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VRIO分析の実践

最近、VRIO分析についてまとめています。VRIO分析とは、企業の内部環境についての分析手法です。価値(Value)、希少性(Rarity)、模倣困難性(Imitability)、組織(Organization)からなる4つの視点で経営資源を分析するフレームワークになります。Webで検索しましたが、概念的な説明ばかりで具体的な進め方は見当たりませんでした。
本家バーニー教授の「企業戦略論【上】基本編 競争優位の構築と持続」も確認してみたのですが、アカデミックな内容でこちらはこちらでわかりにくい・・・。(書籍の表紙イメージからして小難しそうです。)

ということで、今回はこのVRIO分析の実践方法をまとめてみます。
なお、最初に前提条件として説明しておきますが、この手の分析手法は基本こそありますが、正解はありません。分析者の目的に応じてアレンジするものだと考えています。今回は、私が考えるVRIO分析の実践方法をまとめています。その点はご了承下さい。
最終的には、下記のリスト形式でまとめるところまでを解説します。

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そして、下記がレジュメになります。少し長くなるので、「1.全体設計」「2.経営資源リスト作成」「3.経営資源評価」の3つのフェーズに分けてまとめていきたいと思います。

~レジュメ~
 1.全体設計

  1-1.目的の明確化
  1-2.レイヤー設計
  1-3.粒度設計
  1-4.構造化の切り口
  1-5.全体設計まとめ
 2.経営資源リスト作成
  2-1.サンプル企業の説明
  2-2.機能単位でリスト化
  2-3.経営資源の抽出
  2-4.経営資源リスト作成まとめ
 3.経営資源評価
  3-1.評価基準の設定
  3-2.内部環境の比較
  3-3.経営資源の評価
  3-4.経営資源評価のまとめ

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~1.全体設計~**

どの分析でもそうですが、分析本編に取り掛かる前に準備が必要です。VRIO分析は非常に手間の掛かる分析手法です。そのため、まずは分析の全体像をまとめる必要があります。この分析前の一手間によって分析量と分析精度が大きく変わります。

1-1.目的の明確化
何のためにVRIO分析を行うのか?この「分析の目的」を明確にすることがスタート地点です。「自社の強み、弱み、コアコンピタンスを把握したい。」「バリューチェーンを評価し、アウトソースを含めた組織の再設計を検討したい。」「事業単位で経営資源を評価し、将来の投資領域を見極めたい。」など、VRIO分析を行うからには何かしらの目的があると思います。どの分析にも言えることですが、分析の目的によって評価する項目も粒度も大きく変わってきます。特にVRIO分析は項目に対する評価まで行う分析手法のため、粒度が細かくなると分析負荷が非常に大きくなります。目的があいまいな状態で細かい分析を始めてしまうと「分析のゴールまで辿り着けない」といった残念な結果に陥る恐れもあります。

1-2.レイヤー設計
分析の目的が明確化したら目的に応じて分析レイヤーを設定します。最終的な分析を企業単位にするか、事業単位にするか、部門単位にするか、このレイヤー設計によって以降の作業が大きく変わってきます。

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企業全体の分析を目的としている場合、抽象度を高め、事業ごとの評価や企業全体に関わる制度の評価が必要になります。対して、事業単位での分析を目的にした場合、抽象度を下げ、更に具体的な部門単位まで分解し、部門を構成する設備や人材など、細かいところまで評価したくなると思います。

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VRIO分析を紹介しているサイトでは企業全体のレイヤーで評価したサンプルをよく目にします。例えば、ユニクロなどの大企業の分析例です。このような分析では企業戦略などをIR情報などから引っ張ってきてVRIOの切り口で評価をしているのだと思います。なぜならば、外部からは企業の細かい経営資源まで把握できませんので。対して自社の分析をする場合は、もっと細かい事業単位で分析したいと考えるでしょう。自社のことはいくらでも調査できますし、細かいところまで分析し、少しでも正確な判断に繋げたいと思考すると思います。
このように分析レイヤーの設定次第で分析の作業量が大幅に変化するため、分析を開始する前に分析の全体感を設計する必要があります。

1-3.粒度設計
例えば、企業単位での分析を目的としていても、大企業と中小企業では状況が全く変わってきます。中小企業であれば設備1つ1つ、人材1人1人まで分解して評価したとしても企業全体まで取りまとめることも可能です。しかし、これを大企業で実施した場合、果てしない旅となるでしょう。
また、分析者のキャパも存在します。分析者の数が限られている場合、分析者のキャパを超えた分析対象となる場合も果てしない旅になってしまいます。

