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アラサー社会人、退職してアメリカ情報系大学院PhDを目指す

こんにちは、ちゅうげん(@ochugn)です。

2020年春、念願だった米国情報系大学院の博士課程になんとか合格することができました。

これからがスタートラインではありますが、この合格に辿り着くまでに様々な難関があり、次に挑戦する方へ向け少しでも参考になればという想いと、受験直後でまだ記憶が新しいうちに自分自身の振返りも兼ねて受験体験記を執筆してみます。

まずはじめに結果からお伝えすると、
ペンシルバニア州立大学 情報理工学部 博士課程 へ進学予定です。
他にカリフォルニア大学デービス校のCSや、カリフォルニア大学アーバイン校のEECSなどからオファーをいただいておりました。

最近ではありがたいことに日本から海外院へ博士取得を目指す良質な受験記や情報も増えており、もはや自分が書く必要もないのかもしれませんが、一方で社会人が退職して米国大学院PhDを目指した体験記はあまり多くないとも感じており、本記事が一事例として、学生の方だけでなく社会人も含め、後に続く方々の一助となれたら幸いです。

このあとの章で出願の一部始終をまとめてみましたが、情報量が多いため、特定パートをすぐにお読みになりたい場合、目次からクリックして適宜ご調整ください。

あらかじめ注意していただきたい点として、
・この受験記は私個人の体験に基づくものであり、あくまで参考程度にご笑覧ください。研究室、大学、出願年度等により基準値も変わりますし、コロナ禍により今後の受験傾向は大きく変わるかもしれません。
・CSや情報系専攻の方とは親和性が高いと思いますが、他専攻の場合は状況が異なる可能性があります。

自己紹介

略歴
2019.2-2020.4       [私の受験スケジュールの振り返り]に記載
2017.4-2019.1 リクルート(リサーチエンジニア/データサイエンティスト)
2015.4-2017.3 東京工業大学 修士 知能システム科学専攻(現在の情報理工学院知能情報コース)
2011.4-2015.3 筑波大学 学士 社会工学類 経営工学専攻

研究キーワード
計算社会科学 / 機械学習 / ネットワーク科学 / 情報可視化 / ソーシャルネットワーク / 人間行動モデリング / 自然言語処理 / ウェルビーイング

研究関心は主に計算社会科学にあり、人間行動や社会現象をWEB・ウエラブルセンサ・ソーシャルログ・ライフログなどの大規模データから、情報技術や数理モデルによって定量的に解明したり、知識発見したり、社会実装することに興味があります。もちろんPhD進学後もこの分野で研究を続ける予定です。

出願時スペック
TOEFL:91 (R:25, L:20, S:23, W:23)
GRE:V:140, Q:169, W:4.0 (後述しますがVerbal140はかなり低い)
GPA:学部:3.3/4.0, 修士:94/100
論文実績:査読付き国際会議(workshop)2本、国内会議3本
実務経験:約2年間の社会人経験、3年間の企業との共同研究学生、1年間の企業での長期インターン
国内奨学金:なし(いわゆる"カネなし")
コネクション:当初はなかったが退職後、メールや大学訪問によりなんとか一部つくった(後述)
研究留学経験:なし(合格者は学部や修士の間になんらかの留学経験をしている人が多い印象)
学位:学部の学位が非CS(修士は情報系)

なぜアメリカでPhDなのか

まず博士を目指したくなった経緯は簡潔に言うと、一度社会人として働いてみて改めて学問や研究の面白さに気付き、インダストリーにいたからこそ見えてくる課題や興味をもった研究があり、それらを大学で追求してみたくなったからです。博士への動機はプライベートな事由も多いため詳細は割愛しますが、ここでは日本ではなくなぜアメリカかという点について書きます。

日本で働く社会人が博士進学を検討する場合、国内で博士(フルタイム)、国内で社会人博士(業務と両立)、海外で博士(フルタイム)のいずれかになると思います。それぞれに長所と短所があり、経済的余裕、家庭環境、職場環境、その他優先事項により取れる選択肢の難易度も変わります。

自分の場合は特に

・興味を持った先生の拠点がアメリカに多かったこと
・コンピュータサイエンス分野に関して論文数はアメリカが最も多く、研究者のコミュニティも多そうなこと
・じっくりと時間をかけて研究に向き合いたかったこと(アメリカの博士は4~5年が一般的)
・お金を稼ぎながらでないと授業料の支払いや生活が厳しいこと
・学部は非CS(修士はCS系ですが)のため、まだ網羅できていないCSトピックについてのコースワークもきちんと受けたかったこと
・卒業後はアメリカで挑戦したく、学位が無事取得できればOPTで少なくとも卒業後3年間はアメリカに残れそうなこと
・まだ自分が出会ったことのないような多様な人たちと出会える確率をあげたかったこと

といった理由から、アメリカでの博士取得を考えました。
もちろんアメリカ進学によるデメリットもあり(解雇リスク、治安、ご飯など)、国内進学には国内進学なりの良さもあり悩みました(古巣である筑波や東工大で社会人博士をしている先輩も多くいます)が、アメリカで挑戦したい気持ちが打ち勝ち、アメリカ一本で準備をはじめました。

米国PhDは給料がでる

アメリカの大学院へ行くと報告すると、お金の工面はどうするのかとよく聞かれます。意外と知らない方も多いのかなと思ったので是非お伝えしたいのですが、情報系分野においてアメリカで博士課程を目指す場合、授業料、保険料、給料(stipendと呼ばれる)が支払われるケースが多いです。

たしかにアメリカは日本と比べると授業料はびっくりするほど高いのですが、大学や教授の持つ基金*により、博士課程ではお金の心配をあまりすることなく研究活動に専念することができます。(ただし給料がでるとは言っても調べればすぐわかりますが、もらえる額は最低限なので決して贅沢はできません。)

ちなみに大学院でも修士の場合は給料は出ないことを前提とした方が良いです。様々な基準を満たし運が良ければTA等で工面できる場合もあるようですが、入学前に保証されるフェローシップは非常に限られていることが多いです。

* COVID-19の影響により現在この基金が足りなくなっている大学が増えており、大学によっては博士学生への給与を取り止めたり、来年度の新入生募集を停止しているところもあるようです。自分事としても今後とても心配です。

社会人が米国PhDを目指す際のハードル

業務に追われて出願の時間をとれないこと、結婚や出産によるライフステージの変化仕事環境の変化、人生の目標の変化などは当然ながら大きな要素ですが、それ以外にも挑戦してみて気付いたハードルがあったので、それらをいくつか列挙してみます。

1. 前例が少ない壁
ロールモデルが少なくイメージが湧きずらいです。10年前と比べればすでに渡米されている先輩方のおかげではるかに情報が揃っていると思いますが、それでも社会人になってから目指すのがどういうものか朧げな不安がありました。学生が直接出願するときとプロセスは全く一緒なのですが、どういうディスアドバンテージがあるか求められるクライテリアはどれほど変わるか実務経験はどれほどアピールになるか、会社での経験はどのようにエッセイに落とし込んでいたか、ビジネス実績も考慮されるのか、推薦状はどうしたか、卒業後にどのようなキャリアパスを歩む人が多いのか、など気になることだらけでした。

自分の場合は幸いにも似た経歴で米国CS大学院に行った日本人の先輩が2人おり(当初面識はありませんでしたが)、連絡を取らせていただき些細なところまで含めてお話を伺い、大変助けていただきました。また他国の留学生にも目を向ければ社会人になってからアカデミアに戻る人はたくさんおり、中国・韓国・インドなどのアジア諸国から留学している方々にも大変お世話になりました。本当に心から感謝しています。
このような感謝から、自分も次に挑戦する方には自分の経験でよければいくらでも還元したいと思っています。
2. 英語の壁
自分は日本で生まれ育っており、元々留学経験もありませんでした(退職後に3ヶ月フィリピンへ語学留学しました)。
参考スコアとして、修士の院試のために受験したTOEICスコアは730点(2014年春)で、会社で受けた英語試験のTOEIC換算スコアは900点(2018年春)でした。これだけ見ると日本人にしては検討していると思われるかもしれませんが、2018年に某予備校で初めて受けた無料のTOEFL模擬試験での本番推定スコアは40点でした。TOEFLでは総合的な英語力や表現力が求められており、きちんとした英語力をつけないとまずいなと思い、自分は英語"だけ"に3ヶ月集中することにしました。

