月以後のこと。今思えば、2020年4月を境に、映画にからんで人との関わりがずいぶん変わりました。そして、そのときどきで常にテアトル梅田が介在していました。

 9月22日のトークイベントの最後のほうで、このトークイベントをきっかけにたくさんの人がつながって、テアトル梅田の閉館後も関西の映画の未来がつながっていくことを望んでいる、といった趣旨のことを瀧川さんがおっしゃっていました。これまでずっと、なんとなくテアトル梅田に対して抱いていた言葉にならない感情と、私がテアトル梅田に通う中で経験してきたことのすべてに、説明がついたような気がしました。そして、映画や映画館の未来へのバトンを確実に受け取ったと思いました。

 とりとめもなく長々と書いてしまいました。ただ、テアトル梅田の閉館にあたって、今の思いは残しておきたい。何がどう映画や映画館の未来につながっていくのか全然見えていないけれど、何かがつながっていけばいい。そんな希望を込めて筆を置き、10月1日でファーストデイの今日、またどこかの映画館に向かおうと思います。

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映画館の思い出

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