見出し画像

綿貫大介「会える場所にいる会いたい人には、会える時に会いに行くべきです」(滞在5日目)

 どこに行っても「結局、場所じゃなくて人」という言葉がいつも合言葉みたいに頭に浮かんでくる。どこを滞在先に選んだとしても、出会う人には出会うし、そのことにこそ価値があるんだから。どう考えても人が住むところはどこもいいところに決まってる。どこだって天国だ。


 交流会で出会った萌佳さん。アジアを中心としたツアーコンダクターを務めたり、パキスタンに数年住んでいたという経歴を持つ彼女は今、パキスタン家具の販売をしている。ギャラリー兼ショップに伺うと、伝統的な綴れ織りで製造されている絨毯・キリムを使った椅子がずらり。

幾何学模様がなんとも美しい。偶像崇拝(※1)を禁止しているイスラム教では、花や鳥、人物などの具象柄は使えないため、柄を表現したいときは昔から幾何学文様なのだそうだ。

画像1

いただいたスパイスレモンジンジャーが喉にピリっとやさしい。ただ本人はあまりしょうがが好きではないらしい。シロップは減るがしょうがは減らない、ということでスライスしょうがも少しいただいた。ガリのようにそのまま食べてもうまい。


 昭和22年創業、静浦のさば節屋・杉初水産で土地の歴史を聴く。静浦エリアでは23軒ほどあったが、今このあたりでさば節を扱うのはここだけらしい。さば節というのにこれまで縁がなかったが実はいろんな料理で使われている。世の中かつおが立ちすぎているだけなのかもしれない。かつお以外の節を「雑節」と呼ぶらしいのだけど、なんなんだ、その、節界のかつお至上主義は。

鰹節にはないそれぞれの魚の特徴からくる独自のうま味や香り、コクなどが「雑節」にはある。もちろん雑味もアジとなる。さば節はうどんにとっても合いそう。

画像2

昔はこの辺りはさばよりもいわしがわんさか採れたらしい。魚群が現れてはサイレンが鳴り、大人も子供も海へ行く。総力戦だ。浜の賑わいとは裏腹に、きっと海の中ではいわしの弔いするだろう(※2)

年代により採れる魚も変わってきていて、今はさばだ。漁と人の密接さに、朝ドラ『マッサン』(※3)北海道編の、ニシン御殿のことを思い出す。生きるために人は自然と付き合い、そして常に人が勝たなくてはいけない。

画像8

函南町立図書館に行って読んだ『沼津市史』に、西浦地区では昭和30年代まではイルカが常用食だったという記述があったことを思い出し、聞いてみるとみんなの食べ物としてのイルカの感想がさまざま飛び出す。まったくなじみのない食文化だからこそ、おもしろい。

画像3

風の影響で作業はなかった。ここは乾燥場。ふだんは薪をごうごうと焚いていて、じわりとくる熱さに平然と立ってはいられないほどらしい。自然とともに生きる人の暮らしが、ずっと続いているということ。


 沼津コートの今村さんがエプロンにつけていたぱっちんリフレクターがとても気になり、それを制作したよたくんを紹介してもらう。

画像4

会えることになった。みんなのフットワークの軽さ、素晴らしい。時代が時代なら優秀な足軽(※4)として名を馳せていたと思う。名前を残した足軽がいるのかは知らないけど。

よたくんはピカ銃(※5)をコレクト、販売している。お目当てのピカ銃を探すために国内だけでなく海外からも収集。オリジナルデザインでポップにパッケージングしなおしたリポップシリーズのほか、完全オリジナルのピカ銃も製作中。……やっていることがずば抜けている。ピカ銃への興味、掘り上げ方、リスペクトのすべてがすばらしくて、いちいち感動した。こういう人がこのままでいられる世の中は希望だ。

画像5

画像6

トリガーをひくと銃本体にデザインされた脳みそみたいな物がグネグネ動くギミック、陽気な音が鳴るもの、パーティ(※6)にも使えそうな光の照明が出るもの……そのデザインや仕様はさまざま。ピカ銃の世界は深い。