英語が得意でないのは完全に自己責任ですが、働きながらTOEFL100点以上を目指すのは一筋縄ではいかず、2〜5年程度かけて達成することが多いようです。英語が苦手な日本人にとってTOEFL100点への軌跡がどれほど苦しいかは、海外大学院受験で英語に苦戦された方の体験記をみるとよくわかると思います。

学生時代であれば、長期休暇中に語学留学に行ったり、研究留学に行ったり、英語のライティングやスピーキングの授業を取ったりなど、もっとあれこれすればよかったなと思うことはありましたが、後悔先に立たずで、自分の現状を認めて今できる方法でコツコツやる他ありません。
3. 国内奨学金の壁
実はこれはかなり大きいのではないかと思っています。むしろトップスクールに合格するには国内奨学金がないとかなり厳しいのではないかとさえ思います。そもそも奨学金を獲得していること自体が、実績(またはポテンシャル)や国内での競争を勝ち抜いたことの証左のひとつになるのですが、大学にとっても実利的なメリットがあり、出願者が自ら奨学金を獲得していれば教授や大学が学生に給与を支払う必要がないのです。これはかなりクリティカルに合否に影響しており、COVID-19により今後大学側の基金がよりシビアになることを踏まえると、今後は尚更重要な要素になると思っています。

それでは社会人にとって奨学金の何がハードルなのかと言うと、日本国内の海外大学院向け給付奨学金は25歳以下という年齢制限現在学生であることを条件とするものが非常に多く、そもそも応募ができません。社会人が応募できるものは限られており、仮に応募したとしても過去の合格者から判断すると獲得は非常に難しいことが伺えます。よって26歳以上の社会人が米国大学院を目指す場合、奨学金は宝くじ程度に捉え、なくても合格に辿り着けるような戦略を練る必要があります。具体的には圧倒的な研究実績をあげるか、志望教員に直接アピールするかが基本的な戦略になると思います。
4. GPAの壁
トップ校のほとんどにおいて推奨GPAが設定されています。GPAのみで合格が決まることはないと思いますが、足切りとして使われることはあるようです。4.0に近いのが理想ですが、できれば学部も修士も3.6以上、最低でも3.3以上はあると良いです(大学による)。

過去の成績は変えられないので、GPAが低い場合は、なぜ低いかを説明できるように準備したり、それをカバーする実績を作るしかありません。自分も学部のGPAは3.3とギリギリのラインだったため、実際に面接でなぜ学部のGPAは低いのかと2回くらい質問されました。修士で良いGPAを取っていても学部成績について聞かれたので、自分のようにやらかしてしまった方は"なぜ"を説明できるようにしておくと良いと思います。(出願先の教授と強いコネクションがある場合はこの限りではありません。)

他にも挙げればキリがないですが様々なハードルを越える必要があります。そもそも博士取得するべきかというのは別議論として、米国PhDを志したにもかかわらず出願すらしないケースも多いですし、出願したとしても国内奨学金がなくて全落ちというケースもざらに聞きます。

かくいう自分も在職中は「いつかは米国PhDに行きたい」と憧れる気持ちはあっても、出願すらできませんでした。やらない理由を探してしまうといくらでも見つかってしまうもので、自分の弱さを自覚しました。諦めずにやりたいことを追求するのは歳を重ねるごとに難しくなってきているかもと感じることもありました。

結果として自分が取った方法は、言い訳できない環境に身を置いて集中することでした。会社を退職し、PhD準備に割ける時間をつくり、意図的に自分にプレッシャーをかけて集中しました。今でこそ言えますが、この方法は精神的負荷がかなりかかるのでおすすめはしません。また要領の良い方であれば退職せずに同様に準備できると思います。

とはいえ走り出してしまえば意外となんとかなるもので、やるしかなくなります。最初の一歩は本当に怖かったですが、退職時には「スタンフォードかバークレーに合格します。」と宣言してしまった以上(両校とも落ちましたが笑)、結果出さないとやばいなという良いプレッシャーを持ち続けることができました。バックアッププランまで含めどうすべきか考え抜いたら、あとはもう覚悟を決めて"えいや"です。仕事でもそうでしたが、走りながら軌道修正していくのも楽しいものですし、"人は人、自分は自分"という精神が重要です。

社会人に有利な点

それでは逆に社会人ならではのアドバンテージはなにか。個人差はあると思いますが、単刀直入に言うとお金と経験だと思います。場合によってはコネクションが作りやすいなどもあるかもしれません。

お金(軍資金)
博士課程自体は給料が出るとはいえ、実は出願や渡米までに結構お金がかかります。TOEFLやGREは1回受験するごとに2万円以上かかりますし、出願料も1校あたり1〜2万円かかります。他にもキャンパスビジットをすればその時のフライト代や宿泊費など、なんだかんだで入学までにお金がかかります。出願に関するお金の制約は社会人の方がゆるく設定できると思います。
経験
卒業後に働いている経験値がある分、アピールポイントやSoP(エッセイ)に盛り込めるエピソードが増えると思います。また会社にいたからこそ気付ける視点やリサーチクエスチョン、リサーチの社会実装、事業への応用などがあれば、差別化できるポイントになると思います(分野によります)。

とはいえ最近のCSに合格する学生は、本当にびっくりするくらいハイスペックな方が多く、学部の時点でトップ国際会議へ何本も論文を通していたり、インターン経験や研究留学経験もある場合が多いため、必ずしも社会人のアドバンテージとも言えません。自分の士気を高めるために信じる程度がちょうど良いと思います。

個人的には一度働いてから大学院へ戻ることは、自分がなにをやりたいかをクリアにした上で研究できるため良いことだと感じています。また出願に直接影響するスキルではないですが、仕事を通して習得できるプロジェクトマネジメント、ロジカルシンキング、課題を見立てる力などのソフトスキルは進学後や今後の人生においても役立つものだと思っています。

学部の学位がCSでない問題

自分のように学部が非CSでも大学院でCSや情報系を目指したい方もいると思いますが、CS系PhDの多くの出願において、CS関連の学位をすでに取得していることが必須となっていることが多いです。(ただし数学や物理学などCSと親和性の高い学位であればOKな場合もある。)

また大学によっては具体的なCS領域の授業(コンピュータアーキテクチャ、OS、データ構造とアルゴリズム、確率論、線形代数など)の単位をすでに取得していることが要求されることもあります。

(参考)
UCデービスのCSの必須要件
UCアーバインのEECSの必須要件

情報系の博士へ進学する以上、CSの基礎知識が前提となることは当然ながら変わりませんが、関連授業や実務経験などで代替することも可能ですし(大学による)、入学後に授業を履修することでなんとかできる場合もあります。以下に考えられる対策を挙げます。

対策
・修士でCS関連の学位を取得する
・学部が非CSでも微積、線形代数、統計学、数理最適化等の授業はきちんと履修していることをアピールする
・在学中に自由単位としてCS系の授業を履修しておく
・MOOC(オンライン講座)で履修したことをアピールする
・実務経験からCS系知識の基礎体力はあることをアピールする
・博士課程在籍中に授業を取って良い成績をとることをアピールする
・教授によっては面接中に技術的な質問をされたり、メールで課題を送付されるのでそれを丁寧に回答する

自分の場合は、修士でCS関連の学位を取っていたことと、学部が非CSながらも経営工学専攻だったため関連授業を取っていたこと、実務経験などをアピールしました。

米国院試概略

アメリカの院試では、合否は様々な要素を元に総合的に決定されます。基本的に出願に必要なものとしては、

必須なもの
・TOEFLまたはIELTS(英語能力の証明として留学生のみ必須)
・GRE(全員に必須の共通試験で数学、英語、ライティングからなる)
・Statement of Purpose(通称SoP。志望理由、過去の経験、やりたい研究などを書く。大学によってはPersonal History StatementやResearch Statementを課せられるところもある)
・推薦状(3通が基本)
・成績証(学部・修士のGPAも計算)
・CV(キャリアや実績などを記載する履歴書のようなもの)

