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注目の海外Retail Tech スタートアップ(フルフィルメント領域)

本記事を書く目的

ミダスキャピタルでは、イングリウッド等のリテールテック系の企業に投資をしています。イングリウッドは、Asia-Pacific High-Growth Companies 2021(アジア太平洋地域の急成長企業ランキング)にも選出されている企業です。今回は、今後のリテールテックビジネスの動向について考察したいと思います。

CBINSIGHTSの Retail Tech 100

スタートアップやテクノロジー企業、ベンチャーキャピタルに関するデータを収集・掲載しているCBINSIGHTSが発表するRetail Tech 100。ここに掲載されているEC向けのスタートアップの中から特に注目の分野・企業を絞り込み、特集していきます。

創業年や資金調達額から100企業を分析した結果、特に伸び代の大きいと予測された(※)ロボティックフルフィルメント、商品と在庫管理サービス、物流システムの三分野を特集することとしました。

※資金調達額が大きく、創業年度が若い企業を有望企業と定義

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今回の記事ではロボティックフルフィルメントの分野からGeek+、Exotec Solutionsの2社、商品と在庫管理サービスの分野からFaireとNinjaCartの2社を取り上げます。

Geek+(Robotic fulfillment領域)

基本情報

創業年:2015年
創業国:中国
資金調達額:$439.4M
ラウンド:C

倉庫のピッキング作業をサポートする自動棚搬送ロボット、人に代わって商品の運搬を行うAI物流ロボットなどを活用した先進的な「物流ソリューション」を提供している企業です。
中国メディアが選ぶ中国ユニコーンTOP 100にノミネートされたほか、日本国内の倉庫におけるシェアでも2年連続1位となっています。

2017年8月に日本法人を立ち上げ、倉庫におけるAI物流ロボットの国内販売数量・金額では、2018年は約5割、2019年は7割のシェアを獲得し、2年連続で国内シェア1位(※富士経済調べ)となっています。ナイキや大和ハウス、トヨタなど、多くの有名企業が同社の自律型協働ロボット (AMR)を導入しているようです。

Geek+の強み

Geek+の売りは物流ロボットの販売、導入から24時間365日対応のメンテナンス、生産性改善コンサルティングまで、一貫して実施する、いわゆる「物流コンサルティング」です。導入以前とは比べ物にならないほどの効率化によりNikeのSame day Delivery、つまり「当日発送」を実現しました。

特にGeek+はピッキングソリューションに強く、ピッキングロボット導入や倉庫のレイアウト改善により人件費削減、スムーズかつ効率的な作業を実現しています。自律型協働ロボット (AMR)は世界200社 / 1万台以上の導入事例があります。

資金調達額と市場規模

2015年創業にも関わらず、2020年3月時点での資金調達額が$439.4M(およそ500億円)と非常に大きい額となっています。

日本経済新聞の調査によると、物流ロボット関連の国内市場規模が2030年度に20年度比で約8倍となる1509億9000万円に拡大すると予測されています。新型コロナウイルスの感染対策による需要拡大も大きな要因です。Geek+の今後の規模拡大に注目が集まります。

Exotec Solutions(Robotic fulfillment領域)

基本情報

創業年:2015年
創業国:フランス
資金調達額:$111.2M
ラウンド:C

荷主倉庫向けの物流ロボット開発を手掛ける企業です。工場や物流倉庫内で作業の効率化、自動化を支援するAGV(無人搬送車)への注目が高まる中、Exotechは床面の移動だけでなく「上下」の3次元移動を実現する、物流倉庫向けAGVを開発しました。
2019年にユニクロとパートナーシップ契約を結んだことでも注目を浴びています。

Exotecの強み

Exotecの強みは一般的に無人搬送車(AGV)の三次元移動と言われています。従来のAGVは左右移動のみ可能であったため、高所は従業員が手作業で作業しなければなりませんでした。そこに対応することで搬送作業を全て自動化し、圧倒的な効率性を実現しました。

しかし、CEOのムーラン氏は「実のところ、3次元走行機構を開発すること自体は、他のAGVメーカーにも可能かもしれない」とも補足し、その上で「独自の強み」は、実は自社開発のソフトウェアにあるのだと強調しています。

Exotecが独自開発したソフトウェアは2種類あります。AGVに搭載した動作制御アルゴリズムと、複数台のAGVと従業員を統合的に管理する"司令塔"のような役割をするソフトウェア「A-STAR」です。走行機構の開発技術に加えて高品質かつ高精度の制御技術、更には最も効率的に顧客への商品発送が行える体制づくりを実現することでExotecは他社との差別化を図りました。

資金調達の現状と今後

ExotecはシリーズCラウンドで9000万ドル(約95億1000万円)を調達しました。同社は現在、アトランタと東京にも営業拠点を持っており、2021年までに年間4000台のロボットを生産する予定です。すべての製造はフランスのリールにある6000平方メートルの工場で行われており、現在世界中の14カ所で同社のシステムが稼働中です。日本展開も強化しています。


