見出し画像

落研の賞レースにいた奇抜な人たち

運動部はもちろん、大抵どんな文化部でも技術を競い合う全国大会たるものが存在する。僕が学生時代に所属していた落語研究部(落研)も言わずもがな。年に数回全国のどこかで大会が開催されており、落研に所属する学生たちはそれに向けて切磋琢磨しているのである。

百人以上の参加者の中から翌日の本戦に選ばれるのは8名ほど。なかなかの倍率である。何とかして本戦に上がるため、少しでも印象に残ろうと各々が落語に工夫を凝らしたりするのだが、誰にも思いつかないような突拍子もない飛び道具を使ってくるプレイヤーたちもいる。それは時として核爆弾のような笑いを生むこともあるが、ただのキワモノで終わってしまう場合もある、というか後者の方が多い。というわけで、僕の知っている範囲で大会においてぶっ飛んだ落語をやっていた人たちを挙げていくよ。

〇マスク落語

実際に生で拝見したわけではないのだが、僕が入学する前の年に大学の先輩がマスクをつけて落語をやっていたのがテレビ番組のVTRに残っていたため、記憶に焼き付いている。マスクってのは今流行りの衛生的なやつじゃなくてプロレスラーが被るようなやつ。こんなことするような参加者は他にはいないため、間違いなく印象には残るが、それはどちらかというと「あ、ヤバいやつだ・・・」、という悪い印象である。落語の内容は不明だが、普通に落語をやろうが、マスクに寄せた落語をやろうがキワモノ的要素が大きいため本選進出は苦しいだろう。

ちなみに僕が入学した年にその「マスク落語」を披露した先輩は留年して5年生で、家にも何回か出入りさせていただいたりしたが、悪ふざけでち〇こを出したり後輩に小便をかけたりと私生活も狂っていた。ただボンバーマンとモンハンは上手かった。

〇乳首回転「つる」

どこの大学の誰かは忘れてしまったが、表情筋が死んでいる、見るからにヤバいオーラを漂わせていた人がやっていた落語。

まず着物の下に自らの乳首をつまんだ洗濯バサミを忍ばせて登場。演じ始めたのは「つる」という落語。故桂歌丸師匠が得意とした古典落語の代表作だ。主人公の男が物知りの隠居さんの住んでいる家に訪ねてくるところから物語は始まるのだが、なぜかこの男の乳首が回転している・・・洗濯バサミはその乳首の回転を表現するための飛び道具というわけだ。もう既にぶっ飛んでいる。そこから中盤~終盤は若干ヘンテコなギャグを挟みつつそれなりに進行して、最後は「頭が回転しないよ、乳首は回転しているのに」みたいなオチで終了した。

そのぶっ飛んだ発想は面白いものの、「つる」という落語でそれをやる必要があるか分からないし、その人の持つ雰囲気も相まって「面白い」より「怖い」が勝ってしまっていた印象を受けた。

〇見台返し

落語のカテゴライズの方法には色々あるものの、ざっくり東京を中心に演じられる「江戸落語」、そして大阪を中心とした関西圏で演じられる「上方落語」の二種類に分類することができる。使用される言葉を始め、江戸落語と上方落語には多くの違いがあるわけだが、特にそれを特徴づけるのが、小道具である見台、膝隠しの有無だ。(以下動画参照)

上方落語は元々屋外で演じられていたというルーツもあり、演目によってこれらの小道具を用いることが許されている。小拍子と呼ばれる拍子木で見台を叩くことにより、音を出して場面転換を分かりやすくしたり、各種演出に用いるといった使用がされるのだが、これら小道具の常識を覆した方がいた。

本来演者の膝を隠すためだけの道具である、膝隠し。これを落語の最中突然持ち上げて「大きい算盤」として使用。更に物語終盤ではパニックに陥った人物があろうことか目の前にある机、つまり見台をひっくり返す。プロの噺家がやったら師匠に引っぱたかれる所業、学生のみに許された特権である。これを行ったプレイヤーは嵐のような爆笑を巻き起こし、見事本戦進出。

この「見台返し」が前述した「マスク落語」や「乳首回転つる」と異なるのは、ぶっ飛んでいながらもストーリーに沿って飛び道具を用いたことだ。大きい算盤も、机をひっくり返すという行為も、江戸時代が舞台である落語において、あり得る範囲のこと。つまり物語の整合性を崩していない。ここに凄みがあると思うし、評価された要因の一つでもないだろうか。大変尊敬すべき偉業である。

おわりに

大会において頭一つ抜けるためには審査員の印象に残るのはもちろん大事だが、それに囚われすぎて空回りするのが一番ダメだ。普段やってないことをやってしまえば、力んでるのがバレる。自分が日頃やっているパフォーマンス、それを少し大会に寄せてやる。それが理想の形なのかなぁと思う。

まぁた偉そうになっちまったね、すんまへん。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?