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[英詩]詩形の基礎知識(9)——Four-3

※ 旧「英詩が読めるようになるマガジン」(2016年3月1日—2022年11月30日)の記事の避難先マガジンです。リンク先は順次修正してゆきます。

「英詩のマガジン」の主配信の7月の1回目です(英詩の基礎知識)。

詩形の基本原理を考えています。今までに One と Two と Three を扱いました。1行詩、2行詩、3行詩です。

おさらいすると、One については、1行詩がすべての詩形の基礎の一つであること、英詩の最小の単位としての1行詩にはいろいろなアプローチがあること、完結した文か句跨りのどちらかであること、などを見ました。haikuやwakaも見ました。

Two については、ふつうの定型詩の議論は2行詩に始まること、アプローチは多彩であること、アフリカのバントゥー族の詩や、英詩のカプレット、chiasmus, epigram, ペルシア起源のガザル(ghazal)などを見ました。

Three については、ダンテの『神曲』の terza rima (三韻句法) の展開、古今の詩人たちの交響のなかに詩的集合知が脈打つさま、モダニズムの実験 (Williams, Stevens, H. D.)、ブルーズ連 (Hughes, Brown) などをみました。

今回は Four の3回目です。主として、ハス (Robert Hass) の詩形についての考察に依拠して、4行詩について考えてゆきます ('A Little Book on Form', 2017; 下の写真)。

前回に引続き、各種の詩形がさまざまの姿をみせる4行詩です。自由詩における4行詩も扱います。お楽しみに。

目次
承前
ロシアのアクメイスト詩
自由詩の4行連
 Whitman
 Pound

※「英詩が読めるようになるマガジン」の本配信です。コメント等がありましたら、「[英詩]コメント用ノート(201807)」へどうぞ。

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英詩の実践的な読みのコツを考えるマガジンです。
【発行周期】月3回配信予定(他に1〜2回、サブ・テーマの記事を配信することがあります)
【内容】〈英詩の基礎知識〉〈歌われる英詩1〉〈歌われる英詩2〉の三つで構成します。
【取上げる詩】2018年3月からボブ・ディランを集中的に取上げています。英語で書く詩人として最新のノーベル文学賞詩人です。
【ひとこと】忙しい現代人ほど詩的エッセンスの吸収法を知っていることがプラスになります! 毎回、英詩の実践的な読みのコツを紹介し、考えます。▶︎英詩について、日本語訳・構文・韻律・解釈・考察などの多角的な切り口で迫ります。

これまでに扱った基礎知識のトピックについては「英詩の基礎知識 バックナンバー」(「英詩の基礎知識(6)」に収録)をご覧ください。

伝統歌の基礎知識(1)——ポール・ブレーディの場合」「伝統歌の基礎知識(2)——ボブ・ディランの場合」「伝統歌の基礎知識(3)——'Nottamun Town'」もあります。

Bob Dylanの基礎知識(1)」「Bob Dylanの基礎知識(2)」「Bob Dylanの基礎知識(3)」「Bob Dylanの基礎知識(4)」もあります。

バラッドの基礎知識(1)」「バラッドの基礎知識(2)」もあります。

ブルーズの基礎知識(1)」「ブルーズの基礎知識(2)」「ブルーズの基礎知識(3) 'dust my broom'」もあります。

[英詩]詩形の基礎知識(1)——tail rhyme」「[英詩]詩形の基礎知識(2)——sonnet」「[英詩]詩形の基礎知識(3)——One」「[英詩]詩形の基礎知識(4)——Two」「[英詩]詩形の基礎知識(5)——Three (前篇)」「[英詩]詩形の基礎知識(6)——Three (後篇)」「[英詩]詩形の基礎知識(7)——Four-1」「[英詩]詩形の基礎知識(8)——Four-2」もあります。

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承前

最古の4行連の一つはバラッド・スタンザである。

中期英語詩が、強勢と音節に基づく韻律(accentual syllabic meter)にたどり着くと、ただちに4行連で形が整えられることになる。

魅力あると考えられた4行連は abcb のパタンであった。

4行詩の構成にはいろいろな組合せがある。

パウンドとエリオットとはモダニズムの締まりある詩形として4行連に向かった。

4行連の詩脚数は基本的に5種類ある。行あたり5詩脚から3詩脚まで幅がある。

その他に、無数のヴァリエーションがある。

4行連は基本の型が決まれば自在に変奏できる。

4行連の形式は、さまざまの時代に、さまざまな目的に用いられた。

ルネサンス期には、4行連が歌の形式として用いられた。

17世紀、王党派の詩人の間では4行連はほぼつねに歌と結びつけて考えられた。

18世紀における重要な発展は、アイザック・ワッツに始まるプロテスタントの賛美歌だった。

18世紀のもう一つの発展は、五歩格の4行連である。トマス・グレイの詩はElegiac Stanza と呼ばれ、19世紀じゅうを通じて模倣された。

19世紀に入りヴィクトリア朝の詩人はこれらすべての詩形を用いた——叙景的思索的な五歩格、物語的4行連、歌、祈り、バラッド。


ロシアのアクメイスト詩

20世紀初頭に、イマジズムに相当するロシアの文学運動アクメイズム (Acmeism) が起こった。

これは自由詩ではなく、象徴派の曖昧を排し、古典主義の硬質性へと向かう運動だった。

好まれた韻律は四歩格のカプレットで、それを用いてマンデリシタム (Osip Mandelstam)、アフマートヴァ (Anna Akhmatova)、ツベターエワ (Marina Tsvetaeva) それに、運動のメンバーでないがパステルナーク (Boris Pasternak) らがすばらしい作品をつくった。ここでは英訳でいくつか作品をみる。

マンデリシタムの「石」(1913) の4行連をいくつか、別々の翻訳でみる。まず、最初に次の作品。

An apple drops to the ground,
toneless, precise
–and all around
the song of the trees, the forest silence . . .
(Tr. Burton Raffael)

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