Faire(商品と在庫管理)

基本情報

創業年:2016年
創業国:アメリカ
資金調達額:$436M
ラウンド:E

サンフランシスコを拠点とするセレクトショップ向けB2Bマーケットプレイスです。これまで多くの小売業者が展示会など、オフライン形式で行なっていた仕入れのプロセスをマーケットプレイスで効率化しました。

小売業者はオンラインでブランドを見つけ、購入し、運転調達できるようになりました。返品も無料で行うことが可能です。AIが利用企業のWebサイトの画像を解析、各企業のコンセプトに合った最適な商品の提案も行います。一方、ブランドはFaireで新規顧客の開拓や支払不能リスクの軽減が可能です。

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(https://archetype.co.jp/faire/ より)

Faireの強み

Faireを利用する大きなメリットは、売れなかった商品について60日以内であれば返品を受け付ける制度で、これが小売業者が新たな商品を仕入れる際のリスク軽減につながっています。また、環境に優しい商品や、手作りの品、Amazonで販売されていないアイテムなどが探せる検索機能も、小売業者向けに提供しています。

また、競合サービスのないユニークなポジションにあるというのもFaireの大きな強みです。

CrunchbaseやOwlerによると、the little marketLimeRoadKoovsといった、BtoCモデルの雑貨やファッションECがFaireの競合サービスと見なされていますが、BtoBマーケットプレイスであるFaireとは、直接的な競合とは言えません。
また、ブランドやメーカーが自社単体で卸売用のECを扱う例は多いですが、Faireの競合としては、Amazon Businessや老舗のwholesalecentralといった、幅広く商品を扱うBtoBマーケットプレイスが該当するでしょう。しかし、後者においても、「リアル店舗であること」を前提においたマーケットプレイスという点でFaireはユニークなポジションを築いています。

今後の展開

2020年、Faireはセコイア・キャピタルが主導する1億7000万ドルのシリーズEラウンドを完了しました。これにより同社の評価額は、これまでの2倍以上となる25億ドルに達しました。

2021年には英国進出に続き、他のヨーロッパ諸国への事業拡大も計画しています。
米国内だけでもチェーンに属さない独立経営の小売業者は260万軒を数え、その年間売上高は1兆ドル近くに達するといいます(出典:米中小企業庁、Faire)。最終的には、数百万の小売業者を顧客とし、数十万のブランドを取り扱う可能性があると言われており、今後の成長が見込まれます。

Ninjacart(商品と在庫管理)

基本情報

創業年:2015年
創業国:インド
資金調達額:$194.2M

Ninjacartは農家から直接新鮮な野菜等を仕入れ、配送するB2Bプラットフォームです。果物や野菜を買う食料品店、スーパーマーケット、レストランなどの小売業者と農家を直接結びつけ、収穫後12時間以内に新鮮な野菜や果物を市場よりも低価格で配送することを実現しています。

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(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/59758 より)

Ninjacartの強み

Ninjacartは、機械学習を利用して業務を改善しています。5年間のデータと調査に基づいて、予測、価格設定エンジン、農家への作物のリコメンドを行い、これによって食品ロスの減少、農家と消費者双方の利益向上に繋げています。需要予測、収穫計画、価格インデントの決定を支援する農家向けのアプリもあり、テクノロジーを駆使した農業向けサービスを幅広く提供しています。

「アグリテック」の可能性

インドの農業はGDPの17%を占め、世界で2番目に大きい農地を保有しています。農村世帯の約60%が農業で生計を立てており、インド全土での農業従事者は6億人を超えます。

こうした背景から、インドのスタートアップエコシステムでは2015年頃からテクノロジーを活用して農業の効率と生産性を向上させる「アグリテック」の分野が注目を集めるようになり、関連スタートアップの資金調達も活発になってきました。

米調査会社CB Insightによると、2017年の世界でのアグリテックスタートアップへの投資額は7億米ドルを超え、2015年の2億3300万米ドル、2016年の3億3200万米ドルと比較しても急成長していることが分かります。

20兆円市場への挑戦

アグリテックは比較的新しい分野であるからこそ、これまでにも多くの投資家が成長性を懸念してきました。しかしeコマースが拡大し、人々の生活に浸透していく過程で、多くの投資家が生鮮食品という配送が難しい分野へ参入するスタートアップへ注目をするようになりました。そして、今回Syngenta Venturesをはじめとする複数の投資家からNinjaCartは、資金を集めることができたのです。

果物と野菜市場だけでも2000億米ドルの市場規模があるインドで、NinjaCartはまず南インドを制しました。今後もこの巨大市場を取り巻く非効率を着実に解消し、ビジネスを拡大することを目指しています。

おわりに

今回の記事ではロボティックフルフィルメント商品と在庫管理サービスの分野で急成長中のスタートアップについて特集しました。次の記事では物流システムのスタートアップに注目し、今後のリテールテックビジネスについて考察したいと思います。