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SB742便、星の王子様と八人の美姫

 SB742便の乗員乗客は、全員捕らえられた。計301名だ。
 後ろ手でよく見えないが、エネルギー体で手錠のように拘束されている。
 グレイが制御用の棒を持って、乗客の列を作り、左右を固めた。
 どこかに連行されようとしている。飛行機はそのままだ。
 何だか、聖書で読んだバビロン捕囚みたいだった。
 ――さぁ、お前も早く行け!
 小銃を構えた二足歩行のワニは、アメリー・ルーに言った。念話だ。
 アメリーだけ、謎のエネルギー体で、厳重に緊縛されている。
 「ちょっとこれ、やめてよ」
 何だか、エロかった。意味が分からない。
 ――どうせ、お前は喰えない。不味い。殺処分だ。
 二足歩行のワニは、まるで汚いものでも見るような目で言った。
 どうやら、自分は美味しくないらしい。
 ――だから皮を剥いで、火あぶりにして、バラバラに切って、消し炭だ。
 アメリーは苦笑した。随分、恨みを買ったものだ。
 ――他の人は? 
 二足歩行のワニは、喜色を浮かべた。
 ――今夜は焼肉パーティーだ!欲望と恐怖が極上のタレだ。
 どうやら、自分は食べられず、他の人は食べられてしまうらしい。
 ――なぜ人を食べるの?
 ――美味しいからに決まっている。地球人の心は欲望と恐怖で一杯だ。
 二足歩行のワニは歩きながら、大口から涎を垂らしていた。
 ――それにこんな奴らでも食べれば、強くなれる。
 どうやら、それが狙いらしい。だから人を捕獲して食べている。
 ――人を食べてはいけない。野蛮人になる。
 ――お前らだって、牛や豚を喰っているだろう。それと同じだ。
 ――人は牛や豚と違う。
 ――何が違う?
 ――神様を信じている。尊くなれる。
 だから欲望や恐怖から離れる事ができる。
 ――それはお前だけの話だ。他の奴らはそうじゃない。
 アメリーは沈黙した。
 ――どうせ神様を信じていない奴らだ。食べた処でバチも当たらん。
 そんな事はないが、このままでは全員食べられてしまう。
 二足歩行のワニは、可笑しそうに嗤っていた。
 ――神様を信じていない奴に、神様の助けは来ないさ。
 逆を言えば、アメリーは助けを呼べる。理論上は。
 ――なぜ私は不味いの?
 ――お前は欲望や恐怖が少ない。だから味が薄くて、不味い。
 神様を信じているからだろう。だが現代人の大半は神様を信じていない。
 ――私の肉は美味しくないんだ……。
 ――食べられなくもないが、味付けが問題だ。
 レプタリアンはむしろ心、魂の方を食べる事が分かった。肉ではない。
 魂と肉体の間に、霊体と呼ばれるエネルギーがある。層と言ってもいい。
 それを食べて、エネルギーを増して、強くなろうとしているのだろう。
 食べられても、魂そのもの、心が消される訳ではない。
 ただ形が保てなくなって、一時的にドロドロな状態になるかもしれない。
 食べられて、消化されたという自己イメージを持つからだ。
 存在が消える訳ではないが、不名誉な死だ。傷が残る。
 それに長く迷って地上、いや、この場合、月面を彷徨う。
 月の裏側にドロドロお化けがいるなんて、NASAの笑い話にもならない。
 