1-4.構造化の切り口
分析レイヤーと分析粒度の目途がたったら、評価項目を構造化(抽出)するための切り口について思考します。VRIO分析は経営資源分析のフレームワークです。内部環境分析なので、下記の切り口が有効です。
・バリューチェーン
・マッキンゼーの7s
・事業単位
・組織単位
この構造化の切り口次第で評価項目が大きく変わりますので、分析精度に大きく影響してきます。(そのためにも事前に、分析の目的、レイヤー、粒度を明確にしておく必要があります。)

この切り口の中でも「バリューチェーン」はVRIO分析との親和性が高いです。企業の価値連鎖を直列に並べ、構成する経営資源を抽出することができるので非常にわかりやすいと思います。また、本家バーニー教授の書籍でもバリューチェーンで解説されています。

1-5.設計フェーズまとめ
当たり前のことですが、分析前に前提条件を設定することは非常に重要です。前提条件を曖昧なままにしておくと、報告の際に背景を知らない経営幹部から想定外の突っ込みが入ったりします。まずは、分析に対する全体設計行い、分析の前提を明確化しておくことをお勧めします。


~2.経営資源リスト作成~

全体設計が完了したら、評価する経営資源を構造化し、リストにします。今回は説明用にサンプル企業を用意しましたので、このサンプル企業を分析していく形で説明していきます。

2-1.サンプル企業の説明
今回は次のバリューチェーンを持つ企業をサンプルと用意しました。

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イメージとしては自動車や電化製品に組み込まれる部品を製造する「部品製造メーカー」になります。中小企業であり、企業全体を分析することを想定しています。そして、業務フローは下記になります。

主活動
①設計部門が顧客と仕様を整合し、仕様に基づいて製品設計を行う
②調達部門が製品設計に基づき材料を調達する
③製造部門が製品設計に基づき製品を製造する
④配送部門が製品を顧客の指定工場まで配送する

支援活動
⑤販売管理部門が市場調査や新規顧客開拓を行う
⑥技術管理部門が新技術開発や生産技術管理を行う
⑦インフラ管理部門が財務管理や人的資源管理等の社内管理を行う

バリューチェーンは企業のビジネスモデルによって各社それぞれの表現になります。中小企業の場合は規模が小さいので構造化しやすいのですが、大企業の場合はビジネスモデルを把握すること自体が大変です。そのため、前回も触れましたが粒度設計は慎重に行う必要があります。

2-2.機能単位でリスト化
次はバリューチェーンをリストにしていきます。まずは、次のようにバリューチェーンをリストにします。

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次に行うのは、バリューチェーンを機能単位に細分化することです。イメージは次の通りです。

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今回のサンプルでは、バリューチェーンを構成する主な機能を切り口に細分化を図りました。実際の企業の場合、機能別組織を採用していた場合は、バリューチェーンにしなくとも、組織単位でリストアップするだけで済んでいしまうかもしれません。この辺りは特にルールはないので、ビジネスモデルに応じて細分化すればよいと理解して下さい。

2-3.経営資源の抽出
経営資源は「ヒト、モノ、カネ、情報」の切り口で抽出することをお勧めします。王道ですが、抽出洩れを回避するアプローチとして非常に有効です。

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本来であれば①~⑦まで全部細分化するのですが、情報量が多くなってしまうので、ここでは①~④までで省略させて頂きます。また、あくまでも仮想的に考えたサンプルになります。通常の組織であればとても多くの経営資源が抽出されることになると思います。

2-4.構造化フェーズまとめ
VRIO分析を実施する際に一番悩むのは経営資源の項目抽出だと思います。私もさまざまサイトで確認しましたが、具体的な項目抽出まで説明しているサイトは発見できませんでした。VRIO分析を進めようとした際に、この辺りで悩む方を多いのではないでしょうか。
VRIO分析は内部環境分析として、経営資源を評価するフレームワークになります。そのため、項目抽出も「ヒト、モノ、カネ、情報」で思考するのが一番しっくりきます。そして、この抽出項目についても粒度設計を行わないと作業量が肥大化します。結局、分析対象を抽象化、具体化する技術が重要になってくると思います。


~3.経営資源評価~**

経営資源を構造化し、リストになったらついに評価フェーズに入ります。

3-1.評価基準の設定
各経営資源について「価値、希少性、模倣性、組織」の評価を実施していくのですが、開始する前に評価基準を明確にする必要があります。バーニー教授が提唱する評価基準は下記の問いになります。

