![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/119274348/rectangle_large_type_2_c5d853c22da74b91fa6cd64eb3fba647.jpg?width=800)
運ちゃんの隣で、朝からのラーチャーセット
夜通し働き仕事仲間に別れを告げたあと、疲れた体もなんのそのという気概でもって僕は高速道路をひた走る。目的地の温泉街を目指して。
連勤が続いていた。澱んだ空気の事務所に降り注ぐ朝日に瞼をしょぼしょぼと震わせ、ボケ切った頭を叩いて気合を入れ直す。隣を見たら同じ顔。そんな仕事仲間との他愛もない会話の中
「緑川さん疲れてますね〜。温泉とかどうっすか」
と言われたので疲れた僕はそれを真に受け、仕事中なのにスマホで速攻で温泉宿を予約したのが二日前。そして今に至る、というわけなのだ。現在はとあるパーキングエリアで休憩をしている。
こじんまりとした、レトロな場所。足湯だの観覧車だのそういったものは一切存在せず、ちょっとしたお土産コーナー、自販機、そしてこれまたレトロな食堂、それだけだった。理想のパーキングエリアだ。
何か軽く食べていこう。思えば朝ごはんもまだだった僕の胃袋はねじれ、腹の音となり文句を訴えている。軽くうどんでも食べようかなと思っていた矢先、僕の前に券売機に並んでいた、またまたレトロなトラックの運ちゃんの食券を食堂のおばちゃんが受けとると
「はいよ!まんぞくラーメンチャーハンセットね!お水隣にあるからね!」
と元気よくオーダーを確認していた。
まんぞくラーメンチャーハンセット?
なんだその魅力的な響きは。券売機を見ると醤油ラーメンにチャーハン、それにコロッケがのっかった写真がある。なんだこの暴力的なメニューは。
気づけば、買っていた。どう考えても朝から食べるものではない。しかし夜勤明けだから実質これは夜ごはんだ。もちろんこれは言い訳だ。
注文してすぐにそれは目の前に現れた。ふつう、こういうメニューはチャーハンが通常の半分、つまり半チャーであるがこれはどう見ても一人前。そして結構な大きさのコロッケ。おぼんから伝わる重さから、麺の量も伺える。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/119274405/picture_pc_fa565fd53320f09a3b61e0eefc632ff6.png?width=800)
店内はいろんな格好の運ちゃんや出張のサラリーマンでひしめき合っている。先ほどの運ちゃんの隣が空いていたのでそこに陣取っていただきます、と試合開始。
まずはひとくち、ラーメンをすする。ああ、ああふつうだ。もちろん褒め言葉だ。絶品だったら困る。ここまで通うのが大変だ。朝日を浴びながら食べる醤油ラーメンの滋味深さは、疲れた体により染み渡る感じがする。夜勤明けにこの塩分。ありがとう。
ややしっとり目の油が光るチャーハンもひとくち。うまい。優しい味だ。パラパラのと違って飲み込みやすさが違う。急いでいる運ちゃんたちにとってはこちらが最適解だろう。隣の運ちゃんもふすふす言いながら勢いよくチャーハンを食べて、いや「食らって」いた。うまそうに食べる人の隣だとうまさが増す。たぶん。
レンゲにちょいとラーメンスープを入れてからチャーハンをすくうとまた先ほどの優しさにアクセントが加わっていい感じになる。ここでちょいと紅生姜をかじる。きゅうと口がすぼみ、さっぱりとリセットされた口内へまたチャーハン、そしてラーメン、スープにディップさせたコロッケ。
うまいうまい。疲労が、炭水化物で分解されていく。ごちそうさまでした。
外へ出る。ラーメンで熱された体に午前八時の冬風がさわやかだ。自販機で買った熱々の缶コーヒーを白い息と共に飲む。まるでもう旅の終わりな雰囲気が僕の中に生まれていたが、旅はこれから。まだ始まってすらいない。ちょっと食べすぎたかもしれん、と少し後悔しながらドスンと運転席へなだれ込んだ。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/119274652/picture_pc_e4bb67565651b7545a80d63883069b64.png?width=800)
あなたのそのご好意が私の松屋の豚汁代になります。どうか清き豚汁をお願いいたします。