第4章■直前に起きた大問題
・いざ、仕込みスタート!
復帰戦を迎える最後の週は、本当に色々な準備に追われました。
大樹が倒れる前に作っていたカレーの復活は、ところどころに忘れている記憶を思い出しながら作る必要があったため、収穫祭が終わってからじっくり着手しよう、ということになりました。
が、ここで一つ問題が発生します。
地元の小学生たちも参加するこの収穫祭に、兄のスパイスカレーだけで勝負するにはちょっと大人の味すぎるのでは(辛すぎる)、ということでした。
・漢気漁師「山田丸」
ですが、ここでもメニューのパズルのピースが僕たちを助けてくれます。
漁師である僕の義父が獲って直送してくれたイカを使った「柚子めんたいイカ飯」というメニューも試作していて、大樹と一緒に納得いく出来に仕上げていたので、それも当日メニューに加えることになりました。
義父は長崎県平戸市の腕利きの漁師で、イカの漁やアラの一本釣りなどをしている、漢気のある頼もしい人です。
お義父さんに電話をしたら、
「おー、そんならイカば送ってやるせん!」
これで、全ての懸念は解消しました。
・落とし穴
ポークビンダルー、オリエンタルクラフトコーラ、柚子めんたいイカ飯、当日持っていくメニューが着々と出来上がり、残すところチキンのカレーを前々日に仕込むのみになりました。
チェティナードチキンカレーという南インドのチェティナード地方で作られる、スパイスを複雑かつリッチに効かせてある現地レシピを基に作ったカレーで、研究により最初に完成したカレーでもありましたので、あまり心配をせずに仕込みを行いました。
がしかし、ここで大問題が発生します。
・逡巡
大量仕込みのためいつもと違う産地の鳥もも肉を使用してしまったせいか、チキンカレーが少しだけいつもと違う仕上がりになってしまったのです。
味としては合格ライン。食感だけが理想からほんの少しだけ外れている。
料理人経験が乏しい僕が、これをどう判断していいか迷いました。
大樹に相談したところ、美味しいと思うけど、最終的には兄ちゃんの直感で決めるのがいいよ、とのこと。
一晩迷って、収穫祭前日に作り直すことに決めました。
・僕たちの想い
僕たちは、ただ社会復帰をしたい、とかリハビリのため、利益のため、とかそういう気持ちだけでこの事業を始めたのではなくて、どうせやるなら心のままにやりたいし、僕たちが楽しんで仕事をする人生を送ることで周りの人も幸せにしたい、という気持ちを最初に確認しあっていました。
その気持ちを照らし合わせると、100%じゃないメニューを出したら僕が楽しくないだろう、という気持ちが芽生えました。
この判断は、お店としてはロスを生むわけなので、必ずしも正しいかは分かりません。
ただ、提供する側の自信に少しでも綻びがあるような仕事はしたくない、と思ってこの事業を始めたので、今回の判断はこれで良かったんだと思っています。
失敗したカレーは賄いで毎日美味しく頂くことにしました。
…同じカレー食べてもう何日目になるかな・・・。
【続く】
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