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SFプロトタイピング:住生活×コミュニティーの未来

このnoteではSFプロトタイピングという、「目をあけたまま夢を見るためのツール」(SFプロトタイピング概論:樋口恭介より引用)を活用して、未来×インダストリー/テクノロジー/カルチャーという切り口で未来を予測していきます。

はじめに:そもそもSFプロトタイピングとはなにか

 このnoteを読む方の多くは、そもそもSFプロトタイピングとは?という状況ではないでしょうか。そこで代表的なSFプロトタイピングの解釈を紹介します。
 ADKクリエイティブ・ワン SCHEMA クリエイティブ・テクノロジスト小塚仁篤氏によれば、「SFプロトタイピングとは「SFを通じた未来予測を行い、未来に向けたビジョンを探究する手法」である。急激に進化する科学技術が未来に及ぼす未知の影響、予期せぬ結末、全く新しい可能性などを考察する目的で作られたメソッドであり、特定分野における未来予測シナリオからインスピレーションを得て現在に活(い)かすことを得意としている。このプロセスを通じて企業やブランドは、いま何をすべきかの戦略、どんな未来を目指すべきかのビジョン策定などへのヒントを得ることができる。」とされており、簡単にいえばSFを活用した未来予測ツールです。

こんな人に読んで欲しい

 今回はそんなツールを用いて、住生活×コミュニティーという切り口でSFプロトタイピングを実施しました。SF小説といっても現実の科学技術や製品やサービス・文化・問題などの先端事例をベースに書いているため、当該テーマにおけるトレンドや、事例を理解することが可能です。テーマ自体はもちろん、先端事例やスタートアップ・ニューコンセプトに関して関心のある方にも是非読んでいただきたく思っております。
 文末のあとがきには、根拠となる事例と解説や、現在地点で実装可能なアイディアを記載しますので、合わせて読んでいただけると幸いです。

SFプロトタイピング:フンコロガシと貴族

 20XX年、フンコロガシと呼ばれる人々と、貴族と呼ばれる人々に、生活圏が分断されている。突如として発生したウィルスの影響で、法人の脱オフィス化が進み、人々は独自のコミュニティーでオフィスの代わりとなる仕事場や、リアルな繋がりを得るための遊び場を借り、2拠点・3拠点で生活することが一般化した。その結果、所属するコミュニティーによって個人の信用スコアが変動し、今ではどのコミュニティーに属しているかが生活圏を決定づけるほどになった。とはいっても、低ランクのコミュニティーに属しているからといってボロボロの家に住むことを強いられるわけではない。3Dプリンターで出力された家は、近未来的なデザインである。しかし、問題はその材質で、原理はわからないが、人や動物の糞、すなわちうんこが材料に含まれているのだ。
 一方、貴族と呼ばれる人々はコンクリートや木材を使って立てられた家に住み、銭湯から地下のパイプを通じて送られてくる冷暖水によって一年を通して快適な生活を約束されている。両者の住む場所は、ロケーションインテリジェンスネットワークと呼ばれる、犯罪・快適指数・雇用や医療ネットワークなどを数値化して比較できるサービスを見れば、大きく違う。格差はひと昔前よりもより一層、目に見える形となっている。
 また、見える化されているのは住む場所ではなく、所属しているコミュニティーもだ。ひと昔前は、就職人気ランキングといったものがあったようだが、今やそれがコミュニティー人気ランキングだ。
 そのランキングに記載もされていないようなコミュニティーに属しているAという青年がいた。Aは自分たちがフンコロガシと呼ばれていることを知らない。コミュニティー間の分断によってメディアやSNS・関係する人間も分断され、情報が届いてこないからである。しかしある日、蝋で封をされた手紙を拾い、クラブハウスとよばれるランキング上位の会員性のコミュニティーへの参加することになった。
 そこでの生活はまるで桃源郷のようであった。最新式の住居では、活動量がモニタリングされ、お腹がすくころに自動でフードデリバリーが食品専用ポストに商品が投函され、食後は専用のダストボックスに入れることで、住居内農場の野菜たちの肥料となった。またコミュニティー内では外では知りえない情報や、活動が行われ、その情報通りに投資するだけでお金も稼げる。
 Aは思った、これまでの生活はなんだったんだろうと。そこで、自分がもともと属していたコミュニティーについて調べると、自分が過去にフンコロガシと呼ばれていたことがわかった。そのことが急激に恥ずかしくなり、コミュニティー内の友人とも疎遠になっていく。
 すると、その様子を心配に思ったのか、Bが様子を訪ねてきた。Bにそのことを話すと、彼は笑って言う。
「もう君はうんこの家に住んでいない、つまりフンコロガシじゃないんだろ?だから気にしなくていい。今までどおりの生活を続けてくれよ」と。そしてBが何かをぼそっといったようだったが、酔っていたせいか思い出せない。
 「報告します。Aに見られた拒否反応は、自分がもともとフンコロガシと呼ばれていたことを不安に感じてのことでした。Aにはメンタルケアを施し、行動を修正しました。これで必要な生体データが引き続きとれるかと思います。」
「そうかB、ありがとう。だがAという男はなにか勘違いしているようだな。我々がフンコロガシと呼んでいる理由は、こうして我々の手のひらを転がり、人間から生まれる行動データを生む実験体となっているからだというのに。」
「そうですね。しかしデータとは面白いものですね、単一では糞のようなものなのに集まれば金となりうるんですから。」

