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ある日、くぅちゃんおじさんは町の本屋さんにいきました。

くぅちゃんおじさんは本屋さんにつくなり目をかっぴらいて、たなにならんでる本をはじから検査しはじめました。
「これは読みたい、これは読みたくない・・・」
くぅちゃんおじさんがそうぶつぶつつぶやきながら、本屋さんの中をいどうしていると、とつぜん、くぅちゃんおじさんの足になにかがぶつかりました。並んでいた本だけを見ていたくぅちゃんおじさんは、はじめて本から目をはなして、足もとをかくにんしました。くぅちゃんおじさんの足もとには、ゆかにひざをたてて、平積みされた本をまくらにするようにほっぺたをつけた小さな男の子がいたのでした。三才くらいの男の子でしょうか。くぅちゃんおじさんの方からは、おもちゃみたいに小さなくつの底と、まるまったせなかと、さらさらしたかみの毛が見えています。

はじめ、くぅちゃんおじさんは男の子がねむっているのだと思いました。たなにたいらにつまれた本の上にかおをよこにしてのせて、くぅちゃんおじさんがぶつくさ言いながら近づいてきても、少しもうごかず、ずっとそこにいたようだからです。くぅちゃんおじさんは本の検査をやめて、男の子の前へそろそろとまわりこみました。男の子はおきていました。じぶんのかおよりもずっと大きい絵本をひらいて、そのひだりのページにかおをのせて、まあるい目をくりくり動かしながらひらかれたみぎのページをよんでいたのでした 。

男の子は夢中になって絵本を読んでいました。みぎのページが終わったら、ページをめくってこんどはみぎのページに頭をつけて、ひだりのページを読むのです。

くぅちゃんおじさんは男の子のすぐちかくに立って、そのようすをみつめていました。 それから、あるいたずらを思いつきました。男の子に声をかけて絵本を読んでるのをじゃましようとかんがえたのです。

くぅちゃんおじさんは、
「おーい」
と男の子に声をかけました。男の子は見向きもしません。くぅちゃんおじさんは、もっと男の子に近づいて、
「おーい」
と声をかけました。男の子はぴくりともしません。くぅちゃんおじさんはもっともっと男の子に近づいて、思いきって男の子のとなりにしゃがみこんで、
「おーい」
と声をかけました。すると、ぱっと男の子がおき上がって、くぅちゃんおじさんを見ました。男の子はくぅちゃんおじさんのかおをしげしげとながめると、
「魔法つかいさんですか?」
といいました。
くぅちゃんおじさんはおろおろしました。男の子がびっくりしてにげだすはずだとくぅちゃんおじさんはよそうしていたからです。おどろかそうとしていたのが、ぎゃくにおどろかされてしまいました。

くぅちゃんおじさんはにげるように男の子からはなれました。少したってから、もう一 度、男の子のようすを見にくると、男の子はさっきとかわらず、ひだりのページにほっぺたをつけて、みぎのページを見つめていました。あんなに夢中になるなんて、よっぽどおもしろい絵本なんだなあ、とくぅちゃんおじさんは思いました。くぅちゃんおじさんは、絵本とくっついている男の子をずっと見ているうちに、男の子が読んでいる絵本をじぶんも読んでみたくなりました。
ちょうどそのとき、
「ひかる、かえるよー」
とおかあさんが男の子に声をかけました。男の子はようやく絵本からはなれると、おかあさんと手をつないで、口をもぐもぐ動かしながら、ぴょんぴょんはねて本屋さんから出ていきました。

くぅちゃんおじさんは男の子が見えなくなったのをかくにんすると、絵本コーナーに行って男の子が読んでいた絵本を読んでみようとしました。その絵本を見つけたとき、くぅちゃんおじさんはびっくりしました。その本は表紙が真っ白で、ページをめくっても、はじめからさいごまでなにもかも真っ白で絵もことばもなにも書かれていなかったからです。くぅちゃんおじさんは男の子が絵もことばもちゃんと書いてある絵本を読んでいるのをたしかに見ていたのですから、ふしぎでしかたがありません。くぅちゃんおじさんははっとして、男の子がかえるときに、幸せそうな顔で口をもぐもぐ動かしていたのを思い出しました。

ひょっとしたら、あの子が絵本のなかみをぜんぶ食べちゃったのかも、とくぅちゃんおじさんは思いました。

くぅちゃんおじさんはたなに並んでいたいくつかの絵本を手に取りました。でも、どうやって食べたらいいか見当もつきませんでした。

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