ブタの💖様、猪八戒になる

　20XX年、首都圏東京は水没した！
　エネルギーは底を尽き、食料は喰い尽くされた！
　だが都民は生き残っていた！

　北関東、グンマー・サファリパークの跡地に、一大帝国が築かれていた。
　ブタの💖様の国だ。その怪異な姿で恐れられ、暴力的に支配している。
　彼女は大陸出身と言われるが、オークキングのような姿をしている。
　猿兵同様、遺伝子改良人間とも言われているが、本当はよく分からない。
　部下は、全身に入れ墨を入れて、サバンナでスマホを持って潜んでいる。
　上半身裸で、トゲ付き肩パットをいからせて、バイクで疾走する集団だ。
　90年代の暴走族『仏恥義理』を起源とする集団だったが、軽武装化した。
　県境でトツィギと敵対している。鉄パイプで格闘し流血沙汰が絶えない。
　だがブタの💖様は、トツィギを征服するため、南関東と手を組んだ。
　関東一円の支配権を主張する重武装組織、シン・都知事の配下に入った。
　南関東では、水師提督として、ブタの💖様は仕えていた。天蓬元帥だ。
　水軍の将でもある。彼女は、真っ赤なビキニアーマーを装備している。
　絵柄的に、とてもじゃないが、お見せできない姿をしている。
　「……食い物はねぇか！」
　ブタの💖様は、モーターボートで、林立するビルの海を疾走していた。
　
　Tokyo Water Worldから、約20年が経過していた。
　日本列島は戦乱で漂流し、南方の新大陸を目指して、移民者が増えた。
　人口が流出し、人口が減少した日本では、地方自治体から崩壊した。
　メガロ・ポリスだった地域に文明圏を残して、各都市で対立していた。
　日本は統一政体の国ではない。新潟の中央政府は機能を喪失していた。
　Tokyoの荒廃ぶりは酷かったが、一部の都民たちは箱根の強羅にいた。
　箱根の山体から、謎の超古代遺跡が発見され、エネルギーが供給された。
　強羅の地熱の元だったようだが、膨大な熱量を生み出すので、役に立つ。
　熱エネルギーさえ得られれば、高度文明生活が再開できる。
　ここを新しいTokyoにしようという運動が起きていた。
　旧米軍も合流し、原子力空母の原子炉を提供し、発電所と化した。
　世界各地で、大津波で座礁した米空母を基点に、文明が再構築された。
　これはそんな時代、そんな世界に訪れた世紀末救世主伝説？である。
　
　猿渡空は、女の子と共に、20年後のTokyo Water Worldに現界した。
　「プリ〇ュア！キュアモンキー！」
　猿渡空はスマホを掲げると、霊装を纏って、孫悟空に変身した。
　変身バンクは僅か0,5秒、彼女の裸体は一瞬しか見えなかった。
　「キ〇トーン！」
　猿渡空は指笛を吹くと、少し黄色いクラウドが飛んで来た。
　「さぁ、一緒に乗って！」
　手を伸ばして、女の子をキン〇ーンに乗せた。
　「この世はデッカイ宝島！」
　二人は〇ントーンに乗ると、空を飛んだ。
　「ええと、まずは仲間を探すんだっけ？」
　風が気持ちいい。海の風だ。ビルの谷間を飛行する。
　「……はい、そうです。猪八戒です」
　「候補者は？ウーロンみたいな奴を探せばいいの？」
　「……烏龍？」
　女の子が小首を傾げると、猿渡空は解説した。
　「カメハウスで、女子のパンツを頭に被っている子ブタだよ」
　「……あー、それは違います」
　現界したので、女の子にもこの時代の基礎知識？はある。
　「でもウーロンって、猪八戒の成れの果てだよね」
　「……そうなんですか？」
　「女の子さらって嫁にするとか、猪八戒じゃん」
　初期設定は被っている。だがその後の展開は異なる。脇役だ。
　「……真面目に探して下さい」
　二人はキ〇トーンの上から、手をかざして、左右を見た。
　「もしかして、アレじゃない？」
　真っ赤なビキニアーマーを着た巨大なメスブタがいた。
　「……オークキング？」
　女の子も驚いた。モーターボートで突っ込んで来る。
　「……ブタの💖様だ！」
　跳躍すると、グレイトアックスを振り下ろして、斬り掛かって来た。
　思わず、如意棒で受け止めた。鍔迫り合いになる。
　「なんで戦うの？」
　猿渡空は、不思議そうに女の子に尋ねた。
