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大川原脩平「俺たちの休みはまだ始まったばかりだ」(滞在4日目)

▼望まれない起床

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ノンレム睡眠に差し掛かる深夜1時半ごろ、突然大音量で電子音が鳴り、瞬間パニック状態になる。何が何だかわからずあたふたしているうちに急に音が止む。それが部屋に備え付けの電話だと気づき、しかし釈然としないままにまた眠気に誘われたのだが、しばらく経ってのち第二波。出ると、「おはようございますご指定のお時間です。おはようございますご指定のお時間です。」とこれまた自動音声の嵐。前の宿泊者が設定したものか何なのか、ともかく理不尽なミッドナイトコールに怒りを覚えつつ3度寝にのぞむ。私はバケーションの最中で、今日はまだ日程の折り返し地点だ。目覚まし時計なんてかけているわけにはいかない。怠惰をむさぼり友達と遊んで本を読み穏やかな休暇を満喫する。それも人のお金で。願わくば今後もそのような生活が営めるよう、何かをやり遂げた雰囲気だけはまとっておきたい。おやすみなさい。寝言です。

▼ほんとうの休日

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じっさい、ほんとうの意味で予定がない日は滞在が始まって以来今日が初めてだ。受け入れホストが用意してくれたイベントや、先んじて連絡をとっていた友人たちによるツアーなど、事前に想定していた以上に盛りだくさんの日々なので本気ですこし落ち着きたい。明日は朝5時から三島を散歩する予定になっている。普段の平日だってこんなに活動的じゃない。明らかに旅の魔力に当てられている。

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散歩、移動、旅、徒歩。そのようなものが人々の心を掴んで離さないのは、他ならぬ自分自身の体がすでに移動に最適化されているからだ。人間が2本足で立つなんていうバランスの悪い骨格を選択したのも、その状態で揺れ動く危うい重力の魅力に抗えなかったからに他ならない。立つこと、歩くことだけが私を価値づける唯一の方法だ。自転車、自動車も大いに結構だが、最終的には自分自身の足を信頼したい。とはいえ、ここ数日は明らかに歩きすぎだ。iPhoneの歩数計を見ると1日に15,000歩を割らない。

▼トライアングル・パワー!

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歩きすぎだなんだと気にはしているものの、どうせ移動手段は徒歩しかないので今日も歩くことには歩く。座っていてもいいのだけれど、それにしては天気が良すぎる。快晴に誘われて三島の路地を行ったり来たりしていたら、どうにも抜け出せなくなってしまった。スナックの看板に見とれすぎた。三島には駅を結んだトライアングル地帯があり、中ではなにか不思議な磁場が働いている。真っ昼間に夜の街のくたびれたパネルに拐かされ、気がつくと私は沼津に戻ってきていた。すごい。トライアングルパワーだ。ムーだ。宇宙人だ。しかもなんだかずいぶん賑わっている。あれ、裏世界に来ちゃったかな。マルシェや展示が怒涛のように押し寄せてきて、知り合いの知り合いの知り合いに次々と出会う。結局のところ、たぶんやっぱり旅に浮かれているのだ。歩数はすでに22,000歩を超えた。散歩は楽しすぎる。楽しいこと、魅力的だと思えることにはたとえ体を壊したとしてもあらがえないのが人間なんだ。ほどほどに生きたいし、全力でもやりたい。人生はままならない。

▼おどることになった

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私はまがりなりにも舞踏家・ダンサーのはずなのだけれど、あまりに人前で踊らないのでかなり長いこと付き合っている友人でも私の踊りを見たことのある人は多くない。そんな私がどういうわけだか「なんか踊りたい」と思ってしまった。散歩のしすぎだ。トライアングルには気をつけたほうがいい。やっぱり何事もほどほどがいちばんだ。

偶然出会った写真家と、出来立てほやほやのアートスペースと、気のいいひとたちという、びっくりするほどさいこうの条件が揃ってしまったので明日急遽踊ることになった。できるだけつまらない踊りをしたいと思う。 ハードルを下げておこう。これからここで活躍する素晴らしいアーティストたちのために。


時間:2021年11月28日(日) 14:00〜
場所:space戯曲(沼津市大手町5-4-6 かとう靴店跡地)

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