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ブヨブヨをひっぱるな

夫がお風呂に入る前に、茶の間でまる裸、
になり、
全身鏡で自分のおしりをみながら、おしり下方のブヨブヨした、皮のたるんだところを
つまんで、

わあーーーーー
みろ!
なんやこれ。
いややなあ。
おじいさんやないか。

と嘆いている。
誰にみろ、ゆうてんねん。
誰もみたない。
はよ風呂入れよ。

そのおしりから1m離れたところで、
babyちゃん(17歳娘)がテスト勉強を
している。
全く動じていない様子だ。
まあ、いつもの風景。

さらにbabyちゃんに向かって、

おい、このブヨブヨの触り心地はすごいぞ。

と言った。
おい、やめとけ、
と思い終わらないうちに、babyちゃんは
勉強の手を止め、ブヨブヨを引っ張っていた。

信じられへんな。
おとう風呂入る前やぞ。やめとけよ。

と言ったが、ふたりは気にしない様子で
うひゃひゃーと、笑っている。

完全に気を許している。
家族が過ぎる。


それからしばらくすると、
風呂から上がった夫の歌が、茶の間から
聞こえてきた。
引き続き、babyちゃんは茶の間で勉強中だが
そんなことはお構いなしである。

夫が、鼻歌より、ちょっとしっかりめに
歌っているときは、ちゃんと歌いたい時
なので、話しかけたり、近寄らないほうが
よい。わたしは隣の部屋できいていた。

きのうは高田渡の、「結婚」を歌っていた。

詩(うた)は僕を見ると
結婚々々と鳴きつづけた
おもうにその頃の僕ときたら
はなはだしく結婚したくなっていた
言わば
雨に濡れた場合
風に吹かれた場合
死にたくなった場合など
この世にいろんな場合があったにしても
そこに自分(ぼく)がいる場合には
結婚のことを忘れることが出来なかった

詩はいつもはつらつと
僕のいる所 至る所につきまとって来ては
結婚々々と鳴いていた

僕はとうとう結婚してしまったのだが
詩はトンと鳴かなくなってしまった
いまでは詩とはちがった物がいて
時々僕の胸をかきむしっては
箪笥の陰にしゃがんだりしては
おかねが 
おかねがと泣き出すんだ

高田渡 「結婚」


ソラで、ちょっと高田渡のまねをした
歌い方で、
最後まで完璧に歌った。

babyちゃんは勉強しながら黙って静かに
聴いているようだった。
わたしは、へんな歌詞、と思いながら
となりの部屋できいていた。
歌詞は確か、沖縄出身の詩人、
山之口獏
の詩だ。

まあ
わたしもまた、これをソラで歌えるのだが。


夫は家族の前で素、である。
機嫌が悪ければ悪態をつくし、
機嫌が良ければ、はしゃぐ。

だから、こどもたちもあるがままである。
素。
出来ないことを出来る、と見せかけたり、
無理をしない。

何が出来て何が出来ないから、といって、
おまえたち自身の出来不出来、とはならない。
ていうか、そもそも俺には関係無い。

とお父さんに思われている点において、
こどもたちは安心しきっていると思う。

わたしはなかなか、そうはなれないから、
まあ、子育てにおける夫婦バランス、
としてはよいのかも。

しかしこれは、夫の、機嫌のよい日の話。
機嫌の悪い日、は、嵐、のようなのだ。

だけどbabyちゃんは、夫のことは、たぶん
まあまあ、すきなようである。


ももろさま
イラスト使わせていただきました。
ありがとうございました!

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