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歳を、あつめて重ねて。

「30代になって、楽になった。」

10年ほど前、よく行っていた古着屋さんのお姉さんが言った。

ご結婚をされたタイミングで幸せ絶頂期、というのもあったが、経営されているお店が軌道に乗ってきた、というのも大きいのだろうと思った。


「幸せそうですね。」

キラキラしていて、眩しくて。30代というのはそんなにも楽しいのか、と遠い目でお姉さんをみていた。

当時20代前半だった私は、とにかく今を生きることに必死で。まだ先のことなんて考えられない。30代になれば、きっと楽になるはず、とただ信じて疑わなかった。



20代、希望に満ちた時期。

夜な夜な遊び歩いても、次の日にはケロッと出勤してみせたり、

コッテリ系のおかずに、白米もりもりおかわりしてみたり、

失恋でどん底に落ちて、また落ちて、さらに落ちても、また恋に落ちて。

何だって可能性に溢れている。

同時に、とにかく悩む時期でもあると思う。

体力があって、時間があって、希望がある。
色んな選択肢を見てみたい、自分のポテンシャルを試してみたい。まだまだいける!とさらに上をみる。

ある日、ガタが来る。

ちょっと休んだほうがいいかもしれない、と初めて悟る。



29歳。ずっと先だと思っていた30代がもう目の前まで迫っている。

アンケートで問われる年齢層は「20代」に丸をつけられる。のに、あと1年経てばいきなり「30代」の仲間入り。確実に時が進んでいるのだと、いやでも思わせられる時期。

どう足掻いたって、時間は進む。



そうして迎えた、30代。

特に何ら変わりない、と思っていた。

だが、20代後半からじわじわきていた体のこと。早寝早起き、よく食べてよく寝る、基本をこなしても追いつけない、体のバランスやお肌の変化。

体調が崩れるかもしれない、と予期してそなえる常備薬。

貴重な休日は体力温存を第一に、体に良さそうな食事と軽めの運動を心がける。

ああ、30代だなあ、と。日々実感をする。


同時に、「楽になった」とも感じる。

何かに挑戦すること、誰かと比較すること。

これらは30代になったからって、なくなるものではない。ずっとついて回る。何かを続けていれば、本人の意思とは関係のないところで、比較され、競わされる。


だが、圧倒的に、その機会は減った。
闇雲に、何でも、取り合えず、をしなくなったから。

「自分が見えてきた」

20代に散らばっていた紙切れたちが、30代になってきちんとファイリングされているような感覚。「自分はこういう人間です」と何となくでも言えるようになった。むしろ、言えなくてもいいと思えるようになった。


世の中のど真ん中にいた20代。
世の中と共存している30代。


どちらも、きっと同じくらい眩しい。



「30代になって、楽になった。」

10年越しに、あの時の言葉の意味がわかる。

一歩引いたところで己を見ているような安心感、整理整頓された頭の中から言葉をえらぶ余裕が、ある。

自分で自分を守ることができる、そんな時期。


先のことはわからない。ましてや10年後のことなんて。

10年後、「楽しくなった。」と言えるように、

今はただ30代の紙切れをたんたんと集めて、重ねていく。




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