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[英詩]詩形の基礎知識(12)——Blank Verse-1

※ 旧「英詩が読めるようになるマガジン」(2016年3月1日—2022年11月30日)の記事の避難先マガジンです。リンク先は順次修正してゆきます。

「英詩のマガジン」の主配信の10月の1回目です(英詩の基礎知識)。

詩形の基本原理を考えています。今までに One と Two と Three と Four とを扱いました。1行連、2行連、3行連、4行連です。また、数について考えました。

おさらいすると、One については、1行連がすべての詩形の基礎の一つであること、英詩の最小の単位としての1行連にはいろいろなアプローチがあること、完結した文か句跨りのどちらかであること、などを見ました。haikuやwakaも見ました。

Two については、ふつうの定型詩の議論は2行連に始まること、アプローチは多彩であること、アフリカのバントゥー族の詩や、英詩のカプレット、chiasmus, epigram, ペルシア起源のガザル(ghazal)などを見ました。

Three については、ダンテの『神曲』の terza rima (三韻句法) の展開、古今の詩人たちの交響のなかに詩的集合知が脈打つさま、モダニズムの3行連の実験 (Williams, Stevens, H. D.)、ブルーズ連 (Hughes, Brown) などをみました。

Four については、中期英語以来現代に至るまで、4行連が定型詩の基本として用いられ続けていること、4行連で魅力あると考えられた押韻形式は abcb のパタンであること、最古の4行連の一つバラッド・スタンザが賛美歌や Dickinson の場合に common meter と名前を変えつつ(現代のボブ・ディランに至るまで)用いられていること、4行連には五歩格から二歩格まで無数のヴァリエーションがあることなどをみました。

数については、詩における形とはつまるところ、数であること、私たちは数える者なのであること、私たちは存在の核において、パタンと、パタンの崩れとを、数え、注目する者なのであることをみました。行や句や連、音節、単語、強勢音節、非強勢音節、詩脚、脚韻を私たちは詩において数えるのです。リズムの動きに耳をすますのです。

今回は無韻詩(blank verse)についてです。主として、ハス (Robert Hass) の詩形についての考察に依拠して、無韻詩について考えてゆきます ('A Little Book on Form', 2017; 下の写真)。

無韻詩について考えてゆくと、詩における脚韻や、無韻詩の英詩における伝統などが思い浮かびます。見て行きましょう。

目次
Blank Verse とは
Blank Verse と連 (1)
Blank Verse の歴史
Blank Verse と連 (2)

※「英詩が読めるようになるマガジン」の本配信です。コメント等がありましたら、「[英詩]コメント用ノート(201810)」へどうぞ。

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英詩の実践的な読みのコツを考えるマガジンです。
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【ひとこと】忙しい現代人ほど詩的エッセンスの吸収法を知っていることがプラスになります! 毎回、英詩の実践的な読みのコツを紹介し、考えます。▶︎英詩について、日本語訳・構文・韻律・解釈・考察などの多角的な切り口で迫ります。

これまでに扱った基礎知識のトピックについては「英詩の基礎知識 バックナンバー」(「英詩の基礎知識(6)」に収録)をご覧ください。

伝統歌の基礎知識(1)——ポール・ブレーディの場合」「伝統歌の基礎知識(2)——ボブ・ディランの場合」「伝統歌の基礎知識(3)——'Nottamun Town'」もあります。

Bob Dylanの基礎知識(1)」「Bob Dylanの基礎知識(2)」「Bob Dylanの基礎知識(3)」「Bob Dylanの基礎知識(4)」もあります。

バラッドの基礎知識(1)」「バラッドの基礎知識(2)」もあります。

ブルーズの基礎知識(1)」「ブルーズの基礎知識(2)」「ブルーズの基礎知識(3) 'dust my broom'」もあります。

[英詩]詩形の基礎知識(1)——tail rhyme」「[英詩]詩形の基礎知識(2)——sonnet」「[英詩]詩形の基礎知識(3)——One」「[英詩]詩形の基礎知識(4)——Two」「[英詩]詩形の基礎知識(5)——Three (前篇)」「[英詩]詩形の基礎知識(6)——Three (後篇)」「[英詩]詩形の基礎知識(7)——Four-1」「[英詩]詩形の基礎知識(8)——Four-2」「[英詩]詩形の基礎知識(9)——Four-3」「[英詩]詩形の基礎知識(10)——Four-4」「[英詩]詩形の基礎知識(11)——Numbers」もあります。

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Blank Verse とは

ブランク・ヴァース「無韻詩」とは何かについて、ハスは説明していない。英詩においては常識ということかもしれない。そこで、簡単に説明してみる。

基本的に無韻の弱強五歩格の行が続く詩形である。連はない。

無韻、つまり韻をふまない。

弱強五歩格、つまり弱強(iambus)の詩脚(韻律の最小単位)が1行あたり5つある。音節数は10 (=2x5)である。

以上を英語で表現すれば unrhymed lines of iambic pentametre ということになる。

OED は blank verse を次のように説明する。

verse without rime; esp. the iambic pentameter or unrimed heroic, the regular measure of English dramatic and epic poetry, first used by the Earl of Surrey (died 1547).

つまり、韻(rime)が空白(blank, void, empty)である詩、特に弱強五歩格の詩ということである。

テニスンの 'Ulysses' (1842) が典型例。

One equal temper of heroic hearts,
Made weak by time and fate, but strong in will
To strive, to seek, to find, and not to yield.

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