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今後の映画館について思うこと

再開した映画館に行ってみて

 大阪近郊では、5月下旬から多くの映画館が営業を再開しました。6月5日に再開予定の高槻アレックスシネマと6月17日再開予定のプラネットプラスワンが開いたら、大阪府下では全映画館が再開したことになるはずです。大阪の多くの映画館の営業再開から約10日が過ぎた今、いくつかの映画館に行ってみた私の視点から、今後の映画館について思ったことをまとめておこうと思います。

 というのも、再開後の映画館について私が映画館の休館中に考えていたことは、もしかしたら少し間違っていたかもしれない、と思ったから。理由はこの後で詳しく書きますが、もしかすると今後は、それぞれの映画館が観客を呼び戻すために、上映作品のラインナップと上映スケジュールの編成がこれまで以上に重要になってくるのではないか、と考えています。また、頻繁に映画館を訪れるリピーター層にどう訴えかけるかという点が、実は意外と重要ではないか、とも考えるようになりました。再開後のこの10日ほど、いくつかの映画館を回った私の実感として。

 私は映画館の関係者ではありません。各劇場でどのように上映作品が決まっていくのか、わかっていません。だから私がこれから書くことは、映画館や映画業界で働く方にとっては的外れなこともあるかもしれません。ただ、関西各地のいろんな映画館を訪れている観客のひとつの見解として読んでいただければと思っています。

映画館の上映作品についての想像

 その前に私の想像するところとして、映画館が上映作品を決めるに当たっては、配給会社と映画館の系列の関係や、地域の映画館同士の関係など、いろんな事情が絡んでいるだろうな、と思っています。だから映画館が好き勝手に上映作品のラインナップや上映時期を決められるわけではないだろうと想像しています。

 ただ、3月頃から新作の公開延期が相次いだせいか、再開後の映画館で現在上映されている作品は、旧作のオンパレードとなっています。これも私の勝手な想像になりますが、新作公開が少ないこの状況下で、全スクリーンの上映枠を埋めるためにどの旧作を上映するかについて、編成に当たり各劇場の裁量で決まる範囲が、以前に比べて拡大しているのではないか、と思っています。

 また、この状況下で、世界的に新作の映画製作が止まっています。このため、公開できる新作の供給が手薄になる状況は、今後しばらく続くと考えられます。そうなると、各劇場の采配による旧作の上映で枠を埋めるという状況も、今後しばらく続くのではないかと私は考えています。また、ある程度は新作の公開が戻ってきたとしても、しばらく新作が少ない状況に変わりはありません。このため、従来なら一部劇場でしか上映されなかったような新作も全国拡大公開され、どこの映画館でも同じ新作が上映されるという状況が増すのではないか、とも考えています。

映画館に行く3つの観客層

 以前に比べ、各劇場が編成する旧作上映ラインナップには、それぞれの映画館の裁量の余地が大きいと仮定して、さらに、どの映画館でも同じ新作が上映される傾向が強まると仮定して、旧作の作品選定や上映スケジュールが映画館に観客を呼び戻すのにどう影響するというのか。その話をする前に、私が考える「映画館に行く3つの観客層」について触れておきます。

 映画館に行く観客層を大きく分けると、(1)映画館で年に50本以上見る観客、(2)年に数回から10回程度はコンスタントに映画館に行く観客、(3)年に1、2回だけ映画館に行く観客、の3つに分けられると私は考えています。

 このそれぞれの観客層が、4月から約2ヶ月の映画館の休館を経てどうなるか。営業再開後に映画館に戻ってくるのかどうか。これについて、映画館の休館中に私が考えていたのは、次のようなところです。

映画館で年に50本以上見る観客

 まず、(1)の「映画館で年に50本以上見る観客」について。私もこの層に入りますが、私を含め、この層は放っておいても映画館に戻ってくる、と思っていました。映画館に行くのが生活の一部になっているような映画好きで、休館中も映画館に行きたくてウズウズしていたはずなので、放っておいてよし。ただし、もしかしたら外出自粛生活中に配信で映画を見ることに味をしめて、映画館から足が遠ざかるかもしれない。とは言え、ここ数年は映画の配信サービスが台頭してきていたのに、それでも映画館に来ていた連中なので、やっぱりおそらく、この層は放っておいても映画館に戻ってくるはず。

年に数回から10回程度は映画館に行く観客

 次に、(2)の「年に数回から10回程度はコンスタントに映画館に行く観客」について。この層が、最も休館の影響を受け、今後は配信でいいや、と考えるのではないかと私は思っていました。でも、映画館に行く楽しみや価値を知っているはずなので、いかにこの層をつなぎとめて一刻も早く映画館に呼び戻すかが重要だと考えていました。

年に1、2回だけ映画館に行く観客

 最後に、(3)の「年に1、2回だけ映画館に行く観客」について。この層は、もともとそんなに映画館に行く習慣がないため、ある意味では休館の影響は小さいかもしれないものの、3つの集団の中でおそらく人数は最大であるために影響が大きく、また、再開後に映画館に呼び戻すのが最も難しい層ではないか、と考えていました。

休館中に考えていたこと

 こんな3つの層を考えたとき、映画館の再開後にまず訴えかけるべきは(2)の層で、この層には絶対に映画館離れを起こさせないようにしなければならない、と思っていました。また、観客に映画館に戻ってきてもらうために最も訴えかけるべきは(3)の層であるものの、具体的に良い方策が思いつかないと感じていました。そして(1)の層は、まあ放っておいていいだろう、というのが私の考えでした。

