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かわいそうと言われたコロナ世代の社会人1年生たちへ

2020年4月1日、新卒で今の会社に入社した。

2020年4月3日、完全在宅勤務になった。

満員電車の猛攻を知らず、同じ部署の人の顔と名前がいつまでたっても一致しない。会議室の取り方も経費精算の方法も、実践してないからいまいちよく分からない。ただでさえ「ゆとり世代」という温室育ちのレッテルを貼られているのに今後は「コロナ世代」が追加されるのかと思いながら、引っ越したばかりのワンルームの隅で「名刺は胸のあたりから上に弧を描くように差し出しましょう。」と笑顔で繰り返すマナー講師を見つめるところから、わたしの社会人生活はスタートした。

会社の人には、かわいそうだね、とよく言われた。

分からないことがあってもすぐに聞けなくてかわいそうだね。先輩の仕事ぶりを間近で見れなくてかわいそうだね。同期と交流を深められなくてかわいそうだね。研修がなくなってかわいそうだね… そんなにかわいそうかわいそうと言われても、普通の状態を経験していないのだから、何がかわいそうなのかもよく分からなかった。

自分なんかよりもっとかわいそうと言われるべき人たちが、知り合いの中にもたくさんいた。学校や塾に行けない受験生。オンライン授業で大学に友達ができない大学1年生。海外留学を諦めた2年生。部活やサークルでの練習の成果を発揮する場所がなくなった3年生。目指していた業界の採用活動が見合わせになった4年生。
ニュースを見ていれば、同じ新社会人の中でも、在宅勤務である程度仕事が回る業界にいるだけで、恵まれている方だろうか。人生で初めてこんなに浴びさせられる「かわいそう」に困惑した。

緊急事態宣言が解除され、社内をチーム分けした分散型の出社が始まり、少しずつ実務に関わらせてもらえるようになったのが7月頃。そこからの半年間は、ソファーでお菓子を食べながら研修動画を眺めていた穏やかな日々から一変して、怒涛の毎日だった。

学生時代にほとんど悔いはなかったし、社会人になるのは楽しみな方だった。卒業直前、「学生時代はよかった、戻りたい」と疲れ切って愚痴を溢す1つ上の先輩たちを見ては、自分はこんなこと言わずに楽しむんだ!と心の中で意気込んで、半年後に、反省した。

わたしも学生に戻りたいな。

くじ引きで選んだ道ではない。それなりに考えて選んだ仕事を、こんなにすぐに「辞めたいかも」と思っている自分に一番驚いた。夜中1時、明日の朝までにやらなきゃいけない業務を残して徐ろにLinkedInやVokersをスクロールしては、ああわたしってこんなに耐えられない人だったっけと、悔しさに消されそうになる。

悔しいから、この半年何がそんなに辛かったのか、振り返ってみることにした。

これから先に書くことは、当たり前のことばかりかもしれないけれど、少なくともわたしには自分で気付くまで誰も教えてくれなかったので、同じように悩んでいる1年生の、誰かのヒントになれば嬉しい。


最近よく聞いているPodcastで、こんなエピソードがあった。20代後半のアジア系アメリカ人の女性3人が、大学卒業後どうやって今までキャリアを歩んできたかを振り返る。タイトルの通り、彼女たちは社会人になって最初の数年間を"Grey Zone"と呼び、この期間、いかに自分の能力不足を痛感し、人生において大きな方向転換ができる最後だと思うと行き先不安で、悩みの多い時期であったかを話している。え、この辛さにそんな名前ついてたの?と驚いてから、ふと思った。

そういえば、1年目は辛くて当たり前だということを、誰も教えてくれなかった。

コロナで例年と同じ研修の機会がないから、通常の働き方ができないから大変ね、とよく言われた。それはもう、「通常から1年目というだけで大変である」ことを、考える隙がないくらいに。

温室育ちなんてもんじゃない、ほとんど学生としか関わらない教育系のバイトと、好き放題やらせてもらえる、超がつくほどゆるいバイトしかやったことがなかったので、企業に属して働くというのは慣れないことばかりだった。

他の同期はどれだけ仕事を任されているという比較からの焦り、自分が判断を間違ったらどうにかなってしまうんじゃないかという不安(実際大してどうにもならないのだけれど笑)、いつまでにできますか?とか言われてもやったことないからどれくらいかかるか分からない、取り掛かる優先順位をつけるだけでめちゃくちゃかかる時間、聞きたいことがあるのに返ってこない返事、そうしているうちに迫る締め切り、いちいち検索しないと何が正しいのか分からない敬語。

確かに、自宅で一人焦っているよりは、出社して横に上司が座ってくれていれば、解決できた問題もあったかもしれない。少しずつ出社できるようになった頃、夜遅くまで会社に残っていた同期と終わんね〜と泣き言を漏らしながらコンビニにスイーツを買いに行ったら、家の100倍は頑張れる気がした。

それでも、解決できない悩みがあった。

わたしは常に誰かに評価されているということが怖かった。

例年の研修はなくなったものの、有難いことにものすごく手厚いチームに配属され、メンター、バディー、チームリーダー、副チームリーダー、プロジェクトリーダーと、様々な名前のついたわたしだけを見てくれる教育担当が5人くらいいた。

