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小説「年下の男の子」-13

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第15章「未明」

朝子は井田と抱き合いながら、静かにベッドへと井田を押し倒した。

そして白地に黒い大小の水玉模様の下着姿のまま井田の横に座ると、井田のパジャマのボタンを外し始めた。

「正史くん…。いい?」

井田は声を発しようにも声が出ず、とりあえずウンと頷いて見せた。

パジャマのボタンが外され、上半身がシャツだけになっていく。シャツはもどかしいので、井田が自分で脱いだ。上半身は裸だ。

続けて朝子は、パジャマのズボンのゴムに手を掛けた。

「改めて、正史くん。いいよね?」

「…うっ、うん」

朝子はパジャマのズボンを少しずつ下ろしていった。裕子がコンビニで買ってきた、新品のパンツが見えてきた。最後は朝子が勢いでズボンを取り去った。

お互い、下着だけの姿になった。

「裕子ったら、こんなパンツを正史くんに買ってきたんだね。アタシなら、もっと格好良いパンツを選ぶのに」

と朝子がいう井田が穿いているパンツは、いわゆるトランクスの形状で、色は真っ黒、柄は何もないものだった。

「朝子…」

「ん?どうしたの?」

「こんな経験、今までにしたこと、あるの?」

「フフッ、どう思う?」

「えーっ、分かんないよ…」

「…アタシも初めてなの、正史くん」

朝子はそう言うと、顔を真っ赤にし、恥ずかしがった。

「でも、初めての相手が正史くんなら…」

「俺も朝子が初めての相手なら…」

2人は再び抱き合い、キスを交わした。もはや唇を合わせるだけのキスは、2人には意味がなかった。舌をお互いに絡め合い、その音で互いに気持ちがますます燃え盛っていく。

朝子は井田の手を、ブラジャーの上に誘った。

「ね、触って…」

「う、うん」

井田は朝子の左胸を、右手でブラジャーの上から包むようにしてから、少し揉んでみた。

「ああっ、感じる…。正史くん…」

「気持ちいい?」

「…うん。恥ずかしいけど…。ねぇ正史くん、アタシも、いい?」

井田は朝子が言った意味が分からず、曖昧に頷いたが、しばらくすると朝子の右手が、パンツの上に置かれ、井田の股間を恐る恐る触れるかどうかギリギリの感じで、触ってきた。

「あうっ」

思わず井田は声を上げた。これまでの人生で、ほぼ自分でしか触ったことがない股間を、パンツ越しに愛しの女性に軽く触れられている。
今までにないくらい、井田の股間は主張をしている。