なくても出願できるがあると良いもの
・研究実績(査読付き国際会議やジャーナルへの採択)
・国内奨学金の獲得(出願時には金額が確定しているのがベター)
・ポートフォリオ(WEBサイトなど)
・志望教員とのコネクション(事前コンタクトや紹介など)

その他
・テクニカルレポート(技術ブログや学会レポートなどを作っていれば)
・学部と修士時の研究を英語でまとめたもの(日本語とはいえ卒業論文や修士論文として研究したものなので自分は英語でもまとめました)
・GPAが低い理由の弁明文(大学によっては提出できる)

になります。これらを提出し、入試委員会により審査され、基準を満たしていれば面接を行い(ない場合もある)、最終的な合否が決定されます。

先人の合否結果、教授から聞いた話、自身の受験経験などから、合格に効いていると思う順に要素を並べると以下のようになります(ざっくりとしたイメージとして)。

重要度
コネ
(強力な紹介や志望教員とのつながり) ≧ 実績(CV) ≧ カネ(奨学金) >> 推薦状 ≧ SoP > GPA ≧ GRE ≧ TOEFL

上記はあくまで個人的な見解ではありますが、コネ・カネ・実績が最も重要であることは間違いないと思います。ここでコネとはポジティブな意味で使用しています。これは院試に限らずですがアメリカにおいて採用候補を決める際に、コネクションすなわち誰が推薦しているか自分がすでに知っているかなどは非常に重要な要素になっています。信頼値と言ってもいいかもしれません(推薦者の信頼にも関わります)。何千人もの出願者から本当に信頼できる人を絞るため、このコネクションがある種のスクリーニングになっています。またこのコネクションは単に知り合えば良いというものではなく、何かしらのアクションをし能力、人間性、ポテンシャル等を認めてもらうことで初めて力を発揮します。研究を頑張るのはもちろんのこと、このコネ力は今後もアメリカで生き残るためにはマストなスキルになるのかなと思っています。

またTOEFLやGREは重要ではないかと言うとそんなことはもちろんなく、基準点に達していなければ当然足切りされます。特にTOEFLは大学の指定するスコアを切らないよう気をつけた方が良いです。他出願者のTOEFL、GRE、GPAが当たり前のように高いので、それだけでは差がつかないというだけで、やはり最低限のスコアは満たさなければなりません(自分はここでも苦労した)。

そしてこれらに加えて言わずもがな運も必要です。むしろ運が半分以上と言っても過言ではないかもしれません。教授が今年度は学生を取らないと決めていたり、興味のあったプロジェクトがちょうど終了してまったりなどが、往々にして起こります。逆も然りで、WEBサイトには載っていなかったけど連絡してみたら自分の研究興味にドンピシャなプロジェクトがこれから始まることを教えてもらえたりなどもあります。

またアメリカの大学院は、修士を前提として博士があるのではなく、修士と博士のプログラムが独立しています。つまり学部から直接出願することが可能になっています。しかしながら学部生は、経験年数において修士や社会人と比べると不利になるため、学部からの出願の場合はポテンシャルを考慮して審査されるケースもあるようです。(とはいえ昨今のCS合格者は学部生といえどトップカンファレンスへ何本も論文を通していたり、複数のインターン経験もある場合が多く、尊敬するばかりです。)

社会人あるいは修士に関してはポテンシャル合格は難しく、コネ・カネ・研究実績・実務経験などから、自分を合格させるメリットをしっかりアピールする必要があります。

より詳細な概要やプロセスについてはCMUのCSの教授によるこちらの資料やUCSDの教授によるこちらの資料を見ると全貌がよく分かります。

以下の章では受験に必要な各要素について順を追って説明します。

出願校選び

やりたい研究があって進学する場合、基本的には気になる研究室を見つけることに時間を費やすと思います。論文を読んでいて興味のある教授を見つけられるのが理想ですが、競争率は非常に高いため出願先候補を選ぶために、

・論文を読んだり先行研究サーベイの中で見つける(これが基本)
・学会などに参加してネットワーキングしていく中で見つける
・興味のある分野の単語で検索をかけて片っ端から研究室を調べる
・気になる大学の専攻のFacultyページを片っ端から調べる
・気になる先生がよく共著している先生も調べる
・知っている先生から紹介してもらう

などを行って絞り込めると良いと思います。ちなみにここが最も時間がかかります。気になる先生リストができたら、なぜ気になるのか、自分はどういう貢献ができそうかなどをまとめてメールを送ると、運が良いとレスポンスをいただくことができ、先生とお話する機会も作れて大変良いです。

出願したい大学が定まってきたら、どれほど可能性があるかも調べてみると良いと思います。

合否可能性の客観的判断
・研究室学生のバックグラウンドを調べる
・合格者統計を調べる(非公開の大学もある)
・出願数や合格数を内部の人に聞いてみる
・今年学生をとる予定があるか教授に聞いてみる
・教授のリアクションから判断する
・直近のファンディング情報を調べる
・進行プロジェクトやこれから始まるプロジェクトを確認する

何校出願すべきか
CMUの先生の資料によるとこのように書かれています。

People generally apply to 3 schools at their level, 2 schools above their level (you may get lucky), and 1 or 2 schools below their level (you need a safety school).

ドリーム校、実力相応校、安全校に分けて複数校出願するケースが多く、予算やサーベイ・エッセイにかけられる時間を元に決めると良いと思います。ただし出願数が増えるとその分読む論文数も増え、エッセイの構成などにかかる時間も多くなります。

TOEFL

英語能力の証明として留学生は提出が必須です。学位をすでに英語圏で取得している場合は免除できる場合もあります。
学校によってはIELTSを許可している場合もありますが、TOEFLのみしか認めない大学(Stanfordなど)もあるため、自分はTOEFL一択でした。

推奨スコア
StanfordやMITなどの超トップ校は100以上を要求するところが多いですが、90以上あればパブリックアイビーをはじめ多くのトップ大学への出願が可能です。TOEFLは足切りとして使われるので早いうちに100以上を取得しておくと、精神衛生的にも良いです。

対策ポイント
リスニングが命です。総合的な英語力を判断される試験ではありますが、リーディング以外はすべてのセクションにおいてリスニングが必要です。スピーキングやライティングで回答するために、そもそも音声内容を理解する必要があります。自分はTOEFLリスニングがとても苦手で最後まで苦労しました。逆にリスニングを制してしまえば、あとは早いと思います。おすすめ教材や私の行っていた英語勉強法については需要があるか分かりませんが英語勉強の章に書きます。

試験会場にも気をつけた方が良い
あまり本質ではないですが、TOEFLは試験会場による差がかなりあるので、注意して選んだ方が良いです。簡易長机をプラスチック板で仕切った50cm幅程度のスペースになることもあれば、しっかりしたパーテーションで区切られてイヤーマフも付属している広々とした快適自習室のような環境もあります。こればかりは運もありますが、簡易長机で隣の人の貧乏ゆすりが激しかったりすると自分の場合は集中力を削がれました。予約枠があるうちに良い評判の会場を予約しておくと良いです。

現在はCOVID-19の影響もあり、家で受験できるスペシャル版になっているようです。不幸中の幸いと言うべきか分かりませんが、自宅で受験できるのは朗報かもしれません。

GRE

こちらは留学生だけでなく出願者全員が必須のテストです(大学によっては要求しないところもある)。GeneralとSubjectの2種類のテストがありますが、情報系専攻の場合、Generalのみで問題ありません。

試験は3セクションで構成されており、
Verbal: ネイティブスピーカーにとっても難しい英語試験で単語と読解問題からなる
Quantitative: 日本のセンター試験レベルの数学試験で、理系出身ならあまり時間を割かなくても満点を狙えるセクション
Analytical Writing: 論理的な文章構成や英語表現が求められる英作文

推奨スコア
大学によりますが、Verbal: 155, Quantitative: 165, Analytical Writing: 4.0が目安となっていることが多いように思います。こちらはTOEFLとは異なり足切りされることはあまりなく、GREが低くても面接などに進める場合もよくありますが、合格者の多くは目安スコアを満たしているようです。