再開後に考え直したこと

 それが、再開後に考え直したのが、もしかすると映画館に観客を呼び戻すために最も訴えかけるべきは(1)の層ではないか、ということ。この層は、放っておいても映画館に戻ってくるから大丈夫、と思っていた層で、この考え自体は今も変わっていません。

 この層はおそらくごく少数で、しかも1人につき身体はひとつです。現在、映画館が再開したといっても、今はまだレイト上映の実施がない映画館も多い状況です。するとどうなるか。年間50本以上も映画館で映画を見ていたこの層は、以前はおそらく、平日でも仕事帰りにレイトショーを見に行くことがあったはずです。それが今ではレイト上映がなく、休日にしか映画館に行けない。となると、休日にまとめて2本、3本と見に行くことが考えられます。このとき、見たい映画をうまい具合に2本立て、3本立てできる上映スケジュールを組んでくれる映画館と、そうでない映画館があったときに、どちらに行くか。地理的にそんなに遠くなければ、何本かをまとめて見られる編成を組んでくれる映画館のほうを選ぶのではないかと思います。

 実際に最近の私がそうで、『タワーリング・インフェルノ』『リオ・ブラボー』『ベン・ハー』なんて、ぜひとも映画館で見たい旧作を上映してくれるのはいいけれど、これをまとめて見られるのはTOHOシネマズ西宮OSだけだったので、はるばる西宮北口まで行きました。いや、寝坊して結局『ベン・ハー』は見逃しましたが。

 他には、休館で上映が中断されていたグザヴィエ・ドラン監督の新作『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』を上映してくれる映画館の中で、ドラン監督の旧作の『Mommy/マミー』と『たかが世界の終わり』をあわせて見られる上映スケジュールを組んでくれたのが大阪ステーションシティシネマです。こうなると、新作単体を上映する映画館よりも、この機会に過去の監督作もあわせて上映してくれる映画館のほうに行こう、と思います。

 今後、どこの映画館でも新作は同じものが上映されることが多くなったとき、(1)の層がこのような行動を取る結果、複数の旧作をまとめて見られるとか、関連する新旧作品をあわせて見られるといった魅力的な編成を組んでくれる映画館には(1)の層が集まると予想されます。反面、そうでない映画館には(1)の層がまったく足を運ばなくなる事態が考えられます。ここで、1人につき身体がひとつ、というのが効いてきます。

 ごく少数の(1)の層を相手にしなくても大丈夫、と思われるかもしれませんが、私はそうは思いません。それが、(1)の層が(2)の層に及ぼす影響です。(2)の「年に数回から10回程度はコンスタントに映画館に行く観客」の層は、おそらくある程度は自ら情報収集しています。映画雑誌であったり、口コミ情報であったり。

 また、以前は(1)の層であったものの、仕事や子育てが忙しくなったために今は(2)の層になっている、という人も大勢いると思います。そうなると、以前に比べて新作公開が少なく、映画館で旧作の名作が上映されている、という状況になったときにどうなるか。(1)の層の口コミを見て映画館に足を運ぶことが考えられます。そうなるとやはり、(1)の層が薦める魅力的な上映ラインナップを提供する映画館に注目が集まるのではないか、と思います。

 つまり、いかに複数作品を見やすく、魅力的な関連作品をあわせて上映するか。そして、この編成により(1)の層に訴えかけることで(2)の層を連れてきてもらうのが、映画館に観客を呼び戻すのに最も効いてくるのではないか。映画館の再開からこの10日ほどで、そんなふうに考えるようになりました。

 もちろん、今後新作の供給が増えてきて、この作品はこの劇場でしか上映がないとか、IMAX版や4DX版を見るにはあの劇場に行くしかない、といった状況が戻ってきたら、事情は違ってくると思います。ただ、今のところ、新たに公開が発表されている作品には2D版のみのものが多く、スクリーンの大きさや音響に特徴のある映画館でなければ、どこで見ても同じ、という状況になると考えられます。そうなると、差別化できるのは上映作品のラインナップやスケジュールの編成の部分になってくると私は考えています。

補足

 私は映画館の関係者ではないと言いながら、なぜこれほど映画館に観客を呼び戻すとか、映画館の上映作品の編成がどうのこうの、なんて話ばかりしているのか。それは、映画館に観客が入らなくて映画館がつぶれてしまうと、私が困るからです。私が今までどおり映画館で映画を見られる状況を保ちたいから、映画館がつぶれないように、少しでも映画館に観客が戻ってきてほしい。それだけです。

 もし、これを読んでいる映画好きの方で、「私の行動原理はこうじゃない、こういう理由で見に行く映画館を選んでいる」といったご意見なり異論なりがあれば、ぜひコメント欄で教えてほしいと思っています。私の書いた内容や、他の映画好きの方の意見が、映画館の人の目に留まり、少しでも映画好きのニーズに応えてもらえるようになれば、さらに映画館に戻る観客が増えるのではないかと私は考えています。

 映画館全体が苦境に陥っている現在、これまでとは違って観客側から映画館側にニーズを伝えて働きかけることが、映画館の存続につながるのではないか。私は今、そんなふうに思っています。

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