エッセイ4./そうやって誰にでもやさしいんでしょ?味
とくにネガティブが蔓延している東京ですが、その郊外で自粛しております。
自粛ということで、自炊をする頻度が増したのですが、常日頃から家での食事の担当は僕のため、とくに負担なくやっています。ニートしてるし、それくらいはやらないと自責の念で死んでしまいそうです。
べつにたいしたものはつくれないのですが、一応調理師学校と製菓学校を出ているので、やろうと思えばそこそこのものはつくれます。
だからこそなのですが、レストランに行って食事をすると、あたらめてプロはすごいなあ、と思わされる。
もちろん自炊と比較してどうこうと言うのはおかしいのですが。食材がちがうし、技術がちがうし、ハコや雰囲気もちがうし。
僕がおいしいと思うレストランは、塩がきちんと決まっているレストランです。どこで食べても塩は決まっているんですが、これがドストライクで決まっているお店、好きです。
フレンチが好きなのですが、フレンチって一皿に対しての構成が複雑じゃないですか。まず主となる食材(魚や肉)があって、それに合わせたソースがあって、脇にいろいろ添えてあって。
ひとつの食材に対して塩を決めるのだってむずかしいのに(さらっとやっているようでまじでむずかしい)、そこにソースがあり、つけあわせがあるわけです。
とくにソース!!
ソースの種類によって、酸味や苦み、スパイスなど、それぞれ特色がわかれるわけですが、そのどれもにきちんとバランスよく塩をのせるのって、並大抵の感覚ではできないわけです。
そして、それを塩をした魚や肉、野菜などといっしょに食べて、
しょっぱ......
とおもわせることなく、心地よく仕上げないといけないんだから恐れ入ります。
で、なにが言いたいのかというと、自炊になると、いまいち塩がはっきりしない料理ができあがるんですね。なんていうか、べつにわるくはないんだけれど、決定打に欠けるというか。
やさしい味、いや、そんなあまいものじゃなくて、
「そうやって誰にでもやさしいんでしょ?」味、みたいな。
「ああ、ごめんね、僕がわるかったよ......」
なんて言いながら、そこに塩を足してみるんです。そしたらただしょっぱくなるだけで。やさしい、以外の術を知らないから、いたずらに関係が乱れるんですね。
そしてあとから、
これは塩じゃなくて味そのもの(甘味や酸味)がひとつ足りなかったのか......とかなしくなり、そのときにはもう彼女は......
みたいな一皿が完成しているんですね。なんの話かというと、料理の話なんですけど。
だから世間のひとたちは、これを機会に自炊をしてみて、このコロナが収まったときには、ぜひともレストランに行ってみてください。そして料理の味、とくに塩の効き方なんかに注目してみてください。まじですごい。そして連れに、
「ここの料理は、塩が決まってるね」
などと言ってみてください。まちがいなく嫌われます。
ミチムラチヒロ
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