対策ポイント
Verbalは本当にびっくりするくらい単語が難しい一方で、Quantitativeはびっくりするくらい簡単です。日本人が受験する場合、Vで150以上・Qで満点を目指すのがおすすめです。なお自分の場合はQは問題なかったものの、Vのために単語を覚えるのが苦痛で最後まで振るわなかったです。なるべく早めに単語を覚えておくか、もしくはGREレベルの単語を使用する文献を多読するのが良いと思います。

Analytical Writingでは2題の問題があり、Task1は与えられたステートメントに対して自分の立場を述べるエッセイ、Task2は与えられたパッセージに対して論理的欠陥を指摘するエッセイです。Task1はTOEFLのWritingのTask2と似ていますが、TOEFLよりも長い単語数(500words以上)で、自分の体験ではなく客観的な具体例とともに書くと良いです。Task2では論理の欠陥を4〜5つ以上的確に指摘できると良さそうです。

Statement of Purpose

通称SoPといいます。志望理由、過去の経験、やりたい研究などをA4で1-2ページ程度で書くエッセイで(大学によって単語数の規程あり)、論文実績以外で自分をアピールできる資料にもなるためしっかりと作った方が良いです。実務経験、インターン経験、課外活動などがあれば自分のユニークネスとしてアピールすることもできるので、研究に関連させてアピールできると良いです。

記載事項
・博士の志望理由/モチベーション
・卒業後の進路(アカデミアまたはインダストリー?)
・研究経験/関連する実務経験(ゴール、自分の役割、結果、学び)
・研究興味(研究の目標やリサーチクエスチョンなど)
・興味分野の理由とどのように実現するか
・なぜあなたがそれをできるか
・大学の志望理由
・志望教員のリストアップと志望理由

ほとんどの段落は一度しっかり作ってしまえば使い回せると思いますが、それぞれのエピソードがきちんとストーリーとして繋がっていることを意識した方が良いです。あまりにも支離滅裂だとマイナス評価をもらいかねません。また大学および教員の志望理由については各大学ごとにそれぞれつくる必要があります。このプログラムが魅力的、この分野での著名人が揃っている、この先生のもとで研究をしたいなどを掘り下げ、心を込めてつくりましょう。

個人的に気になっていた疑問
・求められるクライテリアは学生と社会人でどれほど変わるか
→ 大学や先生による差はあると思いますが、自分が聞いた限りでは学生だろうが社会人だろうが研究実績を元に平等に評価されるようです。給与をもらって雇用される以上、入学後はそれなりの論文成果を求められるためです。良い研究実績とはすなわち有名な査読付き国際会議またはジャーナルにどれほど採択されたかということです。論文実績が弱い場合は、技術的なプロジェクトや社会実装経験などでもアピールすることになります。クライテリアに関しては、学部生の場合はポテンシャルを見てもらえることもあるようですが、社会人や修士学生の場合は基本的には実力勝負になると思って挑んだ方が良いと思います。

・実務経験はどれほどアピールになるか
→ MBAではビジネス経験の豊富さやチームの統率、リーダーシップなどもアピールポイントになるそうですが、情報系PhDではそれよりも研究実績の方が重要になるようです。とはいえ技術的な実務経験(ソフトウェアエンジニアリング、機械学習など)は研究活動にも直結するのでアピールになります。技術を駆使して社会実装をしたり、事業に応用した経験などをエピソードとして盛り込めるとユニークなSoPになりますし、社会実装に力をいれている先生には評価していただけることもありました。

・ビジネス実績も考慮されるのか
→ 前述の通り研究経験こそが重要であるという意見もあり、あまり評価されない可能性があるので、ビジネス面に関しては書くとしてもさらっと一言程度におさめたほうが良いかもしれません。ただしもちろん大学や先生によって違うので、志望教員がどういうポイントを重視しているかみると良いですし、直接聞いてみるのも手です。自分は一言程度にとどめました。

これらの疑問点については、こちらのUCSDの先生の資料が参考になります。この資料では基本的には研究経験のみを重視するというスタンスのようです。
添削・校正に関して
1. 経験者や先生に見てもらう
エッセイ内容をある程度書いたら実際に出願したことのある学生や書き方を分かっている大学の先生などに目を通してもらえると良いです。運が良いと出願先の先生に見てもらえる場合もあります。

2. Grammarlyで簡易修正
文法等の最低限の添削はGrammarlyを使うと良いです。無料版でも思わぬミスなどに気づくことができます。有料版では表現の不自然さなども指摘してもらえますが、たまにGrammarlyもミスをすることがあるのでなにか変だなと思ったら、ネイティブスピーカーなどに直接聞くと良いです。

3. 外部添削サービスで本格修正
お金はかかりますが(150〜200ドル程度)、最終チェックのためにもライティングによほどの自信がない限りは出した方が良いと思います。自分はEssay EdgeのGraduate Application Essay Standard Editingを利用しました。クーポンコードが落ちてることが多いのでクーポンを使用すると良いです。もし検索しても見つからない場合は連絡をいただければ自分のクーポンコードを差し上げます。
大学によっては必要な他のエッセイ
Personal History Statement
UC系の大学で主に求められます。SoPに書いてない事柄で技術的な興味や課外活動、個人史などを書きます。ここではもちろん出願という文脈に沿う必要はあるもののパーソナルなエピソードや仕事についても記入できます。自分の場合は、SoPに書ききれなかったプロジェクト、これまでに印象的だった授業、データサイエンスに興味をもった個人的なきっかけ、インダストリーでの経験を盛り込みました。

Research Statement
SoPよりも研究に特化したエッセイにする必要があり、どちらかというと研究計画書に近いです。SoPの内容をベースに作れると思いますが、研究テーマや研究計画などについてより詳しく書くと良いと思います。

English Essay
留学生がいかに英語に問題ないかを根拠とともに書く必要があります。自分の場合は、Personal History Statementを書き崩しながら英語運用場面などに言及しました。

Video Essay
自分はなかったですが、CMUなどではビデオエッセイの提出も強く推奨されるようです。
SoP作成プロセス
1. ネット上で公開されている過去の合格者の資料を集める
 (こちらのページだけでも6つの先人のSoPが公開されています)
2. 実際にいま博士課程にいる先輩方から出願時のSoPをいただく
3. これらの資料を参考に構成のコツを勉強しオリジナルの内容で作成する
 (このとき単語数はいったん気にせずつくる)
4. 先生やネイティブスピーカーに送付しコメントをもらう
5. コメントを元に書き直す
6. 4,5をもう一度やり単語数を削る
7. 英文校正にだす
8. 校正コメントを反映する
9. 最終調整をして提出する

推薦状

3通集める必要があり、大変重要な要素になります。出願先の先生とすでにつながりのある先生や志望教員自身に書いていただけると非常に強力な推薦状になりそれだけで合格にかなり近づく場合もあります。

また志望教員と直接つながりがある場合でなくても、推薦状では客観的にみてその人がどのような人間でどういう成果をあげてきたかを判断されるため大変重要な役割を果たします。推薦してくださる先生や上司には心を込めてお願いしましょう

基本的には一緒に研究活動や仕事でお世話になった方にお願いすることになります。社会人が出願する場合は所属先からの推薦はおそらく含めた方が良いと思います。学部生が出願する場合はお願いできる上司が少ない場合もあり、授業で良い成績をとった先生からもらう場合もあるようです。

誰にお願いするべきか
これはかなり悩ましいポイントで、自分をすでに知っている志望教員や評価してくださっている大御所からいただけるのがベストパターンではありますが、面識程度しかない大御所にもらうよりは自分のことをよく知っている人の方が良いと思います。というのも推薦状は適当なことを書いてしまうと推薦者の信頼にも関わるため、率直に書かれることが多いからです。指導教官、一緒に仕事をしていた上司、共同研究をしたことのある研究者などにお願いしましょう。米国で博士を取っている先生の方が良いという噂も聞くのですが、おそらく良い推薦状の書き方を知っているという意味で有利なのかもしれません。私の場合は、学部の指導教官、修士の指導教官、会社の上司にお願いしました。10校以上の出願となったため大変お手数をおかけしてしまいましたが、快諾くださり本当にお世話になりました。

推薦状の記載事項
単語数の目安は300-500語程度で、A4またはレターサイズ1枚に収まるのが一般的なようです。実際の推薦状に書いてもらう事項としては以下になると思います。

