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初めてプロ野球観戦をした日の話

18時1分に席を立った。

「お疲れ様です、お先に失礼します」

慌ててロッカー室に向かうも時すでに遅し、中は帰宅を急ぐ人で賑わっていた。わたしのロッカーは入り口から1番奥、下から2番目、人が出ないと開けられない。

今日は生まれてはじめて、野球観戦をする日だった。

9階の事務所から地下1階まで階段を駆け下りた。エレベーターに乗れる気配がなかった。

野球を一緒に見にいくのは入りたての会社の先輩方。私含め5人中3人がファイターズファンで、グッズを持ちファンクラブにも入っている強者だった。

地下のローソンで待ち合わせをして地下鉄に向かう。車両の中、彼女たちの目線は手元の中継まっしぐらであった。私は呑気に、野球を知らないもう1人の先輩と、今日戦う球団の名前の正式名称を当て合った。

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ドームのマウンドを生で見るのははじめてだったが、人工芝なのか、緑のくっきりとした青さに感動した。

コロナ渦のため観戦の人数は少なく、声援は禁止だった。それでも、地元の応援団の太鼓と笛の音に合わせて、人々は手を叩き、鳴り物を鳴らし、タオルを揺らしていた。

観戦慣れした3人は、ユニフォームやタオルや帽子や鳴り物を取り出し応援の準備を始めた。私もユニフォームと鳴り物を借りた。

私たちが座ったのは外野席、レフトの後方の席だった。選手たちは遠かったが、会場の入りが少なく、声を出す人もいないから、ベンチからの応援の声がよく聞こえたし、マットにボールが収まる音も、バットが球をミートする音もはっきりと聞こえた。

選手の打順毎に曲が響き、掲示板に映像が映る。選手たちそれぞれが曲を選んでいるらしく、曲調も歌詞も人それぞれで面白い。中田翔選手の曲ラスの「ショータイム」が頭から離れない。

素人過ぎて、今攻めなのか守りなのかなんども分からなくなって、相手チームがヒットを飛ばしたとき何度か間違って鳴り物を鳴らしてしまい反省した。

守備の途中で、喉が渇き席を立った。ペットボトルの持ち込みは禁止されているそうで、紙パックはいいらしいが、買い忘れていた。ドーム内の出店は半数ほどがしまっていて、寂しい印象だった。ホテルの出店で唐揚げとポテトと飲み物を買い先輩と分け合う。

その日はよく打つ日で、近藤選手は5打席5安打のスーパープレイだった。私たちはボールが飛ぶ度に手を叩き、選手がホームベースを踏む度に小さくハイタッチをして喜んだ。

試合終了。8対3で勝利した。

帰り支度を始めていると、対戦球団のメンバーがぞろぞろと整列し、帽子を取って一礼した。アウェイゲームで会場にいる観客の殆どはファイターズファンだった。でも試合が終わってみると、私たちは皆、鳴り物を鳴らし手を叩いて相手球団を労い、健闘を讃えた。

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抽選でサインボールの当たった先輩と、最終バスに向けて全力で走った。こんなに走ったのは数年ぶりだった。

バスの前で別れて乗り込み、席に座った。呼吸すると肺が痛かった。心臓がずっとドキドキしていた。

ケータイを開き、先輩から送られた観戦前の写真をみた。みんな笑顔だった。楽しかった。

数日後、私たちは会社で、月末の試合のチケットを購入した。

私は鳴り物を買い、ご満悦である。


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