ということは、5人が毎日わたしの行動を見ていることになる。行動といっても実際に会っている訳ではないから、毎日数分の電話と、それ以外はチャットやメールでの文章のやりとりだ。一日中一緒にいるなら多少のミスは目立たなくても、見られている部分が少なければ少なくなるほど、一つ一つの言葉が評価対象になるような気がした。この返信内容も、あの質問内容も、軽はずみに的外れなことを言って期待を裏切ってはいけないと思って、緊張した。

怒られないように、生きてきた。

団体として怒られることがあっても、個人的に指されることがないように、するりと抜けていくのが得意だったかもしれない。1対1で怒られるという経験をあまりしてこなかったから、怒られることが怖かった。

そんなわたしを見抜いていたのか、上司に「〇〇さん、所詮仕事なんだから楽しんでやらなきゃ〜」と言われた時、確かに楽しくはなかったな、と思った。自分が成長したい、学びたいという気持ちよりも、手厚く指導してくれる人たちをがっかりさせてはいけない、良い意味で期待を裏切り続けなければいけないと、そればかり考えていた。

とある日の会議後、「全然何言ってるか分からなかったです」と正直に言ったら、「それが分かったらあなたもっと高いお給料もらわなくちゃ〜」と笑われて、ああわたしは自分に期待しすぎていたんだなと、少し楽になった。

今の仕事は、特定分野のバックグラウンドがあるかないか、英語ができるかできないかで、できることの幅が結構変わる。前者においては知識が皆無なので、日々分からないことだらけだ。1分も学んでないのだから当然なのに、求められている知識が自分にはないということで勝手に磨り減った自信をとりもどす為に、始めたことがある。

自信の「貯金」だ。

山里亮太さんの著書「天才はあきらめた」に、こんな話があった。

ずっと面白いと思っていたなめちゃん(クラスメート)からの「時々おもしろいから」というお墨付きを最大限に評価して、僕はお笑いを目指すことにした。あとはその「時々」を思い出して、それを噛みしめて、自分がおもしろい人間なんだと思い込ませていく作業をする。そういえば部活でも、皆がポジションを発表されているとき、僕に与えられたのはボイスリーダーというよくわからないポジションで、オリジナルの応援コールを作らされて、それが評判になって、ほかの学校の生徒がわざわざ観に来ていたなぁとか、バレずに悪口を言うために先生につけたあだ名が結構ウケたなぁとか。それを思い出して、あたかも自分は笑いを目指すべくして目指していると思い込ませていった。
「天才はあきらめた P.27」

「自分って駄目なんだなぁ……」という無駄な悩み時間をスタートさせてしまいそうなとき、この貯金をちょっとずつ崩して自信を保っているそうだ。努力の天才だと思った。

この「時々おもしろいから」の貯金を真似して、知識ゼロ、経験ゼロの状態で何もアピールすることがないわたしは、3回違う人に同じことで褒められたら、もうそれは特技ということにしている。口頭で褒めるより文章で褒めるのはハードルが高い気がするから、リモートワーク中は2回にしたっていいかもしれない。

最近は、案件別に分けているメールフォルダに、一つフォルダを追加して、貰って嬉しかったメールを保存していくことにした。普段修正が必要な時以外返信のない上司から珍しく返ってきた「ありがとうございました」から、上手く書けていますと言われた文章、見やすいと褒めてもらえた資料。

ちょっとずつ、貯金ができている。


それでも、何をして生きていきたいか、いまだによく分からない。

結局一番辛いのは、リモートワークでのコミュニケーション不足や慣れない仕事の辛さなんかより、ふわっとした文系学部で絞ることを怠っていた将来の選択肢を、この先数年で絞り始めなければいけないというタイムリミットを、ひしひしと感じるからなんだろうなと思う。

高校や大学はどんなに辛くても3、4年頑張ればすれば次の環境へ移れるのに、これからは自分から行動しないと状況は変わらない。その事実を思い出す度、わたしは一生この仕事で生きていきたいのか?という漠然とした疑問が浮かんでは消える。

ずっとこの業界で生きて生きたいのかも、ずっとこの街で生きていきたいのかも、まだ決まっていない。どんな仕事でも最低3年は続けろという風潮があれば、第二新卒採用もあるし転職は早いほうがいいよという人もいる。編入や院進という選択肢も、なくはないし… ヘアサロンやまつげサロンに行く度に、年下のスタイリストさんに、なんで高校生の頃からこの道に進みたいと決められたんですか?と人生相談をしてしまうくらい、分からない。

なんとなく分かるのは、辞めたくなったらわたしはまた文章を書くだろうな、ということくらいだ。わたしとって、自分を客観視できる最強の手段だから。

とは言っても、これを書き終わっても明日からの仕事にいきなり精が出る訳でもないし、これを読んでくれている人も、今日仕事が辛かった人は、きっと明日も辛いのだけれど。


せっかくここまで読んだのに役に立つ情報が何もなかったという人のために、この冬在宅ワークで大活躍しているマグカップを載せておきます。アプリで好きな温度が設定できて、飲み物を最後の一口まで温かいまま楽しめます。ちょっと高いけどおすすめです。Amazonで買えます。

みんな辛いからお互い頑張ろうねという、そんな話です。

終わり。


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