・被推薦者との関係性
・研究または仕事の実績
・具体的なエピソードと貢献度
・博士課程でやっていけるか(人間性、研究・仕事遂行能力)
・英語運用能力(英語に自信がなければお願いすると良い)
・他学生との比較

私の場合は、推薦状を依頼する際に、CV・関わったプロジェクトでの役割や貢献・どのポイントを評価してほしいかなどをまとめて送っていました。それぞれの推薦者から評価していただくポイントにバリエーションを持たせることでより効果的な推薦状になるのかなと思っています。

推薦状プロセス
0. 出願者は推薦者へ推薦状のお願いをする
1. 出願者が出願ページで推薦者の連絡先を登録する
2. 出願者は推薦文を見る権利を行使できるが、通常は"放棄する"を選択する
3. 推薦者へ大学から推薦状依頼メールが届く
4. 推薦者は提出フォームへアクセスし推薦状を添付する
5. 推薦状以外に簡単なアンケートがある場合はそれに回答する
6. 提出が完了するとサンクスメールが届く

GPA

トップスクールを目指すなら3.6は欲しいところです。また足切りラインとして3.3を設けている大学も多かったです。自分は受験準備前は修士で挽回していれば問題ないかなと安易に考えていたのですが、学部の成績も同様に重視されることが多く涙を飲みました。いま学部生の方は人生なにが起こるかわからないので、少なくとも良い成績だけはキープした方がいいです。

とはいえ社会人にとって過去の成績は変えられないので、なぜGPAが低いかを説明できるよう準備したり、それをカバーする実績を作るしかありません。大学によっては弁明文を提出できるところもありますし、あまりにも低い場合はSoPで言及した方が良いと思います。また大学によっては以前の成績を重視しないところもあるので、そういった大学を探すのも手です。

スケールが4.0じゃない問題
アメリカの大学ではGPAは4.0スケールで表示されることが多いようですが、自分の出身大学はそうではありませんでした。例えば東工大は100点満点での成績表記となっていたため、単純に平均をとって記載しました。4.0表記と比べて見劣りしていないか心配にもなりましたが、こればかりは仕方がないので淡々と書きましょう。外部機関による有料のGPA換算サービスもあるようですが、私は使いませんでした。
科目名がわかりにくい問題
大学によってはCS系授業の単位取得を要求されることがあり、例えばUCデービスでは出願時に過去に履修したCS系授業について具体的な科目名まで記載しなければいけないのですが、授業名の英語表記からは実際の内容が想像しにくい科目がいくつもあって頭を抱えました。面接でも成績表を見ながら具体的な授業名と内容を聞かれることが何回かありました。表記名を変えることは不可能なので、シラバス・教科書・授業内容などを英語で説明できる補足資料を念の為つくっておくと良いかもしれません。

CV

Curriculum Vitaeといい、研究業績、キャリア、受賞歴などを書く履歴書のようなものです。これはある程度フォーマットが決まっているので、研究室の学生や先生のCVを見ながら形式を真似すると良いです。

CVに乗っている業績を見て第一印象が決まるので、見栄えがよくなる内容(論文実績)で埋められるよう研究をがんばると良いです。

研究実績

基本はトップカンファレンス・ジャーナルへの採択
一番わかりやすいのは自分の所属領域でのトップ国際会議やジャーナルへ採択済みの論文を持っていることです。最近の情報系PhDではAIブームもあってか、合格者のプロフィールを見ると出願時点で2本以上の論文実績を持っているケースが多いです。Workshopでもないよりは良いので複数の採択論文を持っている状態にしていると良さそうです。

修論・卒論もアピールになるかも
日本で理工系の専攻にいた方は当たり前のように修論・卒論を執筆していたと思いますが、実はアメリカの大学システムからするとこれは当たり前ではないです。アメリカの大学では理工系であっても学部も修士もコースワークのみで終わることがざらにあります(卒論修論がないのです)。

ゆえに大学時代の国際会議成果がないからといって、単に日本で学位を取りましたと言うだけでは勿体ないです。特に修論に関しては厳しいラボ生活の集大成だと思いますし、日本では博士前期課程と言われるくらいですので、自信をもって研究経験のひとつとして付記すると良いと思います。

ただし日本で作成した卒論修論は基本的には日本語であることがほとんどだと思います(もし英語で執筆していた場合はラッキーです。そのまま添付できます。)ので、スライドや文章として英語版も作っておくと出願先の先生にも見せることができてより良いです。自分の場合は、実際に学生時代の成果物を英語スライドで作って先生に送った結果、実際にコンタクトにつながったケースが何度かありました。

国内奨学金

奨学金の獲得はクリティカルに合否に影響すると思います。過去の体験記事を検索すると奨学金なしで受験した結果、全落ちであったり1校のみの合格であったりするケースが多かったです。もちろん研究業績や他の要素も重要なのは言うまでもないですが、同じ程度の実力の候補者がいた場合、奨学金を持っている方が採用されます。またCOVID-19により大学の基金がシビアになっている昨今においては、尚更重要なファクターになると思います。

しかしながら前述のように社会人にとって、この国内奨学金には年齢と所属によるハードルがあるため、奨学金は宝くじ程度に捉え、なくてもなんとかして合格に辿り着けるような戦略を考えると良いと思います。自分も応募資格のあるものには挑戦しましたが残念ながら不合格でした(自分の場合英語スコアが足りないせいでもある)。

以下に情報系で出願前に応募できそうな奨学金をざっくりとですが書きます。(間違っている可能性もあるので必ずご自身でもお調べください)

日本学生支援機構 海外留学支援制度(大学院学位取得型)
TOEFL100点以上、年齢・所属制限なし

船井情報科学振興財団
英語・年齢・所属制限なし

伊藤国際教育交流財団
英語・所属制限なし、29歳以下推奨、修士進学限定
(追記:博士進学の場合でも最初の2年間を修士に準ずる課程とみなし応募が可能なようです。)

中島記念国際交流財団
英語・所属制限なし、30歳以下対象

平和中島財団
TOEFL90点以上、年齢・所属制限なし

フルブライト奨学金
TOEFL80点以上、年齢・所属制限なし、卒業後は帰国義務

吉田育英会

TOEFL88点以上、34歳以下かつ応募時に日本の大学に在籍している人のみ

山口育英奨学金
英語・年齢制限なし、学生のみ

経団連国際教育交流財団
TOEFL61以上、年齢制限なし、学生のみ

孫財団
英語・所属制限なし、25歳以下のみ

江副記念リクルート財団
TOEFL100以上、所属制限なし、25歳以下のみ

村田海外留学奨学会
英語制限なし、25歳以下かつ学生のみ

事前コンタクト(コネクション)

コネクションの作り方ですが、すでに仲の良い先生や知人などから志望教員を紹介いただけるのが理想ですが、紹介が難しそうな場合でも諦める必要はありません

心を込めてメール
論文や研究内容を調べ、気になる先生リストができたら"心を込めて"メールを送ると良いと思います。大学によっては事前のコンタクトは合否に関係しないと名言されている場合もあるようですが、先生が欲しい学生を入試委員会に推薦するプロセスがある大学もあり、合格可能性をあげるための一アクションにはなると思います。また仮に合否に関係しなかったとしても興味のある先生と議論ができるだけでも、新たなリサーチクエスチョンが思い浮かんだり、次に読むべき論文がわかったり、関連分野の先生を紹介してもらえる場合もあり、プラスになることが多かったです。

とはいえ先生によってはメールは送るなと個人ページで明言されていることもあるため、そのような場合は素直に送らない方が良いです。逆に「興味がある学生はメールを送るように」と書いている先生もいます。

どういうメールを送るべきか
教授は一日に何百というメールを受診しており大変忙しいため、簡潔かつ興味があることが伝わる文章を送ると良いと思います。ただし必ずしも返信が来るわけではありません。またテンプレートを作って宛名を変えて送るだけでは何百というメールに埋もれるどころかマイナスな印象にもなりかねないので、なぜ興味があるかを心を込めて書くと良いです。

自分の場合は簡単な自己紹介と研究関心、どの論文を見たか、なぜ興味をもったか、なぜ自分がフィッティングするかを書き、CVやポートフォリオとともにメールしていました。