「お、男の子のココって、こんなに凄く大きくなるものなの?」

朝子は緊張していた。

「俺も分かんないよ…。初めてだから…」

「アタシも初めてだから…。こんな大きなの、アタシの中に、入るのかな…」

と2人が躊躇していたら、突如部屋の電話が鳴った。

ビックリして、2人は下着姿のまま、ベッドの端と端に逃げるように別れた。

「な、何?この部屋、電話があるの?」

「そ、そうだった…。お兄ちゃんが部屋に鍵を付ける代わりに、親子電話にするようにってお父さんに言われて、電話の子機が引っ張ってあるの。忘れてた…」

電話はしばらく鳴っていたが、お母さんか裕子が出たのか、ベルは止んだ。

同時に下から上へ上がってくる音が聞こえ、2人は目を合わせて慌てて布団を被ったが、音は手前で消え、ドアをバタン!と閉める音がした。

恐らく裕子が電話に出て、時間的にも間違い電話か何かで、裕子が怒りに任せて上に上がり、部屋のドアも腹立たしく閉めたのだろう。

とりあえず2人はホッとしたが、すっかりムードは立ち消えてしまい、苦笑いしながら布団から出た。

「…まだお前達、そんな事するのは早いよっていう、お天道様からの戒めだったのかもなぁ」

井田がそう言うと、朝子も

「そうかも…ね。アタシ達は、もっとお互いを知ってからじゃないと、体の関係に進んじゃいけないよ、そんなお知らせだったのかな」

2人は軽く、唇を合わせるだけのキスをしてから、パジャマを着た。

「でもせっかくだから、もう少しだけ、お話しようよ」

パジャマのボタンを閉めた朝子が言った。

「うん。まだ寝れないしなぁ」

同じくパジャマを着直した井田が答えた。

「どうする?このままお兄ちゃんの部屋で話す?アタシの部屋にする?」

「このままこの部屋で話そうよ。朝子の部屋だと、裕子さんに聞こえたら迷惑じゃない?」

「そうだね。逆にアタシ、お兄ちゃんの部屋には殆ど入ったことがないから、新鮮かも」

やっと朝子の表情から緊張が消え、笑顔が見えた。

「朝子、やっと笑ってくれたね。やっぱり朝子は笑顔が一番だよ」

「そうかな?」

と言って朝子は、ベッドに座った状態で首を傾げるポーズを見せた。井田が好きな、朝子のポーズだ。

「ちょっと温くなったけど、ジュース飲もうよ」

「うん。アタシ、オレンジジュースがいいな」

「じゃ、俺もオレンジジュースにしよっと。注いであげるから、朝子は座ってていいよ」

「え、いいの?優しいね、正史くん」

「いやいや、これぐらい…」

井田はオレンジジュースを2つのコップに注ぎ、1つを朝子に渡した。

ベッドの上で向かい合って座ると、軽く乾杯した。

「カンパーイ」

カチンとコップを合わせた音が鳴る。

井田は一気に一杯飲み干した。

「プワーッ、美味かったぁ!喉が渇いてたんだよね、実は」

「ウフッ、アタシもよ」

「お互い、緊張して喉が渇いてたんだね」

「うん、そうだね。アタシ年上だからって、上手く正史くんをリードしなくちゃって、必死だったの。でも男の子って、凄いね!あの…お股の部分が、あんなに大きくなるなんて、初めて見たよ」

「俺も、あんなにデカくなるなんてね。でも自然現象だから、今はもう鎮まってるよ」

「本当?」

「本当だよ。触ってみる?」

「いいわよ、もう当分は…」

朝子は苦笑いした。
井田はオレンジジュースをお代わりしていた。

「正史くん、中学時代、彼女はいなかったの?」

「俺?うん…。好きな女の子はいたけどね」

「それは燈中さん?正史くんの初恋相手が燈中さんだとは知ってるけど、燈中さん以外に好きになった子はいたのかな?」

井田は朝子が、何気なく聞いてきているだけだとは思いつつ、こういう時はどう言えば良いか分からなかった。燈中に彼氏がいたことで初恋が破れた後も、燈中の事を諦めきれずに心の中で引き摺り続け、他の女の子もたまに好きになったりしたが、告白しようとまでは思わなかったからだ。

「うーん、朝子には正直に言うね。俺、燈中さんに彼氏がいるのを教えられて、初恋が終わったけど、なかなか次に好きな女の子を見付けられなくて、ずっと燈中さんの事を、引き摺ってた」

「…そっか…」

朝子は、ちょっと寂しげな表情になった。

「だから、もし今、朝子と付き合って無かったら、燈中さんからの告白を素直に受けたと思う」

「長年、思い続けたんだもんね…」

「でも今は、俺の彼女は朝子だよ!燈中さんの告白に、どうやって断ろうか迷ってるんだから」

「…信じても、いいのね?」

朝子は上目遣いで、井田を見た。

「未遂に終わったけど、裸まで見せ合った仲じゃん」

「もうっ、アタシの裸はまだ見せてないよ…。下着までだよ」

プウっと頬を膨らませる朝子が可愛い。

「あ、厳密にはそうか、ゴメンゴメン」

「アタシの裸は、当分オ・ア・ズ・ケ!」

「そ、そんなこと言われたら、見たくなっちゃうじゃんか!」

井田は朝子の脇腹をくすぐった。

「キャッ!アタシがそこ弱いの、知ってるでしょ!キャハハッ!」

「よーし、もっとやっちゃうぞ!」

「や、やめてーっ、正史くーん、キャハハッ」

2人でじゃれ合っていると、突然ドアをノックされた。

「ありゃ、調子に乗っちゃったね。裕子ちゃんが怒鳴り込みに来たかな…?」

井田は朝子から手を離し、鍵をあけるとそっとドアを開けた。

そこには予想通り、裕子が仁王立ちしていた。だが、

「あれ?あまりにも喧しいから、てっきりお姉ちゃんも正史くんも裸にでもなって、一線超えてんのかと思ったのに」

と、意外そうな表情で喋った。

「残念でしたーっ!まだアタシが正史くんとそんなことする訳ないじゃん」

(いや、それはいくら何でも…)

