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創作|星廻りの天使


 きらり、と白い光を残して1等星が落ちていく。星座の端でぶら下がっていた星はたった今に軸を抜け、定められた座標から雫のように零れていった。

 届きもしない手を伸ばす。しかと抱きしめ、守りたかった。守らなければいけない星だ。この手のひらも身体も翼もそのためにある。

 春の宵闇、全天21あるはずの1等星が空からひとつ、姿を消した。
 それを追いかけ、星廻りの天使がひとり、消息を絶つ。


 次に目覚めた部屋の中は、決して明るいわけではなかった。窓枠には何枚もの木の板がぴったり打ちつけられいて、その隙間から微かな斜陽が射し込むばかり。

「どうしてわたしを救けたの?」
「怪我、してただろ」

 両の手足に心当たりがない丁寧な治癒のあと。横たわっていた白い寝床は花びらのように柔らかい。
 傍らの椅子に腰かけている男の瞳は、追いかけてきた1等星とよく似た蒼い色をしていて、だけど少しの陰がある。

 彼が吸血鬼だと知ってもここを飛び出し、逃げない理由はその色彩に心を絆されたからだ。戸惑いはしても、“不死者の王” と呼ばれる魔族をひとえに恐れられなくなった。

「俺は今まで人間の生き血を1度も吸ったことがない。あまり好きになれない気がする」
「吸血鬼なのに?」

 わたしの血が欲しかったのかと尋ねてみても、彼は俯き気味に否定する。

「生き血を吸うには牙を突き立てなきゃならない。だけど身体に傷ができるととても痛い。他の方法でも飲めるなら、俺はそっちのほうが良い」


 春の宵闇、全天21あるはずの1等星が空からひとつ、姿を消した。
 それを追いかけ、人間界へと降りた天使はひとりの吸血鬼に出逢う。その吸血鬼は不死の身体でヒトの痛みを知っていた。

 蒼い瞳はどこか陰って悲しげで、でも1等星にもよく似ていたから、こんな気持ちを抱いてしまったのだと思う。

 星廻りの使命は星を守ること。守らなければいけない星が、またもうふたつ増えたみたいだ。



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