時期としては出願前に連絡が取れていると安心ですが、出願直後でもコンタクトをとれる場合もありました。また学会などに参加した時にその参加報告とともに発表スライドなども送付すると返信率がとても高かったので、分かりやすい成果物があるのもポイントかもしれません。

キャンパスビジット
メール等でコンタクトが取れたら、機会があればキャンパスビジットをするのも手です。お金や時間はかかりますが、教授と直接ディスカッションをしたり、現地学生と話したり、キャンパスの雰囲気を体感できるというメリットがあります。

ただし自分が何校かキャンパスビジットをしてみて結果的に感じたことですが、直接訪問すること自体よりはコンタクトをとって議論できているということに意味があると思いました。研究室にいる学生についてもオンラインで先生から紹介していただける場合もありました。

コロナ禍で今後しばらくは直接訪問することは難しいと思いますが、オンラインでも問題ないので事前に志望教員と少しでもお話できていると良いと思います。

面接

さてここまでは出願前までの要素でしたが、出願後に行われる面接も大変重要です。研究実績が明らかに高い場合や強い紹介がある場合などは面接がないケースもあるそうですが、日本からの留学生は面接があるケースの方が多いのかなと思います。以下に面接でよく聞かれるトピックをまとめます。英語を話せる人と事前に練習できていると良いです。

志望理由
なぜこの大学/専攻/研究室/研究テーマ
なぜPhD
なぜアメリカ

やりたい研究
研究テーマ/分野/リサーチクエスチョン
志望研究室の論文の中でなにが面白かったか
最近読んだ論文で面白かったのあるか
それらの論文の欠点はなにか
具体的にそれをどのように応用させるか
自分の過去の経験と志望研究室との関連性

進路
卒業後はどうするか
それはなぜか

過去の研究経験に関して
概要/目的/モチベーション/リサーチクエスチョン
手法/新規性/結果
自分の役割
社会的なインパクト
困難だったポイント

過去の授業と成績
CSの基礎、機械学習、数学等をどの授業でどのように学んだか
具体的な授業名と、授業内でやったプロジェクト

技術的な質問
このアルゴリズムを説明せよ
この指標の意味を説明せよ
この機械学習手法を説明せよ
この数理モデルについての長所と短所を説明せよ
手法Aと手法Bの違いを説明せよ

ケース
こういうデータがあったらどのように分析するか(分析手順、前処理など)
アルゴリズムのフローチャート見せられて改善アイデアをその場で答える

パーソナリティ
研究の中でなにをしているときが一番楽しいか/苦しいか
どういうタイプの研究が好きか
研究活動の醍醐味はなにか
どのような研究スタイルを好むか
どのような指導法を期待するか
自分の強みと弱み

その他
出身大学は日本でどのレベルの大学か
GPAが学部と修士で大きく違うのはなぜか
アカデミアとインダストリーの研究のどちらが好きか
国内奨学金を今後とる予定はあるか
OSSへの活動はあるか

その他の要素

出身大学
ほとんど関係ないと信じたいのですが、昨今のCSの熾烈な競争率もあり、出身大学が超トップ校である場合は大学名も少し考慮されるようです(もちろん大学によります)。ここでいう超トップ校とは、アメリカでいえばBig4やアイビーやCSランキング上位の常連校などです。中国なら北京大や清華大、インドならIIT、シンガポールならNUSなど、各国を代表する大学であれば、少しプラスに評価されるようです。

日本ではおそらく東大のみですが、東大であっても上記の大学と比較するとやや見劣りするかもしれません。こちらの記事では強い出願資料などについてまとめられていますが、著名大学からの出願者の場合とそうでない場合で論文実績の基準や合格率が変わるようです。また出身大学だけでなく、出身企業の有名度(GoogleやFacebookなど)も影響を与えることもあるようです。

私の小話
オンライン出願フォームで記入を進めていると、出身校を登録するセクションがあるのですが、大学選択リスト内に自分の母校がなくて(他の有名校はリストにありました)、泣く泣く自由記述欄に書くという経験を何度かしました。単にヒストリーがないだけかもしれませんが。

実際に面接においても「あなたの大学は日本でどれくらい良いか?」という旨の質問を何度か受け、あまり知られていないんだなと感じました。とはいえ出身大学について聞かれても怯む必要はなく、教授も単に知らないので聞いているだけだったりするので、客観的な事実とともに回答すると良いと思います。自分は母校の筑波大も東工大も大好きで誇りを持っているので、母校の素晴らしさや特徴・教育環境・研究レベルなどを淡々と回答しました。大事なのは出身大学名ではなく、何を目的としてその大学へ入学し、何を学び、何をアウトプットできたかだと思うので、自信をもって回答すると良いと思います。

運気を少しでもあげる
ここまで長々と書いてきましたが、正直なところある程度の準備を済ませたら、あとは運とタイミングの世界です。その年の応募者の優秀さや教授の受け入れ体制やプロジェクトのタイミングなど、こればかりは自分でコントロールするのは難しいです。

しかしながら運自体のコントールは難しくても、教授とつながれそうなアクション回数を増やしたり、自分の会いたい人と会える確率が高いところにいくなど、コントロールできる指標に変換して運気を少しでもあげる行動ができると良いのではないかと思います。

博士留学生のネットワーク
特にインドや中国などの出願者は、すでにアメリカにきているOB/OGのコミュニティが強く、様々なノウハウを共有してもらえる場合があります。そういった優秀かつコミュニティも強いエリート層と競争しなければならなく、日本人においてもロールモデルが身近にいたりノウハウが伝搬されるようなネットワークがもっと大きくなったらいいなと思っています。本記事もロールモデルというには烏滸がましいですが、一経験として共有できたらという思いで書いています。

ただ逆に言えば、日本人でもインドや中国系のコミュニティと仲良くできると、思いも寄らぬ情報が得られたりします。他国で生きるもの同士として、みんなで助け合えると良いですよね。

私の場合、UCアーバインのたかみさんに大変お世話になりました。アーバイン訪問時には研究室見学や宿泊までさせていただきましたし、英語の問題集もいただいたり受験相談までのっていただき本当に感謝が尽きません。今後挑戦される方でもし私の進学先に興味があれば、自分もご案内します(もちろんコロナがおさまったら)ので気軽にお声かけください。相互扶助の流れがもっと活発になっていくといいなと思っています。

私の受験準備

ここから先のセクションでは私個人の体験に特に焦点を当てて執筆します。

まず受験の前段階における準備に関して。
本来であれば学業や仕事を続けたり、研究成果を出しながら合間の時間で準備できるのが理想ですが、自分の場合は出願を考え始めたときには以下の2つの大きな問題がありました。

1. 論文実績が弱い
2. 英語力が全然足りない

それぞれの私なりの解決策はこちらです。

1. 論文実績が弱い
在職中から「いつかは米国PhDに行きたい」と憧れる気持ちは薄らあったのですが、入社時に情報系の国際会議への論文はありませんでした。元々リクルートへ入社した動機の一部として、計算社会科学と親和性の高い大規模な人間行動データや社会データを触りたかったのと、技術や研究を社会実装して実際に事業価値を出すところまで経験したかったことがありますが、幸運にもR&Dとデータサイエンス系の部署へ配属していただいたため、 リサーチとビジネスの両面を経験することができました。いただいた環境に心から感謝し、在籍期間中は仕事に全振りし、論文投稿も目指しました。

結果として仕事の成果の一部を執筆することができ、国際会議のworkshopに2本採択されました(本会議に挑戦した論文もありましたがrejectされました)。事業活用系の仕事も持ちながら論文執筆の時間を捻出するのはなかなかきつかったですが、約2年でなんとか目標としていた最低限の論文数を達成しました。とはいえ英語力が当時全然足りていなかったことと、在職中に出願すらできなかった悔しさから、退職してPhD準備に徹することに決めました。リクルートについては機会があれば記事にできればと思いますが、こんなに優秀な人がいるのかと思うほど尊敬する同期や先輩と出会えたり、新卒でもやりたいことをやらせてもらえる最高の環境だったことに改めて大変感謝しております。
2. 英語力が全然足りない
2018年秋に某予備校で受けたTOEFL模擬試験(無料)では40点という驚くべきスコアを取ってしまいました。模擬試験後の無料コンサルティングでは100点超えを目指すなら2〜4年見た方が良いと言われました。営業トークもあると思いますが、たしかに当時の確保可能な勉強時間だとそうかもしれませんでした。そこで1年以内で間に合わせるために英語を使わざるを得ない環境に身を置くことにしました。具体的には出願までの1年間を英語圏で過ごそうと思いました。3ヶ月語学留学をし、残りの期間も英語圏でどうにかして生活するプランを立てました。英語"を"1年間勉強し続けるよりも、ある程度英語に慣れたら英語"で"生活している方がストレスをかけずに達成できると考えたためです。

