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[英詩]詩形の基礎知識(14)——Blank Verse-3

※ 旧「英詩が読めるようになるマガジン」(2016年3月1日—2022年11月30日)の記事の避難先マガジンです。リンク先は順次修正してゆきます。

「英詩のマガジン」の主配信の12月の1回目です(英詩の基礎知識)。

詩形の基本原理を考えています。今までに One と Two と Three と Four とを扱いました。1行連、2行連、3行連、4行連です。また、数について考えました。

おさらいすると、One については、1行連がすべての詩形の基礎の一つであること、英詩の最小の単位としての1行連にはいろいろなアプローチがあること、完結した文か句跨りのどちらかであること、などを見ました。haikuやwakaも見ました。

Two については、ふつうの定型詩の議論は2行連に始まること、アプローチは多彩であること、アフリカのバントゥー族の詩や、英詩のカプレット、chiasmus, epigram, ペルシア起源のガザル(ghazal)などを見ました。

Three については、ダンテの『神曲』の terza rima (三韻句法) の展開、古今の詩人たちの交響のなかに詩的集合知が脈打つさま、モダニズムの3行連の実験 (Williams, Stevens, H. D.)、ブルーズ連 (Hughes, Brown) などをみました。

Four については、中期英語以来現代に至るまで、4行連が定型詩の基本として用いられ続けていること、4行連で魅力あると考えられた押韻形式は abcb のパタンであること、最古の4行連の一つバラッド・スタンザが賛美歌や Dickinson の場合に common meter と名前を変えつつ(現代のボブ・ディランに至るまで)用いられていること、4行連には五歩格から二歩格まで無数のヴァリエーションがあることなどをみました。

数については、詩における形とはつまるところ、数であること、私たちは数える者なのであること、私たちは存在の核において、パタンと、パタンの崩れとを、数え、注目する者なのであることをみました。行や句や連、音節、単語、強勢音節、非強勢音節、詩脚、脚韻を私たちは詩において数えるのです。リズムの動きに耳をすますのです。

前回と前々回は無韻詩(blank verse)について見ました。主として、ハス (Robert Hass) の詩形についての考察に依拠して、無韻詩について考えました ('A Little Book on Form', 2017; 下の写真)。

その際、ハスが「ブランク・ヴァースは、自由詩において非定形の連をどうすればいいのかのモデル」になり得るといい、その具体的な例として Wordsworth の 'Tintern Abbey' を見ました。その詩が収められたワーズワースとコールリジの共著詩集 'Lyrical Ballads' について、「Lyrical Balladsノート」で少し見ました。さらに前回は、そこを掘下げ、'Lyrical Ballads' においてブランク・ヴァースが現れることの意味を考えました。

今回は、ハスの議論に戻ります。5人の詩人によるブランク・ヴァースの作品を見ます。

目次
 ワーズワース
 ブラウニング
 エリオット
 フロスト
 スティーヴンズ

※「英詩が読めるようになるマガジン」の本配信です。コメント等がありましたら、「[英詩]コメント用ノート(201812)」へどうぞ。

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英詩の実践的な読みのコツを考えるマガジンです。
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【内容】〈英詩の基礎知識〉〈歌われる英詩1〉〈歌われる英詩2〉の三つで構成します。
【取上げる詩】2018年3月からボブ・ディランを集中的に取上げています。英語で書く詩人として最新のノーベル文学賞詩人です。
【ひとこと】忙しい現代人ほど詩的エッセンスの吸収法を知っていることがプラスになります! 毎回、英詩の実践的な読みのコツを紹介し、考えます。▶︎英詩について、日本語訳・構文・韻律・解釈・考察などの多角的な切り口で迫ります。

これまでに扱った基礎知識のトピックについては「英詩の基礎知識 バックナンバー」(「英詩の基礎知識(6)」に収録)をご覧ください。

伝統歌の基礎知識(1)——ポール・ブレーディの場合」「伝統歌の基礎知識(2)——ボブ・ディランの場合」「伝統歌の基礎知識(3)——'Nottamun Town'」もあります。

Bob Dylanの基礎知識(1)」「Bob Dylanの基礎知識(2)」「Bob Dylanの基礎知識(3)」「Bob Dylanの基礎知識(4)」もあります。

バラッドの基礎知識(1)」「バラッドの基礎知識(2)」もあります。

ブルーズの基礎知識(1)」「ブルーズの基礎知識(2)」「ブルーズの基礎知識(3) 'dust my broom'」もあります。

[英詩]詩形の基礎知識(1)——tail rhyme」「[英詩]詩形の基礎知識(2)——sonnet」「[英詩]詩形の基礎知識(3)——One」「[英詩]詩形の基礎知識(4)——Two」「[英詩]詩形の基礎知識(5)——Three (前篇)」「[英詩]詩形の基礎知識(6)——Three (後篇)」「[英詩]詩形の基礎知識(7)——Four-1」「[英詩]詩形の基礎知識(8)——Four-2」「[英詩]詩形の基礎知識(9)——Four-3」「[英詩]詩形の基礎知識(10)——Four-4」「[英詩]詩形の基礎知識(11)——Numbers」「[英詩]詩形の基礎知識(12)——Blank Verse-1」「[英詩]詩形の基礎知識(13)——Blank Verse-2」もあります。

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ハスの議論に戻って、5人の詩人によるブランク・ヴァースの例を見る。

いづれの場合も、注目は行と文との関係である。句跨りがどのように表現力豊かに用いられているか、逆に行と文が一致するのは、いつ、どのようにして、どんな効果を上げるべく、用いられているか。

ブランク・ヴァースは無韻の弱強五歩格の詩形である。その特徴は〈句跨りをなめらかに用いることができる〉ことにある(オクスフォード文芸用語辞典)。

それが無韻ゆえの特徴である。無韻ならば、行末で構文が切れない。

有韻ならば、行末で構文が切れる。

これはあくまでそういう傾向があるというだけである。例外はもちろんあり、無韻でも行末で構文が切れることがある。有韻でも行末で構文が切れないことがある。

なぜ、そうなるのか。おそらく、行末で押韻する場合は、そこで意味が切れ、構文が切れることが意識されるのだろう。切れたほうが押韻がよく耳に残る。句跨りになれば、行末の意識が薄れる。

弱強のリズムを一行に5回繰返すなかで、行末に押韻があるのと、ないのとで、どれだけ違うのか。

そのあたりの行と文との機微を以下の例で探ってみよう。


■ ワーズワース

ウィリアム・ワーズワース (William Wordsworth, 1770-1850, 下)の自伝的長編詩 'Prelude'「序曲」 (1805) から。ブランク・ヴァースの代表的作品の一つ。

Nor less when spring had warmed the cultured Vale,
Moved we as plunderers where the mother-bird
Had in high places built her lodge; though mean
Our object and inglorious, yet the end
Was not ignoble. Oh! when I have hung
Above the raven's nest, by knots of grass
And half-inch fissures in the slippery rock
But ill sustained, and almost (so it seemed)
Suspended by the blast that blew amain,
Shouldering the naked crag, oh, at that time
While on the perilous ridge I hung alone,
With what strange utterance did the loud dry wind
Blow through my ear! the sky seemed not a sky
Of earth—and with what motion moved the clouds!

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