企業内部の強み・弱みを資源惟基づいて分析する際に発すべき4つの問い

1.経済価値に関する問い
その企業の保有する経営資源やケイパビリティは、その企業が外部環境における脅威や機会に適応することを可能にするか。
2.希少性に関する問い
その経営資源を現在コントロールしているのは、ごく少数の競合企業だろうか。
3.模倣困難性に関する問い
その経営資源を保有していない企業は、その経営資源を獲得あるいは開発する際にコスト上の不利に直面するだろうか。
4.組織に関する問い
企業が保有する、価値があり希少で模倣コストの大きい経営資源を活用するために、組織的な方針や手続きが整っているだろうか。

引用:企業戦略論【上】基本編 競争優位の構築と持続

書籍から引用しましたが、この表現に沿って経営資源を評価していくのは非常に分かりづらいと思います。そのため、判断基準をよりわかりやすい表現に変更します。例えば下記の表現ならどうでしょうか?

1.経済価値に関する問い
対象の経営資源は売上向上やコスト削減に貢献している。
2.希少性に関する問い
対象の経営資源は競合企業の多くに普及しているものではない。
3.模倣困難性に関する問い
対象の経営資源は、競合が模倣を試みた場合に大きなコストが必要となる。
4.組織に関する問い
対象の経営資源は、活用するための組織的な方針や手続きが整っている。

表現を変えてみましたが、如何でしょうか。多少は直感的にイメージできるようになったと思います。何の根拠もなく言い換えたわけではなく、バーニー教授の「企業戦略論【上】基本編 競争優位の構築と持続 」で解説されていた表現を使って変換しています。例えば、「1.経済価値に関する問い」については、下記を参照しています。

企業の経営資源やケイパビリティに経済価値があると求められるのは、その企業がそれらを保有していなかった場合と比較して、企業の正味コストが減少するか、企業の売上を増大するか、そのどちらかの場合である。
引用:企業戦略論【上】基本編 競争優位の構築と持続  P253

また、「2.希少性に関する問い」については下記を参照しています。

ある特定の経営資源かケイパビリティを保有する企業の数が、その業界を完全競争の状態にするほどには多くない場合、それらはいまだ希少であると考えることができ、競争優位の源泉となり得る。
引用:企業戦略論【上】基本編 競争優位の構築と持続  P255

このように、評価基準の表現を修正しています。この辺りについても特に正解というものはなく、分析の目的に対して論理的妥当性が高い表現を設定すればよいと考えています。

3-2.内部環境の比較
VRIO分析の評価で一番難しいのは、「競合の内部環境は把握できない」ということだと思います。希少性や模倣性は競合と比較する必要がありますが、そもそも競合の内部環境なんてそうそう分かるものではありません。IR情報なんかで全社的な情報は把握することはできますが、分析粒度が細かくなればなるほど、比較なんてできなくなります。そのため、可能な範囲で評価基準を設定しないと分析そのものが進みません。ある程度の割り切りは必要だと思います。

3-3.経営資源の評価
次は評価になります。評価時のポイントは「価値→希少性→模倣性→組織」の順番で評価していくことです。サンプルとして評価した結果が下記になります。

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「価値→希少性→模倣性→組織」の順で評価していき、組織まで○が付いた経営資源が企業の強みであると判断できます。やっていることはごく当たり前のことですが、経営資源をリストアップし、明確な判断基準で経営資源の評価を可視化するということが非常に価値ある行為だと思います。

3-4.経営資源評価のまとめ
どの分析もそうですが、分析結果をどのように活かすかが重要になります。設計フェーズでも触れましたが、最初に目的を明確にしたうえでVRIO分析を進める必要があります。分析することで満足して終わってしまったら、意味がありません。やはり、経営資源を可視化することで企業戦略の根拠にしていくことが必要です。
また、注意して頂きたいのは、VRIO分析の結果をSWOT分析で使用する場合、必ずしもVRIO分析の強み、弱みがSWOT分析の強み、弱みにマッピングされないということです。SWOT分析の強み、弱みは表裏一体です。ここも、SWOT分析の目的によって変わってくるはずですので注意して下さい。

最後に
長くなりましたが、VRIO分析の実践方法についてまとめてきました。VRIO分析を実践する予定のない方にとっては少し難しい内容になってしまったと思います。ご了承下さい。
そして、VRIO分析を実践しようとしている方にとって、これらの情報が少しでもお役に立てたらうれしく思います。本内容を参考にし、分析目的に沿った評価項目、評価基準で分析を進めて頂ければと思います。
長くなりましたが、最後まで読んで頂き、ありがとうございます。


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