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【経営】キーエンスの秘密⑥生産と即日出荷

キーエンスの秘密第6弾です。

これまでは、営業、開発、企画のお話をしてきましたが、今回は生産についてです。


生産部門について

キーエンスにおける生産部門は先に記した事業部とは異なり、会社全体を支える部門として独立しています。多くの商品ラインナップがあって、開発や営業は独立した事業部制を取っているものの、生産に関してはそのノウハウが共通しているからでしょう。

生産部門は大きく以下のようなグループに分かれます。

生産グループ:言葉のとおり商品を生産担当します。ほとんどを外部に委託します。製造における不良を減らし、製造原価を下げていきます。

品質管理グループ:商品開発時、また発売後の品質を担保します。

購買グループ:開発時や発売後商品における原材料の価格を交渉により下げる動きを取ります。場合によっては、機能が同じ部品なら安いものに置き換えもします。

上記部門は、新商品開発の段階から協力して部材の調達や製造工程の開発に取り組みます。さらに発売後の品質を確保し、コストダウンを図ります。

そして、特にこれらの部門の人たちが絶対に守る指標としているのが、"即日出荷"です。


即日出荷とは

一般的に、これだけ宅配サービスが発展しているので、イメージがつきやすいと思います。BtoB(法人向け)ビジネスですから、かなり昔から配送による納品をしていますが、「当日に注文したらすぐに届く」="即日出荷"を継続しています。

商品ラインナップは多岐にわたりますが、お客さんにとっての製造ラインに使われるセンサや測定器が多いので、製造ラインが止まってしまうと損失につながります。

それなりの会社になると、このような予備部品(=キーエンスの商品)をストックしておきいつ何があっても大丈夫なようにしているところも多いのですが、それでも製造ラインの部品在庫を置くにも限界があります。また、その場所や管理だけでも大きな費用負担になることは想像できます。

ですから、「必要なときに必要なだけ」のニーズを満たすために、即日出荷を提供し続けています。

当日16時(最新では少し繰り上げられているかもしれません)までの注文であれば、その日に出荷し場所により翌日にはお客さんの手元に配送するというものです。

お客さんからすると、急に必要になった製造に必要になったものが、何日も待たされずにすぐに手に入ることは嬉しいことですし、このことによりキーエンス商品を選択する動機につながります。

キーエンスでは長い期間、このルールを徹底して守り続けています。


生産体制(ファブレス)について

キーエンスにおける生産体制はどのようになっているのでしょうか。そもそも、つくる台数(=売れる台数)というのが、そう多いものではありません。

これは例えば自動車とかと比較した相対的なものです。例えば、トヨタ自動車のヒット商品(アクアやプリウスなど)は月あたり10000台を超えることもあるでしょう。この場合、自社で工場を確保し生産ラインを開発する方が効率がよいのだと思います。

一方、キーエンスでは商品の種類にもよりますが、製造台数の桁が変わってきます。そうなると、わざわざ自社工場を建てて、人を雇いお金をかけるよりも、協力会社にすべて委託してフレキシブルに対応した方が得です。

このことを工場を持たない=「ファブレス」と呼んでいます。身近なところでは、Apple社が設計はUSで行い、生産を中国の会社に委託しているのが有名な例です。

生産部門の担当者は、これらの外部委託先を開拓したり、製造におけるポイント(組み立て方法、性能を左右する調整など)を指示し、さらに出荷検査装置を開発します。

こういった重要ポイントをおさえることにより、品質をしっかり確保しながらトータルでの製造加工費を抑える役割があるのです。製造原価率が非常に低いのは、生産部門担当の努力の結晶といえます。


即日出荷を守るために

即日出荷のサービスを維持するということは、とてつもなく大変なことです。このことを継続するために必要なことは以下のとおりです。

①正確な出荷予測を立てる

各事業部の各商品別の販売促進担当から出荷予測を確認します。ただ、あくまで予測なのでそれを上回ることもありえます。多く作っておけばよいのかといえば、そうでもありません。

確かに腐るものではありませんが、出荷センターの場所を取りますし内部に書き込まれるソフトウェアが最新でないなど、管理にも手間が発生します。

②必要な部品を調達する

電子部品だけでなく、外部業者に加工を依頼しているものもあります。品質をしっかり確保しながら、必要な数を必要なタイミングで仕入れることが重要です。

また、2011年ころに発生したタイの大洪水のように、仕入れ元の部品製造工場が被害にあい、部品を入手できないこともあります。この場合は、すでに製造済みの部品を世界中の商社から買い取ることもあります。(もちろん高値になります。) そこまでして即日出荷にこだわります


出荷が締日に集中する

キーエンスにおける毎月の締日は20日(最近は1日ずらす動きもあります)です。そして年度末は3月20日です。

営業担当は毎月や半期などの目標に向かって動いていますが、どうしても注文がこの締日に集中します。

1年間の売上が5000億円、かどうびが250日として計算すると毎日20億円分の出荷をすることになります。前述のとおり、これが締日に集中しますので、3月20日はとんでもないことになるのです。

このため、生産部門の人たちは、締日、特に年度末の締日に備えて様々な調整に大忙しになります。


購買部門における交渉

キーエンスにとってたくさんの商品を製造するためには、たくさんの原材料を仕入れる必要があります。ひとつひとつの部品は、数100円や中には1円以下の部品もあります。

ところが、これらは積もり積もると大きな金額になるのです。商品の性能や仕様を満たすのであれば、部品を置き換えることもします。

基本的には開発担当が設計時に決めた部品を採用するのですが、中にはそこまで重要でない(必要だけれどもこだわらない)部品も存在します。

また、何かを選択するときは選択肢を2つ以上にして、価格交渉にあたります。性能が同じで安いものは安い方を必ず採用します。

営業担当が素晴らしいからとか、お土産をくれるとか、北新地で飲み屋に連れて行ってくれるとか、そのような判断基準で決めることは決してありません。

キーエンスでは接待することも受けることも禁止とされているので、この話が有名になり、もうお誘いを受けることすらなくなってしまったくらいです。


次回は社内風土について書こうと思います。


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