素敵な人に素敵だねって言える人になりたい。
街中を歩いている人をさりげなく観察する癖がある。高校生の頃までは、知り合いが近くを通りかかることにも気づけなかったから、大学に上がってから癖になったんだと思う。
そんなとき、すてきだな、と目を惹かれてしまうようなご婦人がいる。彼女たちは、白髪を綺麗に結い上げていたり、毛先をピンクに染めて遊ばせていたり、真っ赤なルージュをつけていたり、春色の黄色いストールを巻いていたり、ハイヒールを履いていたり、アンティークのアクセサリを身に着けたりしている。
年を重ねながらなお一層、身だしなみに気を使ったり、おしゃれを楽しんだりしているご婦人を、すてきだな、と心から思う。
そんな人を見るたびに、自分も将来、通りかかった若い子に「すてきだな」って思ってもらえるような人になりたいって思う。
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忘れられないエピソードがある。
わたしは大学の帰り道、バスを降りて、駅に向かう途中だった。横断歩道で信号待ちをしていた。ネイビーのコートに幾何学模様の薄紫とピンクのストールを巻いて、お気に入りの真っ黒なバックパックを背負っていた。
「ねえ、あなた!」
いきなり声をかけられて驚いた。
隣を見ると、わたしの祖母と同じか少し上くらいの見かけのご婦人が、わたしをニコニコしながら見つめていた。
「そのリュック、とっても素敵ね。あなたの体形にとても似合ってるわ!」
わたしも思わずにこっとした。
わたしが背負ってるバックパックは、なかなかお気に入りのリュックが見つからなくて彷徨って入った商業ビルの雑貨ブースで、一目ぼれして買ったもの。ランドセルみたいって友人に言われるフォルムと排水性のマットな質感をとても気に入っていた。わたしは背丈がかなり低く、肩幅も狭いから、
”リュックに背負われ”ないようなリュックをずっと探していた。このバックはスタイリッシュで、小柄な私の背中にもぴったりと収まった。
この人は、わたしがこの鞄のどういったところを気に入り、どういった気持ちで身に着けているのかを、わかってくれたのだと感じた。
そして、見ず知らずの通行人として終わるはずだったわたしに、気持ちを伝えてくれたその行為が、うれしかった。
「ありがとうございます」
彼女と同じ電車に乗って、ちょっとおしゃべりして、会釈して別れた。
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あんな風に年を重ねておしゃれになりたいって思うわたしの傍には、
自分の孫くらいの年頃の子を見て素敵だねって言ってくれる人がいる。
わたしも思うだけじゃなくて、誰かに伝えたい。
素敵だねって日常的に言い合えたとしたら、
それってめちゃくちゃ素敵なことだ。
お気に入りのバックパック、いまでもずっと使ってる。
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