　「……分かりません！」
　女の子がそう叫ぶと、猿渡空は微笑んだ。
　「オッケー。コレって少年誌的な熱いバトルをやればいいんだよね？」
　努力、友情、勝利がテーマだ。王道マンガだ。行け！キュアモンキー！
　激しく火花が散った。力任せに押し返す。一端、両者は離れた。
　彩雲とモーターボートで接戦しながら、何合か撃ち合った。
　だが下から攻撃するブタの💖様の方が、明らかに分が悪い。
　「……卑怯者！降りて戦え！」
　ブタの💖様は、モーターボートから、崩れたビルに飛び移った。
　猿渡空も、キン〇ーンに女の子を残して、足場に降り立った。
　「行くよ！」
　それからが猿渡空のターンだった。高速かつ猛攻だ。
　ブタの💖様は、押しまくられる。たちまち足場から飛んで逃げた。
　「……馬鹿力め！どういう膂力をしている。こちらは強化人間だぞ」
　「キュアモンキーは力持ちだよ！」
　猿渡空は、右腕で力こぶを作ってみせた。ホウレンソウが旨い。
　「……あなたも猪八戒になれば、さらに強くなれます！」
　その時、キ〇トーンに乗る女の子が叫んだ。ブタの💖様は振り向く。
　「……でもあなたは食欲が強過ぎます」
　ブタの💖様は、それがどうしたという顔をした。
　「……喰う、ヤル、寝るは人間の基本だろ」
　今回のカリス戦争で、三騎士は三大欲求によって召喚され、罰せられる。
　「……資格は十分です。霊装を受け入れるだけですが」
　ブタの💖様は考えた。倒さなければ、ならない敵がいる。
　「……何だか知らないが、それを受け入れれば、強くなれるんだな？」
　同盟のつもりが、逆に支配された。これではグンマーを守れない。
　「……はい、御仏の八戒を受け入れればそうなります。」
　女の子がそう答えると、ブタの💖様は、八戒？と首を傾げた。
　「……不殺生，不偸盗(ちゅうとう)，不邪淫(じゃいん)，不妄語(もうご)，不飲酒(おんじゅ)の五戒と不得過日中食戒、不得歌舞作楽塗身香油戒、不得坐高広大床戒の三戒です」
　「……最後の三つは何だ？意味がよく分からない」
　ブタの💖様が尋ねると、猿渡空が答えた。
　「贅沢するなという事でしょ。Tokyo Water Worldにはないものだよ」
　「……分かった。八戒を受け入れよう。ちょっとキツイが」
　女の子が、ブタの💖様の頭に、水を垂らした。灌頂（かんじょう）だ。
　ブタの💖様、猪八戒になるだ。こうして旅の二人目が集まった。
　
　だがその後、不意に武装組織が現れて、女の子が攫われた。
　あのテイル・ローター機は、旧SATだ。重武装組織の仕業だ。
　取り返しに行かねばならない。二人は旧都庁を目指した。
　孫悟空とブタの💖様は、それぞれ霊装を纏った。
　「そいつ、そんなに強いの？」
　「……ああ、強いな。Tokyo Water World最強だ」
　崩れた旧都庁のツインタワーの展望室に、その男はいた。
　シン・都知事だ。旧SATを中心とした重武装組織を率いている。
　ここまで銃撃戦があったが、霊装を纏った彼女たちの敵ではなかった。
　手榴弾や、7mm弾などの小火器は、完全に役に立たない。無効だ。
　20mm機関砲ぐらい持ってこないと、ダメージを与えられない。
　霊装を纏った彼女たちは単独で、戦車、戦闘機以上の強さがある。
　「……来たな。メスブタどもめ。童貞狩りは飽きたか？」
　シン・都知事は独り、立ち上がった。どこかで見た事がある。
　「……俺の東京に、天の差し金は要らぬ。ここは俺の国だ」
　その時、捕まった女の子が叫んだ。
　「……気をつけて下さい！その男はインキュバスになりました！」
　「……インキュバスって何だ？」
　ブタの💖様が尋ねると、猿渡空が答えた。
　「サキュバスの男版よ」
　前の世界で会った悪魔営業の影がちらついた。まだ生きている？
　「……地上で作られた人工的な霊装です。宇宙人の技術です」
　女の子が解説した。だが同じ霊装でも、ランクが異なる。
　「ひ〇ぶ！」
　だがブタの💖様は瞬殺された。猿渡空は呆れた。
　「とりあえず、倒しておくね」
　猿渡空は、孫悟空の物語に伝わる、最強の宝具を解放した。
　
　　　　　　　　　　　　『シン・聊斎志異（りょうさいしい）』補遺038