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腐った水と可愛いアヒル


 今日はお酒飲んじゃった、ドラッグストアに売ってある安いワイン。ワインの味なんてわからない。高級ワインとかチープだとか、そんなの全然わからないけれど、今日飲んだワインは美味しく感じた。スピッツを歌いながら食器を洗う。

ただ信じてたんだ無邪気に ランプのしたで
人は皆もっと自由でいられるものだと
傷つけられずに静かに食べる分だけ
耕すような生活は指で消えた

 ずっと好きな歌詞。素朴なのに心に突き刺さって抜けない優しいトゲ。ダメになりそうな時、何度も思い出す。人は皆もっと自由でいられるものだと、私も無邪気に信じていたい。

 ずっと、何かが引っかかっている。もう多分私は透明にはなれない。なにも知らなかった頃にはもちろん戻ることはできないし、これから一生かけてでも宇宙の全部を知ることはもっとできない。何か忘れている気がするけれど、何を忘れているのかすら分からなくて、そうやって今日もまた、いちにちが終わる。

 腐った水が体内にある、だから表面もなんとなく黒くて濁っている、腐った水が体内にあるから。

 お風呂にたまに浮かべていたゴム製のアヒルが6羽。数ヶ月使わずに放っておいた。浴室の中で無表情に並んでいる、黄色いアヒル。そのアヒルが、気づいたら内側からカビていた。腐った水が、アヒルの内側から黒く侵食していく。気付いた時には遅かった。ほんのり透けたアヒルの身体が、もう黒く濁っていた。あ、終わりだ。サヨナラだ。そう思った。

 それなのに何故か捨てられずにいる。内側からカビて黒くなったアヒル。可愛いアヒル。バスタブにお湯を張って浮かべたアヒル。お腹の部分をおすと、ぷふう、と間抜けな音を出すアヒル。6羽のアヒル。目が合ったら泣いちゃいそう。昔のわくわくも、こうやって少しずつ黒くさよならに近づいていくのかなあ。


#チーム午前二時 、12月10日


チーム午前二時:2020年12月3日、夜中に思いつきで突如発足。部員一人。夜中に起きている人は誰でも入部可能。フィクションもノンフィクションも雑談も日記もハッピーもネガティブも全部。内容も設定もブレブレ。クリスマス付近までは毎日投稿の予定。あくまでも予定。


ゆっくりしていってね