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自分を重ねる―『アムリタ』/吉本ばなな

吉本ばななさんの本が好きです。『アムリタ』は6回くらい読み返しました。
もう一度読んでみて、私は主人公の朔美がとても好きなんだということに気づきました。

朔美は頭を打って記憶を無くしてしまうのですが、その出来事さえも含め、現実をそのまま受け止めている様子で書かれています。動揺、悲しみ、苦しみ…をあえて細かく描写しない、ばななさんの書き方が好き。

今の自分が好きなのだ、いつも。

『アムリタ 上』より

記憶を無くしているからなのか、もともとの気質なのか、あらゆる物事に先入観を持たず、心を開いて人とつながろうとする朔美。
私は偏見、自分の考えへのこだわりにとらわれているし、人に対して身構えます。朔美のような心が持てたらいいのにな…と読むたびに思っていました。

「運命の成り行きで、君はつぎつぎ新しいものを中に入れていくけど、その変化するいれものにすぎない君という人間の底の底のほうに、なんだか『朔美』っていう感じのものがあって、たぶんそれが魂っていうものだと思うんだけど、それだけがなぜか変わらなくて、いつもそこにあって、すべてを受け入れたり、楽しもうとしている。」

『アムリタ 下』より
朔美の恋人、竜一郎のセリフ

朔美の生き方は、魂がそうさせているのかな。
それなら私の魂が導き出している生き方ってどんなだろう?

***

朔美と自分が重なる部分もありまして。

朔美の妹の真由は、若くして自ら命を絶ってしまいます。

笑っている本人の内側で心だけが、貧しくなる。どんどん虫食いに侵されていってしまう。

姉妹の、家族の時間を失いたくない。

『アムリタ 上』より

私の妹も生きづらさを抱えていて、何年も苦しんでいます。「死にたい」と言われて何もできないのが辛いです。
いまは実家から離れてひとり暮らしをしているのですが、なんとか少しでも力になれないかと思い、時々泊まりがけで様子を見に行っています。

妹の家族に対する不満、攻撃。何年も続いていて、正直私も心折れそうになっていたけど…どうしても関わるのを辞められなかった。姉としての義務感ではなく、たった一人の妹が本当に好きだから。

作中で、朔美の弟の由男は突然に特殊な能力に目覚めてしまい、日常生活とのアンバランスに苦しむことになります。朔美はそこでも偏見を抱かず、「何とかしてやりたい、真由は止められなかったから」と思い行動します。
彼女自身も記憶を無くして大変なのに…そこまで彼女を突き動かすエネルギー、つまり家族への愛。

妹にきつく当たられても、私も愛情を持っているから、関わろうとし続けるんだと気づきました。
私がやりたいからやってるんだ、それで良いんだ。

いとおしいものの寝顔はみんな同じに見える。とおくて、さみしい感じがする。

『アムリタ 上』より

私も、妹に対して思う。もうこの瞬間は戻ってこないと切なくなる。

***

夢で亡くなった人がなにかを伝えてきたりとか、ほかの人と夢が交差したりとか、人との出会いが運命の方向性を変えたりとか。
「本当にあったら良いな」と思うことを、ばななさんは小説で書いてくれている。
癒しと勇気を与えてくれる、私にとって大切な存在です。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!


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