マガジンのカバー画像

創作「星に願いを」

3
シリーズを投稿順にまとめています。ひと続きではありませんが、ひと繋がりになったお話。幻想的。
運営しているクリエイター

記事一覧

創作|星に願いを

 吸血鬼が死んだ。 「流れ星が見たいんだ」 「何か叶えたいことでもあるの?」 「そうかもな」  だから毎晩こうして空を眺めている、と話した彼は、結局その願いとやらをわたしに教えはしなかった。  透き通るような蒼い瞳はとても綺麗で、流れる星にそのまま連れていかれそうなほど儚げだった。 「ドラキュラは死に損なった人間だよ。生前の思い残しを遂げたら成仏されちまう。だからあの子に流れ星を見せるのはオススメしない」  生きていてほしいと思うんならね。  彼をよく知る夢魔の女はロ

創作|悪魔になった日

 どこの誰とも知れない女を、初めて押し倒した。  途端、上空の満月を穿つような悲鳴がこだまし、我に返る。  今しがた強烈に魅かれた血の香りはもうしない。手のひらに触れる湿った土と雨の匂いがかき消したのか。  肩を震わす自分の呼吸がいやに荒い。たった今、この女に何をしようとしていたのかを思い出す。  殺したいわけでもなかった。  犯したいわけでもなかった。  ただ血の香りがしただけだ。  組み敷かれた女の瞳に映った自分は彼女と同じく、ヒトの姿をしているだろうか。  それ

創作|星廻りの天使

 きらり、と白い光を残して1等星が落ちていく。星座の端でぶら下がっていた星はたった今に軸を抜け、定められた座標から雫のように零れていった。  届きもしない手を伸ばす。しかと抱きしめ、守りたかった。守らなければいけない星だ。この手のひらも身体も翼もそのためにある。  春の宵闇、全天21あるはずの1等星が空からひとつ、姿を消した。  それを追いかけ、星廻りの天使がひとり、消息を絶つ。  次に目覚めた部屋の中は、決して明るいわけではなかった。窓枠には何枚もの木の板がぴったり打