私はこの上記2つに苦労しましたが、例えばすでに英語に問題がなく、GPAも良好で、研究実績もある程度あるという方であれば、そこまで時間を捻出しなくても準備できると思います。むしろ本業の片手間に出願できるくらいの方が理想だと思いますし、私もそうありたかったです。

私の受験スケジュールの振り返り

前章を踏まえて、私が退職してからの受験に関するタイムラインはこちらになります。

1月 リクルート退職
2月 英語基礎の復習(文法と発音中心)、TOEFL練習問題
3,4,5月 フィリピンへ語学留学(1日12時間以上英語を勉強)
6月 一時帰国、奨学金や研究室のリサーチ開始、渡航準備、推薦状依頼
7,8,9月 カリフォルニアに滞在(後述)、大学訪問、奨学金準備開始
10,11月 帰国、TOEFLとGREに集中、推薦状リマインド、SoP準備開始
12月 出願、面接対策開始
1月 面接対策、バックアッププランの遂行、面接試験、学会参加
2,3月 面接試験、合否の連絡
4月 意思決定

1,2月
退職後はひたすら英語の復習をしていました。文法や発音を重点的に復習し、フィリピンへ行った時の学びを最大化できるよう心がけました。

3,4,5月
セブに1ヶ月、バギオに2ヶ月いっていました。フィリピン留学については需要があれば別記事にしようと思いますが、きちんと事前準備をし自制することができれば非常に効果が高いと思いました。バギオに関しては日本人がほとんどいない(韓国、中国、台湾、ベトナムから多く来る)学校を選んだのも大きかったと思います。

6月
日本へいったん帰国し、この時期から奨学金や研究室のリサーチを開始し、スプレッドシートなどにまとめていました。推薦状を書いていただきたい旨もこの時期にまず伝えました。

7,8,9月
ご縁がありカリフォルニアに3ヶ月ほど滞在していました。アメリカ滞在中は様々なCS学生や先生にも会うことができ、UC系の大学やスタンフォードなどにキャンパスビジットすることができました。
誘ってくれた友人達や現地でお会いくださった方に大変感謝しています。

10,11,12,1月
日本へ帰国し、恥ずかしながらTOEFLスコアがまだ100点に達していなかったことと、GREがまだ未受験だったのもあり、粛々と出願だけに専念する計画へ変更しました。

3ヶ月のフィリピン生活と3ヶ月のカリフォルニア生活の効果もあって半年前の英語力に比べれば上達を実感するものの、TOEFL100点の壁は思っていた以上に高く、最終的には91点というスコアで出願することになってしまいました。

勉強しているのに点数がとれないというのは精神的にきつく、また奨学金の不採用も相まって落ち込むことも多かったですが、他のポイントでがんばろうと切り替えて、エッセイ(SoP)の構成を最後の最後まで粘りました。出願後もエッセイでメンションした全教員にメールを送り、いかに興味があるかをアピールした結果、何件かビデオチャットの打診をいただくことがあり、腐らずに粘って本当によかったと思います。

12,1,2月
面接対策をし始めました。想定質問集をつくったり色んなところで練習していました(後述)。

TOEFL100点は達成できなかったものの、コツコツと続けていた英語の実力自体は伸びていたようで、インタビューに関してはほとんど聞きこぼすことはなく、荒削りながらも伝えたいことを伝えることができたと思います。

また年明けには研究会にも参加しました。幸運にもアメリカでコンタクトをとっていた先生から学会参加の打診を受け、急遽過去の研究資料をまとめて発表してきました。学会があったおかげで、出願後も気をゆるめることなく研究モードをキープすることができたのかもしれません。

2,3月
結果発表のラッシュでした。はじめは不合格が続いて落ち込んでいましたが、初めて合格をもらったときは感無量でした。
(全結果についてはこのあとの結果発表セクションに記載します。)

英語力向上に向けて

まず言いたいのが、私は最後までTOEFLに振り回されたので、今後受験されるみなさまは一刻も早くTOEFLスコアを達成されると良いと思います。100点の壁は思っていたよりも大きかったですし、スコア達成していないと精神衛生的に本当によくありません。

私の場合、TOEFLの問題集はもちろん解いていましたが、TOEFLに特化するだけではなく英語力全体の向上を目指した取り組みをしていました。

また英語""勉強することが自分にとってはかなり苦しいので、英語""勉強することを心がけました。とは言うものの自分の現スコアは英語勉強法を教授できるようなスコアでは到底ないため、別記事にしましたので、興味のあるかたはポエムとしてご笑覧ください。

費用について

社会人は費用面で有利と前半で書いておきながら恐縮ですが、社会人とはいえとてもきつかったです。TOEFL・GREの受験料や出願費用もありますが、フィリピン留学やアメリカ滞在が大きかったですし、税金が思いの他きつかったです(自己責任)。

具体的な金額は避けますが、ざっくりかかった費用は以下です。

フィリピン3ヶ月語学留学
カリフォルニア3ヶ月滞在
日本での生活費(家賃光熱費や食費など)
試験料(TOEFL8回、GRE3回)
出願料(出願費やスコア郵送費など)
税金等(最初にもっときちんと計算しておくべきだった)
その他(エッセイ添削、交通費、サウナ、雑費など)

お金がきつい中での工夫

1. 英語を短期で一気に伸ばす
フィリピン留学は予備校に通うよりもコスパが良かったと思います。12時間以上英語漬けになるので、自然と体が順応します。ただし留学の効果を最大限にするために、事前に文法や基本例文、発音ルールなどをしっかり復習しておくと良いです。
2. オンライン英会話の無料体験やキャンペーンを活用する
海外にいる間は英語を使わざるを得ないので良いのですが、日本に帰国してしばらく英語を使わないとすぐに忘れてしまいます。そこでオンライン英会話です。英語維持にもなりますし、面接のロールプレイングもできます。

そもそもオンライン英会話自体が語学学校と比べるとはるかに安いですが、無料体験やキャンペーンを活用することでさらに安くなります。自分の場合は約3ヶ月間、破格で毎日オンライン英会話ができました。
3. エッセイの添削は語数ギリギリまで使う
Statement of PurposeとPersonal Statementの両方を求める大学もあるので、添削サービス依頼時はひとつのファイルにまとめると良いです。またSoPに盛り込みたい内容を大学によって変える場合でも、添削サービス利用時はひとつにまとめると一回で添削にかけることができて節約できます。
4. 英語で転職活動する
これには大きく2つメリットがあります。
1つ目はバックアッププランになることです。米国CS博士受験は10校以上出願しても全落ちすることが往々にしてあります。日本の学部生が出願する場合は、落ちた場合は国内の修士に進むという選択肢もとれますが、すでに修士を持っている社会人としては全落ちしたときにどうすべきかは一応考えて置く必要があります。自分の場合は12月頃から転職活動をはじめており、万が一全落ちした際には外資企業で4月から働く予定でした。幸運にも2月には大学から最初の合格通知をいただいたためその時点で辞退し転職活動もやめましたが、ある程度スコアやエッセイの準備をしていれば2年目の出願は仕事をしながらでも大丈夫だと思います。

