20年住んだ東京圏を離れて思うこと
長野の田舎で育ちました。コンビニまでは直線距離で2キロ弱。
半径1.5キロ以内に信号がないくらいの田舎です。
テレビを見ても、雑誌を見ても、おしゃれで憧れる世界は全て都会にありました。
中学までは帰り道にコンビニも本屋もないので、ただひたすら田んぼの横を歩いて帰りました。
なんて、私は経験に乏しい子ども時代を送ったんだと、都会で子どもを育てている時に思っていました。
都会での子育ては歩いていける図書館があり、週に1回読み聞かせイベントがやっています。自転車で行けるデパートがあり、新しい味のアイスをいつでも食べられます。思い立ったら世界的な美術展にも、珍しい動物が見られる動物園にも、なんならディズニーランドだって日帰りで行けました。
都会で暮らしていたら、中学校から受験をして、素晴らしい教育方針の私立の学校に通うこともできました。
新しいビジネスを次々と考える人に出会って刺激的な毎日を送ることもできました。
でも、豊さの種類が変わる中で、ふと「私の子ども時代、そんなに悪くなかったな」と思い出すことがあったのです。
イギリスに移住する前に、長野に半年住みました。
山奥では、雨が降ると、山から雲が湧き上がります。
まるで、雲が生えているかのようです。
田植えが終わると、田んぼの水が空を写して、上にも下にも青空が広がります。
春には草木の芽吹く匂いがします。
夏には山の奥から蝉の声がして、秋には空の色が変わる瞬間を見ることができます。
そして冬は、雪がしんしんと降ると、全ての音も色も消えて、世界に自分一人しかいない気分になります。
私の子ども時代には、おしゃれな服も、知的好奇心を刺激する博物館も、気軽に行ける図書館もありませんでした。
でも、お金では手に入らないものを確かにもらっていたんだなと、今思っています。
そんなことに40歳を過ぎてから気がつきました。