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【絵本レビュー】にんじんようちえん

自分の心の向きが変わるだけで、世界は全く違って見える。

それは子どもも、大人も同じだけれど、子どもの場合は「心の向きが変わるきっかけ」が、とても繊細で、そよ風みたいなので、大人の目からは気づかない場合も多い。

でも、この絵本に出てくる大人は、その繊細な子どもの心の動きを見逃さない。見逃さないけれど、大げさに指摘したりもしない。そっと、気づいて、そして、気づかないふりをしながら見守っている。

そういう安心感に満ちた絵本だな、と思った。
『にんじんようちえん』(3月10日発売 ポプラ社)
ようちえんに通い始めたうさぎの子の、ささやかな日常のお話。

はじめてのようちえん。ほいくえんでも同じこと。誰でも不安だし、最初は行きたくない。子どもにとっては、ようちえんで起こることの全てが、「行きたくない理由」になる。

でも、ちょっぴり心の向きが変わると、今まで「行きたくない理由」だったことの全てが、今度は「行きたい理由」になる。

主人公の赤いうさぎくんにとって、心の向きが変わるきっかけは、「あなたのことをちゃんと見ているよ」が伝わる先生の振る舞いだった。
自分のことをちゃんと見ている人がいる、ってことは、子どもにとってこんなにも、「自分はここに居ていい人なんだ」という自信につながるんだな。私にとっては、はっとする気づきだったけれど、この絵本を楽しむ子どもたちにとっては、当たり前に共感できる心の変化なのだと思う。

そしてまた、この絵本は、絵を読む楽しみも存分に詰まっている。主人公の赤いうさぎくんは目立つように描かれているけれど、それ以外のうさぎにも、1人1人ドラマがある。絵を見ているだけで、その子の性格や、振る舞いや、どんな声でしゃべるのかがアタマの中に浮かんでくる。

きっと子どもたちは、「私は、この子」「この子は、ぴょんこちゃんに似ている」「こんなことするのって、うさうさみたい」と、自分や身の周りの仲間たちを反映させて、身近な物語を重ねるんじゃないだろうか。

親子で、時間をかけて絵を楽しんでいると、そこからお子さん自身のようちえん・ほいくえんの話も聴かせてもらえそう。

子どもにとっては、今、自分が生きている世界が、世界の全てなんだと思う。その世界を自分の心に素直に、懸命に生きている。その懸命な姿を、ほっこり見守ろうとする絵本だな、と思った。

にんじんようちえん
作:アンニョン・タル 訳:ひこ・田中 ポプラ社
※発売は、2022年3月10日です。

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