2つ目は英語の面接練習になることです。オンライン英会話を使ったロールプレイングも良いのですが、CSに明るい講師はあまり多くないため、どうしても技術的な質問対応や実践的な練習をするには物足りなさがありました。仲の良い外国人に時差を合わせて何度もお願いするのも手間がかかりますし気を遣います。しかしながら転職活動では実際に企業で活躍するデータサイエンティストやエンジニアなどからテクニカルな質問を受けることができますし、自分の経験について突っ込んで聞いてもらえます。また転職活動も兼ねているので適度な緊張感もあります。こういった実践的な英語面接の場を無料で経験できたのはかなり大きかったと思います。(大学院受験していることは正直に伝えた上で面接していました。)
5. 国内にいる外国人に話しかける
私の場合は銭湯とサウナが趣味のため、よく銭湯に行っていました。東京の銭湯は意外に外国人も多く、見かけたら必ず話しかけていました。また駅で困っている外国人がいたらよく声をかけていたのですが、話しかけたらたまたまUCLAのPhD学生だったこともありました。

今はコロナ禍でこのようなオフラインでのコミュニケーションは難しいと思いますが、オンラインでもLanguage Exchange(無料)などで代替できるかもしれません。

出願結果と考察

ここから先のセクションでは出願結果と結果発表後について書きます。

私の出願先ですが、全落ちした事例もいくつか聞いており、国内奨学金も採択されていなかったので、たくさん出願しました。出願結果をここで赤裸々に書くべきかは悩みましたが、前例が少ない怖さを身を以て実感したため、今後海外PhDを考えている方へ向け、ベンチマークのひとつとして還元できればと思い、恥ずかしさもありますが公開します。

受験結果
合格

ペンシルバニア州立大学
UCデービス
UCアーバイン
ラトガース大学
ロチェスター大学
ヒューストン大学

不合格
スタンフォード(経営工学専攻計算社会科学分野)
UCバークレー
イリノイ大学アーバナシャンペーン校
ワシントン大学(シアトル)
UCLA
南カリフォルニア大学
インディアナ(ブルーミントン)

通知なし
ニューヨーク大学

* スタンフォード以外はすべて情報系専攻(CS, EECS, Informatics)

スタンフォードなどは残念ながら不合格だったものの、パブリックアイビーをはじめ複数校から幸運にも合格をいただくことができました。今でこそホッとしていますが、結果待ちの期間は全落ちしたらと思うと本当に怖くて怖くて精神的にきつかったです。

合格理由の考察
運が良かったことは大前提として、何が合格に効いたのか考察してみます。
1. 事前コンタクトがとれていた
合格した大学のほとんどにおいて、事前または出願時に教授とのコンタクトが取れていました。これまでの成果をスライドにまとめてプレゼンしたりもしました。すでに素晴らしい研究成果を持っている人であればこの限りではないですが、自分のように研究成果がギリギリで国内奨学金もないアラサーではコンタクトがなかったらきつかったように思います。

2. 面接でのアピールが効いた
合格した6校のすべてにおいて面接がありました。逆に面接をしたものの不合格だったのは2校のみでした。残りは書類のみで落とされています。
そもそも数千人という出願者がいる中で、面接に進むことができればあとは教授とのマッチングになると思うので、ここまで来れば事前準備で時間をかけていた論文サーベイが活きます。面接で教授の論文についてや自分の研究興味などを熱くアピールできたのが大きかったのかなと思っています。

3. 自分の過去の成果と特にマッチしていた
これは本当に運がよかったのですが、自分の過去の成果をアピールして刺さった感覚があったときは合格をいただけたことが多かったです。結果論かもしれないですが、自分の興味やバックグラウンドと教授との相性も要因のひとつだと思います。

4. テストの要求スコアが(Big4などと比較すると)高くなかった
TOEFL91、GREのVerbal140というのは、他の米国PhD受験者と比較すると厳しいスコアで、書類のみで落ちたところは足切りされてしまっていた可能性もあります。
倍率について
昨今のCS・AIブームにより合格率は年々厳しくなっているようで、有名校のCS専攻に出願する場合、1大学あたり出願者数は1000〜2000人合格率は10%以下と考えて良さそうです。これは合格者統計や大学関係者から聞いた情報に基づきます。

例えばワシントン大学での合格者統計では留学生合格率は6%程度、スタンフォードでは内部生の情報によると全体合格率が7%程度のようです。
また南カリフォルニア大学ではこの3年で合格率は10%から2.5%まで下がったとのことでした。UCアーバインやUCデービスでも合格率は5%程度だそうで、CS専攻はアメリカにおいて非常に競争率が高い専攻になっていることが伺えます。(スタンフォードやワシントン大の合格率の方が若干高いのは、要求水準が高くそもそも出願を諦める人がいるからかもしれません。)

参考にしたブログ

ブログの拝見、直接のアドバイス、エッセイの添削など本当にたくさんの先輩方にお世話になりました。挙げればキリがないですが、特に参考にした情報系のPhD出願ブログのうち、比較的最近のものを2つ挙げます。

コネなし論文なし英語苦手なアラサーのおっさんだけど米国CS大学院入学に頑張ったので全てを晒す
東工大→社会人→UCアーバイン修士→UCアーバイン博士と進学したたかみさんの出願ブログ。社会人から奨学金なしで米国大学院へ挑戦した大変貴重なブログ。自分とバックグラウンドが近いのもあり本当に励みになりました。

日本の学部からアメリカのコンピューターサイエンス博士課程に出願する
東大の学部からワシントン大学博士課程に進学したあさいさんの出願ブログ。出願に必要なプロセスが具体的なポイントとともに非常によくまとまっていて参考になります。

あとがき

あとがきとして米国大学院出願において、もう一つ乗り越えなければいけない大きな要素を共有したいです。それは、精神との戦いです。(もちろん人によります)

自分の場合、受験準備中ずっとプレッシャーはありましたし、特に出願期は謎の恐怖感と不安感が事あるごとに付き纏ってきました。アメリカとの時差のため合否連絡は日本時間の深夜にくることが多いのですが、スマホが鳴るたびにびくっと起きてしまいました。結果待ちの期間はいつ連絡が来るか分からないので本当に心臓に悪いです。

いよいよまずいなと思ったのは、
不合格が続いていたある日のこと、深夜にSpotifyからメールがきたのですが、"Spotify"という文字列を"Sorry"と勘違いして心臓がギュっとなりました。(リジェクトの連絡はsorryやregretという決まり文句がつくことが多いので)

また高校時代に経験する大学受験の環境とは異なり、受験をする仲間が近くにいなく、異常な競争率に怯えながら、粛々と準備を続けるのは想像以上にきつかったので、もっと受験最中も発信すればよかったと思いました。受験後にTwitterを見てみてこんなにCS受験者いたのかと驚きました。

ただ今回の受験を通して、この強烈な恐怖感や精神的負荷を乗り越えられた経験や、苦しくても"人は人、自分は自分。なんとかなるしなんとかする。"と自分を信じてここまでこれたこと自体が自分にとっては大きな収穫だったかもしれません。

合格後が本当のスタート

ここまで受験体験記を書いてきましたが、当然のことながらこれからが勝負で、やっとスタートラインです。このフィールドに来てしまった以上、これからもずっと競争的な環境が続くでしょうし、むしろ門戸はさらに狭くなりますし、コロナ禍ではなおさらかもしれません。

それでも世界中から集まる面白い人たちと切磋琢磨し、同時にその人たちと一緒になにかできるかもしれないという刺激的な日々が送れると考えると、とてもわくわくします。

まずはPhDをドロップアウトせずに最後までやり切れるようがんばります。きっとこれから先も前途多難な道のりが待ち構えていると思いますが、"なんとかなるしなんとかする"という精神でポジティブに乗り切っていきたいです。

おわりに

自分用の振り返りメモを見返しながらだらだら書いていたら冗長になってしまいましたが、参考になっていたら嬉しいです。また本当に多くの方々に支えていただいたおかげで合格に辿り着いており今の自分があります。改めてお世話になった方々へ心から感謝を申し上げます。

現在はCOVID-19の影響により、実は私も今年の渡米が怪しくなっており非常に不安な状況ではありますが、事態が収まることを祈りながら今は粛々と準備しています。まだまだ尊敬する先生方・先輩方の足元にも及びませんが、やっと掴んだこのチャンスを無駄にすることなくこれからもがんばりたいです。そして今後もなんとか生き残っていきたいです。

すぐには返信できないかもしれませんが、ご質問などがあればTwitterなどでぜひご連絡ください。ここまで読んでくださりありがとうございました。

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