井田は、もし電話が鳴らずに朝子とあのまま進んでいたら、今頃お互いに裸になっていて、裕子に踏み込まれたら言い訳出来ない状況だった筈だ。
井田は背中に冷や汗が流れるのが分かった。

「じゃあこんな時間まで何してんの?」

「色々お話しして、面白い話に笑ったりしてるだけだよ」

「それだけで2階に上がってから、1時間以上も持つものなの?なんか信じれーん」

「持つものよ。それが、カップルよ」

「じゃあさ、さっき電話が鳴った時、何してた?」

「あ、そう言えば電話が鳴ったね。アタシがお兄ちゃんの部屋で出るのはどうかと思って、出なかったけど」

井田は、女性は上手く嘘を付くものだと関心していたが、自分に対しても嘘を付かれることがあるのではないかと、ふと不安を覚えた。

「電話はどれで出ても変わらないのに。んー、その時間、電話には出れないようなこと、してたんじゃないのぉ?」

裕子はこれまた女性らしい洞察力で、朝子を追い詰める。

「ねぇねぇ、裕子が想像する、電話には出れないようなことって、何?」

「えっ?だ、だから、イチャイチャして、裸になっていて…」

「ねぇそれって、なんて言うの?」

「……」

裕子は見たことのない、真っ赤な顔になった。

「アタシ、よく知らないから、教えてよ」

「お姉ちゃん、ズルいよ!お姉ちゃんが知らない訳無いのに、なんでアタシに、その、あの、アレについて言わせようとしてんのよ。しかも正史くんの前で」

「言えないんなら、アタシの勝ち〜イェイ!」

「んもう、お姉ちゃん!今夜の恨み、忘れないからね!」

裕子はそう言うと、悔しそうにドアを閉めて、自分の部屋へと戻っていった。

「やっぱり裕子さんも、俺と朝子が何してるか気になるんだろうね」

「まあ、普通はそうなるよね。姉の彼氏が泊まりに来て、夜に何もしないって方が、なんで?ってなるだろうし」

「でも、もしあのまま進んでたら…」

「うーん、どうなったかな。なんだかんだ言って裕子はアタシ達の事が気になってるから、そっとドアに耳を付けて、盗聴?してるかもね」

「いや〜、じゃあ途中で引き返して良かったね」

「まあ、ね。アタシ、女として覚悟を決めた後だったから、ちょっと悔しい部分もあるけど」

そう言って朝子は微笑んだ。

「ねぇ、正史くん」

「ん?」

「アタシの夢の一つなんだけど、一緒のお布団で、ピロートークってしてみない?」

「ピロートーク?ビローって、何?」

朝子はニコニコしながら、

「一つの布団で寝ながら、男の子が女の子に腕枕して、お話しするの」

と答えた。

「おっ、それなら健全だよね!しようしよう」

2人は横になり、一つの布団て一緒になると、井田の方から左腕を朝子の首元へと伸ばした。

「こんな感じ?合ってる?」

「うん、いいね。ありがとう」

しばらく2人は見つめ合っていたが、朝子から話し始めた。

「…実は裕子はね、去年失恋しちゃって、その傷を引き摺ってるの」

「えっ、そうなんだ?あんなに天真爛漫に見えるのに」

「そう見えるでしょ?元々末っ子だからか、あんな性格でのびのびしてたんだけど、失恋したばかりの頃は、元気も無くなってゲッソリ痩せちゃってね」

「それは、片思いが実らなかったの?それとも、彼氏がいたのにフラれたとか?」

「…後者かな。裕子も高校でバレー部に入ったんだけど、H高校の女子バレー部はウチの高校みたいに変な部じゃなかったから、ノビノビ活動してたのね。」

「うんうん」

「で、クラスでも部活でも元気な存在だから、結構目立ったみたいで、しばらくしたら同じクラスの男子に告白されたんだ」

「へえ。ボーイッシュで元気な女の子なら、確かに目立つし、そういう女の子が好きって男子もいるしね」

「それで、裕子にとっては初めての彼氏が出来たの」

朝子はそれからの展開を話してくれた。最初は彼氏が出来たって言って喜んで、お姉ちゃんより先に出来たよ!と自慢していたのに、2ヶ月ほどしたら段々元気が無くなってきて、クリスマスには泣きながら帰ってきたこと。

