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尾道空き家再生プロジェクトの活動に学ぶ 2

 私が事務局を務める特定非営利活動法人かみじま町空き家よくし隊は11月25日から26日にかけて、本年度2回目の移住体験ツアーを実施し、あわせて25日に上島町弓削地域交流センター大ホールにおいて2回目の空き家再生を学ぶセミナーを開催しました。
 2回目の講師は、NPO法人尾道空き家再生プロジェクト専務理事の新田悟朗氏が務めてくださいました。テーマは「NPOによる建築再生の手法 ~市民の手による建築イノベーション」。前回に講師を務めていただいた同NPO理事で一級建築士の渡邉義孝先生にも参加していただき、今回のセミナー後半では、新田氏との対談も行ってくださいました。
 この記事では、この2回目の講演会の内容の要旨を私なりにまとめてご紹介させていただきます。渡邉先生との対談で出た内容も、各トピックス内に盛り込んでいます。

自己紹介、空きPと尾道の紹介
 私(講師の新田氏)は向島の出身で、高校から尾道の学校に通っていました。NPO法人尾道空き家再生プロジェクト(以下、空きP)の発足時からボランティアとして関わってきました。学生ボランティアを経て、そのまま専属の職員として勤務しています。
 空きPは、尾道の旧市街地、特に斜面地を活動エリアとしています。旧和泉家別邸、通称「ガウディハウス」を、代表の豊田が購入して再生を始めたことが、空きPの活動が始まるきっかけとなっています。ガウディハウスは洋館の付いた住宅なのですが、尾道の旧市街地には、このような洋館がたくさんあります。これらの洋館は、昭和初期に日本人大工がその高い技術で木造建築としてつくったために、「擬洋館」とも呼ばれます。
 このエリアは戦火に遭っておらず、中世から江戸時代にかけての古い町割りが残っています。そのため、区画整備のなされていない、昔からそのままの地域が多く、そのような地域には、車が通れない路地でしかアクセスできない建物が多くあります。また斜面地の路地には、階段があり、階段ではなくても原付でようやく通れるほどの幅しかないということが多いです。空き家の実態調査をしたところ、駅から2キロ圏内に約500軒の空き家があるという結果が出ました。車で直接アクセスできない斜面地の住居の利活用では、ゴミ出し、建て直しなどで困難が伴います。
 空きPの活動は、お金をかけずに実施できるイベントを開催することから始まりました。例えば、中でサンマを焼いて食べながら、空き家の利活用方法について話し合う「空き家談義」といったイベントです。初期から続いているイベントには他に、美術作品の展示や、アートインレジデンス/アーティストインレジデンス(AIR)があります。

北村洋品店と三軒家アパートメント
 空きPが再生した物件のひとつに、昭和30年代に建てられた旧・北村洋品店があります。これはガウディハウスのように建築的な価値のある物件ではないのですが、建築的な価値の有無にかかわらず、私たちは尾道の建物を再生してきました。
 再生の過程では、なるべくお金をかけないよう、自分たちでできることは自分たちで行います。再生に多くの人が参加できるよう、ワークショップ形式で行うことも多いのですが、この物件だけで15回のワークショップを行いました。基礎の構造、屋根、水廻りの改修については、重要な箇所であるため専門家に依頼しますが、その他の箇所については自分たちで手を入れていきます。この物件では、作家に絵を描いていただいたり、照明を製作していただいたりしました。この物件は、空きPの事務所として使用していて、空き家相談会の会場となっています。
 同じく空きPによる再生物件である三軒家アパートメントは、シェア店舗として活用しています。借りた人が自由にDIYしていい物件としています。そして、退去時の原状回復の義務はありません。北村洋品店のすぐ近くにあるため、移住相談に来た人が、三軒家アパートメントに入居する店主と話をして、その暮らしの現状を聞く、ということも起こっているようです。

空き家バンクについて
 空きPは、尾道市から空き家バンク運営事業の委託を受けています。私たちの空き家バンク事業が活動範囲としている尾道の旧市街地の斜面地には、物件を手放したい人が、おそらく他の地域と比べて多くいると感じています。これは、戦後に区画整理のあった地域から、2~3世代前の比較的最近になって移ってきた世帯が多いためであると考えています。
 なぜこの地域で空き家バンクが必要になるのかと言いますと、この地域の空き家には不動産としての資産価値が低く、建物の前まで車が入らないために管理が難しいので、不動産業者が扱いたがらないためです。
 私たちの空き家バンク事業の特徴は、物件の情報を得るためにはまず、実際に尾道まで来て相談会に参加しなければならないという点です。すべては、リアルに尾道に来て、私たちと話をしてから、と考えています。相談会ではまず、斜面地の物件には、下水処理で汲み取り式の建物が多く、また山に近いためムカデなども出るといったデメリットを率直にお伝えしています。相談会への参加人数は毎月平均10人ほどで、そのうち1人が成約するかどうかです。1年間の成約件数は約10件です。年代別では、30代と40代が約30%ずつと多くなっています。建物の使用目的は、60~70%が住居用で、他は事業用(店舗建物)となっています。移住者のために、市からの委託業務に含まれていない、空きP独自のサポートメニューも用意しており、相談会では、これらのメニューについても説明します。尾道の旧市街地で、おもしろい活動をしている人たちが多く活躍しているのを見て、おもしろい人たちが移住してくるという、いいサイクルが生まれていると感じています。
 この空き家バンク事業は、市からの委託事業として運営していますが、ゲストハウス事業が順調で、収入に占める比率が高いため、この委託費が収入全体に占める比率は数%のみにとどまっています。そのため、行政の委託費用にNPOの事業費を依存せずに済んでおり、空きPの独立性が保たれています。

空き家再生合宿について
 「空き家再生合宿」は、6泊7日で空き家の再生をワークショップ形式で行う合宿イベントです。これまでに5~6回、開催してきました。参加者は3万~4.8万円の参加費をNPOに支払います。この参加費からNPOが、参加者の宿泊費や食費、講師のレクチャー費用を賄っています。各回15~20人が参加しています。最近では、2~3割の参加者はリピーターです。この合宿の参加者から3~4人が、NPOのスタッフとなっています。この合宿事業には、企画当初は想定していなかったことなのですが、「仲間ができる」という効果がありました。参加者募集のチラシは、建築関係の学科やコースのある大学200校に送付しました。
 参加者を飽きさせない、参加者を遊ばせない、作業時に参加者の安全を確保する、参加者に達成感を感じてもらう、といったことが、運営上で感じた難しさです。ワークショップでやらない方が、安くて早くできる工程もあります。
 空きPの再生物件のひとつである「みはらし亭」で実施した25人の参加者のあった合宿では、参加者を5人ずつのグループに分け、5つの現場で作業を行いました。建物の再生とは直接関係はありませんが、庭にピザ窯をつくって、ピザを焼いて食べました。日程のなかに、ほっと一息つき、また交流の機会となるこのような「見せ場」をつくることも大切なことです。

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