……会いたい人に会って話す。なんだかもう、社会学だな。

画像7

ー私的注釈ー

※1(偶像崇拝)……仏教が根付いている日本人の感覚では、仏像を仏様と思って拝むことにあまり抵抗はないかもしれないけど、世界的には多くの宗教で禁じられている行為。なぜかと言うと像自体は神様ではない。銅で作った銅像は銅、木で作った木像も本質は木。今だと「推し」文化が定着していて、いろんな人が当たり前に推しを崇める。偶像崇拝だ。僕は生身の人間をなかなか崇拝できなくて、自分の時間やお金やエネルギーを捧げている推しがいない。精神衛生上、推しをつくりたいのだけど、自分のことを一番推してる。
※2(いわしの弔いするだろう)……金子みすゞの詩「大漁」の一節。浜の人々と、海のいわしたち。その視点の変換にハッとする。
朝焼け小焼けだ大漁だ
大羽いわしの大漁だ
浜は祭りのようだけど
海の中では何万の
いわしの弔いするだろう
※3(マッサン)……14年後期の朝ドラ。ヒロインには、シャーロット・ケイト・フォックスが外国人として初めて起用された。「マッサン」の主人公である亀山政春とエリー夫妻のモデルは、ニッカウヰスキー創業者の竹鶴政孝とリタ夫妻。 ドラマは、ウイスキーの製造技術を学ぶためにスコットランドに渡ったマッサンが、現地の女性エリーと国際結婚し、2人で帰国するところからスタートする。後半の舞台は北海道の余市。ニシンで財を成して御殿を建てたニシン漁の親方(元)などもでてくる。余市町でも明治から大正時代まではニシンの大漁に沸いたが、昭和に入ると豊漁と凶漁の波が激しくなり、やがて採れなくなる(理由はとりすぎ説なども含む海洋環境の変化、特に「冬季間の温暖化」にあるといわれている)。その後、余市のニシン漁業者は、ニシン以外の生業に生きる途を見出す。静浦も海洋環境の変化は大いにある。沼津は深海魚が有名だけど、"あんなの"みんな食べてなかったという。
※5(足軽)……『アシガール』という戦国時代を舞台にしたラブコメディが17年にNHKで放送された。足は速いが授業にも部活にもやる気を出せない女子高生が戦国時代にタイムスリップし、足軽として活躍する。主演は黒島結菜。来年春の朝ドラのヒロインに決定している。
※4(ピカ銃)……お祭りやおもちゃ屋さんで売っていたあの可愛くてカッコいい玩具、ピカピカ光る銃のこと。各年代ごとにおもちゃの銃というの様変わりしていて、よたくんはピカピカ光ったり音が出たりする、SFの流行りを受けた時代から始まる光線銃を「ピカ銃」と名付けた。うまいネーミングというのはカテゴライズするために最も重要なことだと思う。子どもが大好きなあの電気黄色ネズミキャラのようなキャッチーな響きでありながら、アイテムの本質をついているナイスネーミングだ。それだけで成功。光線銃はピカ銃と名前がつくことで、新たな解釈でアート玩具として昇華された。このピカ銃の何がいいって、「戦争の道具」としての銃にはない、空想の世界への導きがあるところだ。ピカ銃は、技術進歩の延長線上にある夢の未来や、現代科学でいまだ解明しきれない謎がちりばめられた異世界への入り口。未知との遭遇がそこにはある。決して誰かを殺して喜ぶための武器ではない。
※5(パーティ)……竹内まりやの名曲「今夜はHEARTY PARTY」がそろそろ聴きたい季節だ。あの、よくケンタッキーのクリスマスのCMで流れる「みんながそろったら〜We’re gonna have a hearty party tonight〜♪」というやつ(僕は鶏肉が苦手なのでクリスマスのケンタッキー文文化に賛同できない)。この曲、冒頭にささやくような声で「ねぇ パーティにおいでよ」というセリフが入っているのをご存知だろうか。これ、キムタクの声なのである。その後、「折角だからコーラスにも是非参加して欲しい」との要望にもキムタクは遠慮なく平然と応じ、竹内まりや・山下達郎・キムタクの3人が揃ってブースに入り、ユニゾンしたと語っている。「俺は真ん中でやったんですよ、1本のマイクで。そうなったらもう、楽しむしかないじゃないですか」byキムタク。さすがだ……。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?