よく聞いたら、彼氏が裕子の体ばかり求めてきて、その都度まだ早いって断っていたのだが、クリスマスくらいは体の関係を持たせろって迫られて、怖いから嫌だって断ったらその場でフラれたとのこと。

「そうなんだ…」

「だから正史くん、ウチに来てくれた時、裕子は何か変なこと言ってなかった?」

「うーん…。礼儀が合格とか言ってたような…」

「でしょ?裕子は一時的に男性恐怖症みたいになっちゃってね。その時は大学の春休みで帰ってたお兄ちゃんが裕子の面倒を見て、少しずつ恐怖症みたいなのは解消出来たんだけど、男子と付き合う時は、最初はどんな態度なのかってのを重視するようになってね」

「それかぁ。だから俺は当たり前の挨拶してるつもりだったけど、裕子さんは、お姉ちゃんの彼氏は礼儀正しいとか思ったのかな」

「多分ね。裕子に出来た初めての彼氏が最悪だったことの裏返しで、アタシに井田くんって彼氏が出来たって聞いた時、裕子は喜んでくれたけど、ちゃんとした男の子?って何回も聞いてきたもん」

「どう?俺、ちゃんとした男の子かな?」

「ウフッ。ちゃんとしてるから、今こうやって一緒に寝てるんじゃない。アタシ、井田くんのこと、信じてるもん」

朝子は微笑むと、目を閉じて、キスをねだった。

「最初はキスは1日1回って約束だったよね」

「正史くんの意地悪ぅ」

「冗談だよ」

2人は軽く唇を合わせた。

「アタシが眠ってる間も、腕枕してくれる?」

「もちろんだよ。但し…」

「但し?」

「左腕に血行障害が起きたら、抜かせてね」

「アハッ、そこまでは流石にいいよ。痛くなったら、アタシが気付かないように、腕を抜いてね」

「うん、その時はね。あっ、忘れてた」

「えっ?何忘れたの?」

「歯みがき!」

「アハハッ、寝る前の歯みがきは大事だよね。2階のトイレの横に洗面台があるから、歯みがきしてきて。その後、アタシに、子守唄歌って」

「可愛いなぁ、朝子は」

「だって、だって、正史くんと一緒に寝れるんだもん。寝る寸前まで、正史くんの声を聞いていたいの」

「分かったよ。じゃ、ちょっと待っててね」

井田は左腕を朝子の首元から抜き、部屋から出て洗面台を探した。
朝子はその後ろ姿を見ながら、幸せを噛み締めていた。

だが色々有り過ぎたこの日は、ほんの一瞬朝子が一人きりになるだけで、あっという間に睡魔が襲ってくるものだった。

「正史くん、まだかな。正史くん…、ま、さ、し…」

井田が歯をみがき終え、部屋に戻ると、既に軽く寝息を立てている朝子の姿が目に入った。

「寝ちゃったんだね。じゃ、俺も寝るか」

井田は朝子の横に入り、もう一度腕枕をしようかと腕を伸ばしたが、既に寝てしまった朝子の首元へ腕を差し込むのは至難の業だった。

「ゴメンね、朝子。腕が入らなかったよ。でも何か歌って上げるから」

井田は改めて布団を2人共寒くならないように掛け直すと、チェッカーズの曲を歌い始めた。

「〽ドラム叩いてた ダウンタウンのクラブ 今は 仲間たちも消えて 指を鳴らす音だけ聞こえる…」

チェッカーズの、俺たちのロカビリーナイトだ。井田が好きな曲の一つだった。
朝子もチェッカーズが好きと言っていたので、耳元で囁くように歌ってみた。

すると眠り込んでいるはずの朝子が、笑ったように見えた。

(聞こえたのかな?まさかね)

井田も眠くなってきたので、俺たちのロカビリーナイトを囁きながら、欠伸が混じるようになってしまい、気付いたら最後まで行かずに井田も眠ってしまった。

外は雨も止み、月明かりが部屋に入り込んでいた。

<次回へ続く↓>


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