あとがき:作中の先端技術/事例/問題紹介と解説

いかでしたでしょうか。20XX年におこりうる未来を想像していただければ幸いです。さて、作中にはさまざまな技術や概念がでてきましたが、ここからはそれらの解説をしていきます。

先端事例一覧
1.コミュニティー間の分断
2.3Dプリンターで出力された建築物
3.スマートハウス
4.地域エネルギー拠点

1.コミュニティー間の分断

ここで登場するフンコロガシと呼ばれる人々は、自らがそう呼ばれていることに気づいていませんでした。これはフィルターバブルによる情報収集に関する問題をモチーフにしています。フィルターバブルとは、「推薦システム発達にともない、利用者自身の好みに合う情報を高い精度で取得できるようになる一方で、自身の好みに合わない情報や興味のない情報に触れる機会が低下している現象」(フィルターバブルを気づかせるシステムの提案より引用)で、この流れが技術の発展とともに進めば近い将来には、本当にこのようなことは起こりうるのではないでしょうか。またフィルターバブルは情報が単に偏るだけではなく、社会的リアリティの共有の困難やイデオロギーの極性化、創造性の低下などの問題にも繋がる問題です。

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こういった問題に対して日本のスタートアップ企業であるSmartNews社は、簡単に異なる意見を持つメディアを見ることができるような機能を提供しています。(アメリカ版のみ)また同社は、スマートニュース メディア研究所を設立しこの問題に正面から立ち向かう活動も実施しているようです。

2.3Dプリンターで出力された建築物

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3Dプリンターで作られた家が、本作品の中では低所得者の住居となっていますが、これには理由があります。その理由としては、建築コストの安さです。一軒当たり約60万円で建設することが可能であり、3Dプリンターで家を建設することを事業としているスタートアップ企業ICONのプロジェクトに、ホームレスのための住居建設プロジェクトも存在します。またこの企業は、5100万ドルの資金調達に成功しており、3Dプリンターを使った住居が一般的になる日も近いかもしれません。
一方で、日本における3Dプリンターによる建築は、耐震基準の問題もありなかなか進まないことも現状としてありますが、この技術のおもしろいところは、単に低コストで建築することができることではなく、従来の工法では実現できないような設計が可能になる点です。日本での活用事例はこういったところから出てくるのが筋が良いかもしれませんね。

3.スマートハウス

作中ででてくる貴族が住む住宅の参考としたのが、「Futurology The new home in 2050」というレポートです。ここでは、作中で説明した住居内菜園の概念やフードデリバリーをスムーズに受け取れる住居設計などの未来の住宅に関する予測がいくつもでてきました。とはいえ、レポートで描かれた未来の住環境は、一定想像の範疇を超えなかったともいう印象も受けます。

本作品ではとりあげませんでしたが、会田誠さんというアーティストが発表した、霞が関の国会議事堂などの上に“人工土地”を作り、公用語は英語のみ、入るにはビザが必要という現代の“出島”を作るというコンセプトの、NEO出島という作品くらいのインパクトある未来も未来としては提案されています。

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4.地域エネルギー拠点

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 冷暖水がパイプラインを通じ、住居に供給されることで空調を管理する仕組みは前述したスマートハウスのレポートにも記載されているものであり、近い将来地域のエネルギー拠点から各住宅にエネルギーが供給される未来が訪れることになるでしょう。一方でそのエネルギー拠点がどのようなものになるかは、まだまだ未知数であり、小説の中では銭湯をエネルギー拠点として使用する未来を提案しています。
 銭湯という場所は、現状ではエネルギー拠点とはなっていませんが、コミュニティーの拠点となる動きはあります。例えば、高円寺にある小杉湯には小杉湯となりというコミュニティースペースがあり、黄金湯にはビールカウンターとDJブースが併設されています。最先端の技術を活用していくアプローチではなく、日本の古くからある銭湯という文化をひとつの軸として地域の都市開発を考えてみることもおもしろいのではないでしょうか。

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現時点で実現可能なアイディア

アイディア:セカンドハウス
コンセプト:宿泊施設を複数人でシェアする形で仕事場や遊び場として活用する

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 基本設定の中に、住宅をコミュニティーで共同所有し、仕事場や遊び場として活用するというアイディアをいれました。これを現実的に実現させようと考えると、家賃や光熱費、家具や保、契約の手続きなど検討するべきハードルがいくつも存在し、賃貸や購入住宅でこれを実現することはほぼ不可能です。
 しかしながら、民泊施設やホテルを使った複数人でのシェアであればどうでしょうか。これらは、宿泊施設であるという特性から、暮すための家具は揃っていますし、契約の自由度も高く、光熱費を支払う必要もないので、極めて複数人で仕事場や遊び場として利用することに向いています。
 民泊や宿泊施設を運営している方がいらっしゃれば、複数人で仕事場や遊び場として利用するというコンセプトを宿泊者に対して提案してみてはいかがでしょうか。このコンセプトであればコロナウイルスの影響で、テレワーク需要や繋がりの不足という課題と、宿泊施設の需要低下という問題の双方が解決できると考えています。
 もしも、このコンセプトについてディスカッションしたいという方がいらっしゃれば是非TwitterのDMでご連絡ください。普段の仕事として、先端事例のリサーチや企画とコンセプトの提案をしていますので力になれるかと思います。

さいごに

ここまで読んでいただきありがとうございました。住×コミュニティーの未来はいかがでしたでしょうか。このnoteが皆さんの発想や実装の力になれば幸いです。今後もSFプロトタイピングや先端事例の紹介・解説を行っていきますので、是非Twitterとnoteのフォローの方宜しくお願い致します。

ただの多田くん。


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