 一行は、通路を抜けて、別のドームまで連れて行かれた。
 入口の左右に大きなトーテムがあった。人間の骨で積み上げられている。
 乗員乗客は悲鳴を上げて、恐怖した。これは一体何だ?悪夢か?
 一行は、10mを超える大型レプタリアンの前に連れて行かれた。
 頭に金の王冠を載せて、赤マントを着用し、偉そうな玉座に座っていた。
 「あ~!マ〇オとルイ〇ジの敵だ!」
 小さな男の子が指差して叫んだ。生憎だが捕まっている桃の姫はいない。
 足元に杯があり、真っ赤な骨付き肉が入っていた。皮を剥いだ人の脚か。
 王様レプタリアンは、一本手に取るとがぶりとやった。肉を引き千切る。
 槍を持った3~4m級の二足歩行のワニが複数いる。謁見の間か。
 ――まるで、野蛮人ね。恒星間航行技術が泣くわ。
 アメリーが指摘すると、王様レプタリアンは怒った。
 ――お前はスペシャルコースにご招待だ!
 ――ホントに人を食べていいと思っているの?
 アメリーは王様レプタリアンに、改心の機会を設けた。
 ――お前、どっちが勝者だと思っている?勘違いも甚だしい!
 ――難しい言葉を知っているのね。少しは頭がいい?
 王様レプタリアンはさらに怒った。頭から王冠がポーンと飛ぶ。
 ――お前の骨で打楽器を作ってやる!お前の頭蓋骨は木魚だ!
 ご丁寧にクロス・ボーンのイメージまで伝わってきた。海賊?
 ――あなたたち、悪さが過ぎて、故郷の星を追われたのね。
 はぐれレプタリアンのようだ。だから月の裏側で悪さをしている。
 ――地球人のくせになぜ分かる!確かにオレたちは海賊だ!
 月の裏側は、悪い宇宙人の塒(ねぐら)、隠れ場になっている。
 だからアメリカのNASAは、アポロ計画を途中で中止した。
 NASAは、月の裏側で、見てはいけないものを見た。月の遺跡だ。
 2010年代にネットで動画が流出した。10分くらいのムービーだ。
 月面に細長い骨組みみたいな建物が立っている。明らかに人工物だ。
 だがデザイン的に人類のものではない。それは見れば分かる。
 こいつらはまた別の連中だが、昔から月の裏側には何かいた。
 港から島が見えて、その島の裏側に根城を作る海賊みたいなものだ。
 ――海賊っていうのは、海軍に退治されるのが、お話の定番。
 ――抜かせ!尻を出せ!お前から串刺しだ!
 王様レプタリアンは、二足歩行のワニから槍を奪った。
 だがその時、ドーンと激しく振動がして、天井が崩れた。
 皆伏せて、一体何事かと上を見上げた。
 ドームに穴が開いて、人工天体のミニチュアみたいなものが浮いていた。
 その小型の人工天体から、無数のレーザーガンが雨あられと発射された。
 たちまち王様レプタリアンや二足歩行のワニたちは、穴だらけになった。
 ――クソッ!時空管理局か!覚えていろよ!
 悪い宇宙人たちは、武器を放り出して、その場から逃げ出した。
 アメリーは独り、見上げていた。雰囲気的に助かったと感じた。
 小型の人工天体は、玉座を押し潰して、着陸した。皆は伏せた。
 ハッチが空いて、中から人が出て来た。男の人だ。トーガを纏っている。
 「時空管理局だ。助けに来たぞ」
 その男は、古代ローマ風だった。茶髪の縮れ毛に、琥珀の瞳をしている。
 身長は190cmくらいある。壮年の男性だ。武器はない。丸腰だ。
 「……時空管理局?」
 アメリーが話しかけた。これは地球の言葉、フランス語だ。
 「ああ、そうだ。下請け外注だがな。臨時のプチ・ブールだ」
 「……ここには300人いるの。助けて」
 アメリーがそう言うと、ハッチから八人の女が降りて来た。
 やはりトーガを纏っており、古代ローマ風の若い女性たちだ。
 古代の女神か、神殿の巫女のように見える。ウェスタか。
 彼女たちは、乗客と乗員に近づくと、拘束を解放し、手当を始めた。
 アメリーの拘束は、トーガを纏った壮年の男が、一瞥しただけで解けた。
 見た目は、時代錯誤だが、とんでもない力を持っている事が分かった。
 地球人ではないだろう。だが人類に見える。何処の星から来たのか?
 「……助けてくれて、ありがとう」
 アメリーは、腕をさすりながら、トーガを纏った壮年の男を見た。
 「……あなたは何と呼べばいいの?」
 「ああ、俺か?星の王子様とでも呼んでくれ」
 アメリーは、じっと見つめた。どう見ても、違う。デカ過ぎる。
 「細かい事は気にするな。何でもいいだろう」
 確かにそれはそうだ。だがなぜ助けてくれたのか気になる。
 「奴らはやり過ぎだ。一度に300人も誘拐するのは目立ち過ぎる」
 今頃、地球では大騒ぎになっているだろう。旅客機が一機消失している。
 「だから俺に臨時の仕事が舞い込んだ訳だが、お前も目立っていた」
 大きな星の王子様は、じろりとアメリーを見た。
 「……少し抵抗しただけ。特別な事は何もしていない」
 「お前は多少、力がある。秘密も知っている。なぜだ?」
 「……それは修行したから。神様を信じている」
 大きな星の王子様は、やれやれと嘆息した。
 「まぁ、それはいい。一仕事したら、全員移動だ。飛行機に乗れ」
 アメリーは目をぱちくりした。もう地球に帰れるのか?
 「……それはダメだ。取り調べがある」
 大きな星の王子様は、作業をしている八人の女たちを見ていた。
 「じゃあ、何処に行くの?」
 「……火星だ。火星ジオフロントだ」
 それがSB742便、星の王子様と八人の美姫だった。
 
            『シン・聊斎志異(りょうさいしい)』補遺023

『SB742便、火星ジオフロント』 SB742便 4/5話


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